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【SF小説】新・木漏れ日荘のアオイさん 第21回 新しい友達 前編

新しい友達



【読了目安:8分】


端方市のバー Minami's

先ほどから、美波はカウンターに
座っている女性を気にしていた。

待ち合わせ、と思ったのだが
すでに1時間、彼女は一人きりだった。

あまりお酒が強くはないらしい。
ホワイトレディのショートグラスが
ほとんど減っていない。

「新しいの、お作りしましょうか」

そういうと美波はそっとグラスを取った。

「カルーアミルクです。」

コーヒーリキュールのミルク割り。
見栄えは綺麗だが、美波の感覚では
これはほぼジュースのようなものだ。


現れた男

スマホを、退屈そうに眺めていた
女性の表情がパッと輝いた。

入り口に、洒落たスーツにコートの男が
入ってきたところだった。

「綾乃、待たせたな。」

そういうと、女性の隣に座る。

「水割り」とこちらを見もせずに言う
声が何かざらついていて、美波は
チラリと見た男を嫌な感じだと思った。

「あ、アキラを、待っていたから。。。」
綾乃と呼ばれた女性は、美波が見た
ところ20代前半だろう。

ちょっとおどおどしているな、思う。

「わりい。俺、他に約束あってさ」

「で、でも、あの…」

口ごもる綾乃に、男はおっかぶせる。

「なんだよ、別にいいだろ」
「……」

「チッ、鬱陶しいなぁお前!
あそうそう、ちょっと貸してくれよ」

そういうと男は手を出した。

「え、でもこの間の分…」
弱々しい抗議はあっさり却下される。

「うるせえな!!いいから早く」

美波がそっと水割りを男の前に置く。

「じゃあ、あの。。。あたしも一緒に…」

男は水割りを一息に飲み干すと
もう立ち上がっていた。

「お前は来なくて良いんだよ。
どうせ面白い話の1つもできねえ、
鬱陶しい顔でこられたって困るんだよ。」

綾乃、と呼ばれた女性はもう答えなかった。

置かれたロンググラスの前に、
ポタリ、と雫が落ちる。

男はイラついた様子でチッ、と舌打ちした。

「お前金以外とりえねえじゃん。
ほら早くしろよ。」

綾乃は、悲しそうに微笑むと財布を
出した。札を抜き取って、男は出ていった。

ありがとうございましたー

そういう美波の声が白っぽい。

カウンターの女性は今は肩を震わせていた。
美波はそっとハンカチを差し出す。

「大丈夫?」

「いえ、あの…すみません」

「まずは飲んで落ち着いて。」

そういうと、カウンターに座っていた
もう一人の客にそっと目配せした。

「私も一人で来たんです。
ご一緒してもいいですか?」

綾乃はハンカチ越しに、そっと
話しかけた相手を見つめた。

美波が時々遊びに来させている、
その女性は人間ではなかった。

青色の髪に、印象的な紫の瞳。

「あ、あの私」

「ヒューマノイドが飲んだら変ですか?」
そういうと、アオイはグラスを傾けた。

「えええ、あの大丈夫です。
ちょっとびっくりしただけです」

綾乃は俯いたまま、少しだけ
カルーアミルクを啜った。

美波はその様子を見て、
「この子は私の知り合いです。
話し相手にはいいですよ」

「美波さん、なんか馬鹿にしてるでしょ」
「していないわ。正当な評価よ」

そういうと美波は他の客のオーダーに
取り掛かる。

手早くシェイカーにレシピ通りの
材料を入れ、華麗な手捌きで振る。

綺麗な8の字を描いたシェイカーが
とん、とテーブルに置かれ、
グラスに酒が注がれる。


アオイが何か熱心に語りかけ、
綾乃は小さくうなづいている。


それから30分ほどで、ようやく
綾乃は打ち解けた笑顔を見せた。

次にアオイが出したオーダーは
人をくったもので、美波も眉を顰めた。

