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改札の向こう側(エッセイ)

改札を抜けたあと、人は少しだけ歩く速度を上げる。

急いでいるというより、急いでいる姿を保とうとしているように見える。

改札は通過点だが、通過したあとの空間には、まだ行き先の顔がない。

ホームへ向かう人、出口へ向かう人、ただ流れに乗って歩く人。

目的は違っても、動き方はよく似ている。

改札の向こうでは、

人はもう一度、役割を着直す。

仕事に向かう人は仕事の顔をし、帰る人は疲れた顔をし、行き先のはっきりしない人は、考えごとに逃げ込む顔をする。

それは意識して選ばれているわけではない。

改札を通ると、自動的に呼び出される。

改札は、通れるかどうかだけを判断する。

その先でどんな一日を過ごすのかまでは関知しない。

それでも人は、改札を抜けると、次の段階に入った気になる。

けれど、こちら側と向こう側で世界が変わるわけではない。

変わるのは、そう信じた自分の姿勢だけだ。

改札は、境界を作る装置ではなく、境界があると思わせる装置なのかもしれない。

だから私たちは、今日も疑いなく通過する。

役割を着直しながら。

その先で始まるものが、本当に新しいのかも確かめずに。

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