色眼鏡 アマノ文筆クラブ
最近、どうにもつまらない。
会社では係長にネチネチと嫌味を言われる。
先週は、彼女に一方的に振られた。
家にいても、どんよりとした気分になるので、街へ出てきた。
楽しそうにはしゃぐ子供達。
幸せそうなカップル。
自信に満ち溢れた顔のサラリーマン。
そういう人たちの脇を、下を向いて通り過ぎていく。
灰色のアスファルトが、こっちを見ている気がした。
「そこのお兄さん、ちょっと寄っていきなよ」
そう声が聞こえて、顔を上げた。
道端で、ドレッドヘアの男が手招きをしていた。
怪しげな色眼鏡をかけている。
「ちょっと、見ていきなよ」
男の前には、さまざまな雑貨が並べられていた。
「色々あるから、きっと気に入るものがあるよ」
どうせ、暇を持て余している。
少し、見ていくことにした。
「これなんかどう?」
男はブレスレットを差し出してきた。
「開運のブレスレット。今なら5千円」
やはり、胡散臭い。
背を向けると、男が慌てて呼び止めた。
「お兄さん、最近つまらないでしょ。ここにお兄さんの憂鬱を吹き飛ばすものがあるよ」
そう言って、今度はサングラスを渡してきた。
「そのサングラスはね、そのときの気分に合わせて色が変わるんだよ」
なんの変哲もないサングラスだ。
「今なら2千円でいいよ。出血大サービス。一日一善ね」
男はサングラスを押し付けてきた。
2千円なら、嘘でもまあいいか。
これから日差しも強くなる季節だ。
少なくとも、サングラスとしては無駄にならないだろう。
サングラスをかけて歩き出した。
眩しかった世界が、少し落ち着いて見えた。
突然、世界が黄色く染まった。
サングラスの色が変わったのだと気づくまで、少し時間がかかった。
沿道で大道芸人がジャグリングをしている。
三本のクラブが宙を舞っている。
思わず足を止めて見入ってしまった。
一本のクラブが空高く舞い上がった。
大道芸人がそれを受け止めた次の瞬間、三本のクラブは三つのボールに変わっていた。
あちこちから拍手が上がる。
気がつくと、自分も大きな拍手を送っていた。
なんだか、少し、楽しくなった。
世界が、緑色に染まった。
街路樹が活き活きと枝を張っている。
足元の花壇には、地面を覆うような草花や、風に揺れる細い葉が植えられていた。
先ほどまではアスファルトにしか、気が付かなかった。
世界はこんなにも色鮮やかだった。
先ほどまでの憂鬱さはなくなっていた。
街を歩くのが、楽しくなってきた。
世界が、ピンク色に変わった。
今度は、なんだろうか。
こちらに歩いてくる女性とすれ違うときに肩が触れた。
「すみません」
思わず謝って、女性を見て固まってしまった。
とても魅力的な女性だった。
女性もこちらを見てじっとしている。
「もしよかったら、お茶でもしませんか」
いつもなら言わないような言葉が、自然と口をついて出た。
女性は小さく、はいと答えた。
女性と近くの喫茶店に入った。
話してみると、不思議なくらい気が合った。
初めて会ったばかりなのに、会話が途切れない。
軽くお酒でも、ということになり、二人で近くのバーへ入った。
バーでも話が弾んだ。
このまま別れるのが惜しくなった。
女性に連絡先を聞いた。
世界が黒くなった。
「おい、兄さん、俺の女に何しとるんだ」
振り返ると、黒いスーツの男がこちらを睨んでいた。
下記お題に参加させていただきました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
色眼鏡の続編です。
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