「チャーチル風のマティーニを
お願いします」

「あんたねえ・・・、どうぞ」

そういうと、ジンの入ったグラスを
アオイの前にドン、と置く。

その脇に
ドライベルモットを少しだけ入れた
ショットグラス。

綾乃が興味を持った。

「これ、なんですか?」

美波が説明を始める。
「ドライマティーニ…と呼びたくない
ただのジンのロックです。」

「ああ、マティーニって飲んだこと
あります。きつくて、一口でもういいや
ってなりましたけど」

「そうですね。甘くもないし
カクテルとしては強いから
苦手な方もいらっしゃるますわ。」

そしてくるりとアオイを振り返る。

「普通、ベルモットで香りをつけるのよ。
でもこれは、ベルモットの香りを
ちょっと嗅いでおいて、その隙に
ジンを放り込むっていうやり方ね。」

アオイは美波に少し睨まれてにへへ、
と笑う。

「タンクの容量に制限があるので」
「酔いもしないのにもったいない」
「でも香りと味はわかるし好きなんです」

このところ、アオイはウイスキー以外にも
アルコールを試してみているらしい。
が、蒸留酒かリキュールが好きなのは
この妙なヒューマノイドの癖らしかった。

「そんなに飲んで、酔わないんですか?」
美波がくすくす笑う。
「全く酔わないわね。酔ったふりは
できるけど」

アオイは表情と口調の調整をしてみた。

顔を僅かに赤くし、口を開く。
目はあえて焦点をぼかし、
口調は声を大きめに、だらっとさせる。

「美波さんのイジワル〜。さすが情報通ですねぇ」
「はいはい、調整がお上手ですね」

「ぇえ?調整ですってぇ」
そういうと声を大きくする。
「あらしは、よっぱらおいだおお」

「わあ、上手ねえ。その辺にしないと
放り出すわよ、アオイ」
美波の目が笑っていないので
アオイはすぐに普通に戻した。

「やっぱ下手ですか?」
「なまじ上手だから嫌なのよ」

二人のやりとりを呆気に取られて
眺めていた綾乃は、恐る恐る聞いてきた。

美波さん、あの・・・

「次は何に致しましょう」
「私も、アオイちゃんと同じの・・・」

ガクッとなる美波。あやのの横で
アオイも慌てている。

「それは、およしになったほうが」
「いいんです。私今日酔っ払いたいんです」

しょうがないわねえ、お気持ちはわかるけど。そう言いながら、アオイを軽く睨む。
あんたがおかしなものオーダーするから。

アオイが片手ですいませんとするので
仕方なく、綾乃にもグラスにジンを注ぐ。

そして、ライムを入れ、ソーダで割って
ジンライムソーダにした。

「お嬢さんはここまで。ヒューマノイドと
違ってお酒が影響するんですからね」

少しずつです、という暇もなく
綾乃はそのグラスを一息に飲み干した。

5分後。

綺麗に気絶した綾乃を見ながら
美波はアオイに言った。
「あんた収容しなさいよ」

木漏れ日荘

車で来ていたアオイは、四苦八苦して
ぐにゃぐにゃの綾乃を木漏れ日荘に
連れ帰った。

車の中で、綾乃は目を覚まし、どこか
遠くを見つめて黙っていた。
暗い瞳が東運河の水面のようだった。

急性アルコール中毒は心配ないようだ。

アオイは木漏れ日荘の自室に入れ、
自分のベッドに綾乃を寝かせた。

メンテナンスを済ませると、充電しながら
本を読んで夜明かしをすることにした。

ちょうど今読んでいるのは
大昔の、アメリカの作家が書いた
探偵小説だった。

3時ごろになると、綾乃は起きて
水を飲むと、アオイと話をしたがった。

聞き役に徹することにして
相槌を打ちながら話を聞いていた。

綾乃は心のつかえが取れたように
アオイに、自分のことを話し続けた。
この街には大学進学で引っ越してきた。

アキラとは、アルバイト先で
知り合った。

はじめは優しかったが、次第に
金を要求されるようになった。

アキラと呼んでいた男は
アオイにもいい印象ではない。

