【地方創生 第9弾】エイサー班の転換。空論を捨て、泥にまみれる。大山の湧水と琉球蓮根への最終決断
◆ 激動のグスク班の翌日、もう一つの「覚悟の決断」
先々週お届けした番外編③では、残された3週間というタイムリミットを前に、「課題調査の沼」でバタフライピーかヤギミルクかで揺れ動くグスク班に、迷いを断ち切るためのフィードバックを送った記録をお伝えしました。
実は、そのグスク班が悶絶していたのと全く同じ週、もう一つの中心軸であるエイサー班でも、プロジェクトの命運を分ける地殻変動が起きていたのです。
振り返れば彼らは、第2回議事録で「プライベートを大切に、会議は40分以内」というスマートなタイパ戦略を掲げてスタートしたチームでした。その後、沖縄の最もデリケートなテーマである「米軍基地と多文化共生」に知性と勇気で挑み、前回の第6弾では、台風9号の強風が窓を叩く中、完璧な机上の空論を投げ捨てて宜野湾の街へと飛び出していきました。
現場の洗礼を浴び、泥をかぶる覚悟を決めた彼らが、7月第4週の定例ミーティングで提出してきた議事録。そこには、これまでの空論を脱ぎ捨て、現実の土壌に深く根を張るための、大きな戦略転換の瞬間が刻まれていました。
◆ 空論の終焉と、勇気ある転換
エイサー班が下した決定、それは
「メインテーマを『米軍基地・多文化共生』から『宜野湾市・琉球蓮根』へと完全にシフトする」
という、驚くべき軌道修正でした。
彼らが当初目指していた基地との交流アプローチは、国際交流人材育成財団へのヒアリングによって、「承認手続きに2週間を要する」「運用が変わりやすい」という時間的制約と基地内への入場規制という現実の壁に直面しました。特産「田芋」についても、持続的な供給保証の難しさ(宜野湾市大山地区の生産者は2農家にまで減少)という課題が浮き彫りになっていました。
ここで多くのチームなら、「最初に決めたテーマだから」とメンツにこだわり、進まない計画に執着したかもしれません。
しかし、彼らは違いました。
これまでの調査と並行して、自分たちの足で泥臭くリサーチし続けていたオリジナル資源「琉球蓮根(A氏)」へと、一瞬の迷いもなくフォーカスを絞り込んだのです。
塾生に細かな指示を与えず自発性を促すために設けた空白の中で、彼らは自分たちの力で、新たな光明を掴み取りました。
◆ 「琉球蓮根」が持つ、圧倒的な大義
彼らが選んだ「琉球蓮根」は、単なる一農産物ではありません。
台湾・中国系の蓮根であり、皮が黒くならず、アク抜きが不要で、驚くほどの甘みを持つ「日本ではA氏のみが栽培している」という唯一無二の希少な地域資源です。
現在、宜野湾市大山の田芋農家は全盛期から激減し、区画整理や市街地転用の計画など、存続の危機に瀕しています。しかし、この大山地区には「琉球王朝時代から続く、栄養価が極めて高い豊富な湧水」という、歴史的な価値が存在します。
大山の土壌と湧水でこそ美しく育つ琉球蓮根を軸に据えること。それは、田芋農地の景観と湧水環境を守りながら、大山の農業を持続可能なものにする「農地再生・環境循環モデル」を描くという、社会的価値の高い大義へと昇華されるのです。
A氏の「良いものを残したい」という情熱と、11月に予定されているテレビ取材という追い風。彼らは、事業としての自走可能性を高く評価される、強力な土台を手に入れました。
◆ 「基地」から「地域」へ。実装される共創のかたち
当初、エイサー班が「米軍基地と多文化共生」という言葉で目指そうとしていた「共創」の理念は、この琉球蓮根という資源を通すことで、より確かな形で地域に実装されることになります。
私は彼らに、かつて準優秀チームに輝いた先輩たちのプラン(西原おからの「てから・ちから・たから」や、山城茶を蘇らせた三世代ストーリー)をロールモデルに、単なる一農家のビジネス応援に留まらない、市民総参加のプランとして、3つの巻き込み視点を提示しました。
