Photo by
sora_plus11
改札の向こう側(エッセイ)
改札を抜けたあと、人は少しだけ歩く速度を上げる。
急いでいるというより、急いでいる姿を保とうとしているように見える。
改札は通過点だが、通過したあとの空間には、まだ行き先の顔がない。
ホームへ向かう人、出口へ向かう人、ただ流れに乗って歩く人。
目的は違っても、動き方はよく似ている。
改札の向こうでは、
人はもう一度、役割を着直す。
仕事に向かう人は仕事の顔をし、帰る人は疲れた顔をし、行き先のはっきりしない人は、考えごとに逃げ込む顔をする。
それは意識して選ばれているわけではない。
改札を通ると、自動的に呼び出される。
改札は、通れるかどうかだけを判断する。
その先でどんな一日を過ごすのかまでは関知しない。
それでも人は、改札を抜けると、次の段階に入った気になる。
けれど、こちら側と向こう側で世界が変わるわけではない。
変わるのは、そう信じた自分の姿勢だけだ。
改札は、境界を作る装置ではなく、境界があると思わせる装置なのかもしれない。
だから私たちは、今日も疑いなく通過する。
役割を着直しながら。
その先で始まるものが、本当に新しいのかも確かめずに。
-------------------------------------------------------
こちらも、どうぞ