よくあるタイプでもあるが、
特に、綾乃のような女性に
似つかわしいとも思えなかった。


やがて落ち着いた綾乃が寝てしまうと
アオイは本に戻った。


翌朝、談話室

「ご迷惑だったかしら、ごめん遊ばせ。」
「…許されると信じて疑わん、その神経が苛立たしい」

アオイと綾乃が身支度して談話室に行くと、
美波が来ているのだった。相手をしているのはシンイチだ。

「おはようございます」
といつもと変わらないアオイに
「まふゆ、ちょっと座りんさい」
と厳格な顔のシンイチが命じる。

「あ、この子は綾乃ちゃん。
昨日お友達になったの」
「知らん相手に、強い酒を飲ませるなど
あまり感心せんのう」
「飲ませてないよ、勝手に」

美波がシンイチのお父さんモードに割ってはいる。はいはい、そこまで。

「なんじゃ、人の家でしきりおって」
「まあまあ、この子の話聞いてあげて」

そう言われシンイチは綾乃を見た。

「綾乃さんとおっしゃるのか。
どのような事情か知りませんが、
つらいことでもあったのかな?」

暇なのか、朝だと言うのに来ていた
白石が茶々を入れる。
「お、兄いもええとこあるのう。」
「うるさいわ。お前はよ仕事行け」
「今日は仕事休みじゃけ。ワハハ」
「ならパチンコでも行っとけ」
「兄いと行ったらツキが落ちるわい。
嫌じゃ」
「ワシは行かんわい。ほっとけ」

それから小一時間、達也も合流して
綾乃の話をみんなが飲み込んだ。

白石は腕組みをしている。
「絵に描いたようなクズじゃい」
「全くのう。くだらんやつじゃ」

達也は綾乃に優しくハンカチを差し出す。
彼女の前にひざまづいて、そっと涙を拭う。

木漏れ日荘の選ぶ道

そうしながら、達也は後ろの二人に声をかける。静かな口調だった。

「後ろの2名。」
「おう」「なんじゃい」

「その男の風上にも置けないバカを
成敗するのに手を貸さないか?」

そう言いながら、二人に振り返った
達也の目は凍りつくような光があった。

美波は、へえ、キザだけあって男気あるね
と達也を少し見直した。

「まあ待て。仕返しより、その子をどうするかじゃい」白石の言葉は静かだった。

「気持はわかるが、アキラとやらとの関係をどうするかは、綾乃さんが決めることじゃ」
シンイチも同調する。

達也は不満そうに口を尖らせる。
「それは今は無理でしょ?」

綾乃は、何か言いかけて口をつぐむ。
その様子を、アオイは見ていた。
昨夜、黙っていた綾乃の映像に重なる。

白石「それよ。」「何が?」

白石も、口を継ぐんだ綾乃を見ていた。

白石「そいつがゲスじゃけ、ワシらで
介入する。引き離して2度と近寄らんように灸をすえる。ま、できるじゃろ。
じゃが、そうしたら綾乃さんは
今度はワシラに頼る」

アオイの横で綾乃が俯いてしまった。

アオイは白石の言う通りだと
判断していたが、感情回路は
別だった。

「でも今は言い返すこともできないよ?」

それをシンイチが受け止める。

「だから、心が回復するまで、ここで
おったらええ。まず距離とりんさい。
その間に、ゆっくり自分で考えたらええ」

達也「納得できないな」

この男は、本当に優しく男気があるな。
その意気やよし。シンイチも達也を
見直す思いだった。

「無論その通り。
…だが順番があるということよ。
達也、今は綾乃さんが力をつける。
そっちが先じゃ」

アオイは綾乃に向き直った。
「綾乃さん…綾乃がよければ、一緒に
大学やアルバイト行かせてください」

美波は、そんな話の流れを聞きながら
これが木漏れ日荘なんだなと思う。

談話室に、穏やかで暖かい空気が流れる。
アオイをしっかり見つめ、綾乃は言った。
「アオイちゃん、お願いします」


第22回に続く






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