教育現場を巻き込む「食育と大山の魅力体験」
宜野湾市内の小学校や高校と連携し、子どもたちが大山の湧水環境を学び、泥まみれになって琉球蓮根を収穫する体験学習を設計する。「アク抜き不要で甘い」特性を活かし、学校給食への定期導入を狙う。子どもたちの感動体験が、そのまま家庭へと広がっていくことを目指します。
JA・自治会・商店街を巻き込む「地産地消フードネットワーク」
大山自治会やJAおきなわ、地元の飲食店や商店街を巻き込んだ「琉球蓮根メニューフェア」や共同商品開発を仕掛ける。荒川氏個人を支援するのではなく、地域が一体となってサプライチェーンを構築し、利益を地域内で循環させる仕組みこそが、自走可能なプランとなります。
基地との、共創の余白を残す
資源は蓮根に絞るものの、彼らは基地との交流のテーマを無駄にしません。将来的な可能性として、琉球蓮根や田芋を使った「大山アメリカンピザ創作ワークショップ」を、基地内の教育機関伸ばし協力を得て開催する可能性を残しています。
「物理的な壁はあるが、大山の湧水と食文化はその壁を越えて人を繋ぐ」
当初、彼らがパワーポイントの上で描いていたストーリーが、泥臭い蓮根を通じて、ついに現実としての可能性が出て来ました。
◆ 情熱と大義を引き出す、3つの問い
戦略転換に大賛成した私は、彼らが「ナチュラルトーン(A氏の飲食店)」へ各自足を運んで試食し、大山の湧水現場を確認するにあたり、生産者の本音を引き出すためのヒアリング設計を授けました。
相手の警戒心を解き、損得勘定を超えた未来の情熱を引き出すための、3ステップの問いかけです。
STEP1:歴史に迫る
「台湾・中国系の蓮根を日本で唯一、ここ沖縄で栽培するに至るまでの最大の壁と、それを乗り越えた原動力は何ですか。初めて食べたあの瞬間の感動を教えてください」
STEP2:大義を言語化する
「宜野湾市大山が誇る湧水の価値を、次の10年、20年の子どもたちの未来にどう残したいですか」
STEP3:当たり前の価値を再発見する
「日々の作業の中で、ここだけは譲れないこだわりは何ですか。Aさんが一番美しいと思う大山畑の風景は、どの瞬間ですか」
そしてエイサー班には、銀行、環境研究所、JTB、市役所、ホテルといった、地域活性化に関連した強みを持つメンバーが揃っています。ヒアリングの最後に、このプロたちの背景をぶつける、もう一つの問いを仕掛けるよう伝えました。
「私たちは、Aさんの本気に惚れ込みました。もし一緒にこのプロジェクトを創るとしたら、私たちに何を任せてみたいですか」
一過性の研修相手ではなく、本気で宜野湾の未来を創るビジネスパートナーとして、相手の心に火をつけるための問いかけです。
◆ あなたの職場では、「正しい軌道修正」を称賛できていますか
多くの組織では、一度決まった方針を覆すことは「ブレ」「一貫性のなさ」として、ネガティブに捉えられがちです。
しかし、現場のリアルな壁にぶつかったとき、空論にしがみつかず、自ら掴んだ一次情報をもとに「こちらの方が大義がある」と果敢に転換できる柔軟さこそ、今の時代に求められるリーダーシップではないでしょうか。
空論を捨て、大山の泥と湧水の中に飛び込んだエイサー班。
8月12日の地域資源決定という最初のマイルストーンに向けて、腹をくくった彼らが、どんなドラマを描き出すのか。指導者として、楽しみに待っています。
まだ、Aさんとの本当の対話は始まったばかりです。
彼らが引き出す「情熱と大義」の答えが、どんな形で返ってくるのか。
その続きを、私も一緒に見届けたいと思います。
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