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【SF小説】新・木漏れ日荘のアオイさん 第24回 護衛艦あたごの甲板で、縮まる二人の距離

護衛艦あたごの甲板で、縮まる二人の距離

綾乃とアオイは、港に護衛艦を見学に行くことになりました。
春がもうすぐ来る、端方港の景色です。

それでは、どうぞ。
前回のお話はこちら

【読了目安:8分】


港の行列

春先の風に、ふと海の匂いが香る。
綾乃と二人、アオイは端方港にいた。

季節外れの暖かさで、綾乃は汗ばんでいた。
「ちょっと暑いなあ」

寒暖差の大きい日が続き、服の選択が難しい。今日は少し風があるが、暖かい。

アオイも、周囲に溶け込む春の装いだったが
もう少し薄着でも良かったかもしれないと思った。

普段は島を結ぶフェリーしかいないが
今日は岸壁に行列ができている。

人々の視線は、係留した大型船舶に注がれていた。

護衛艦あたご

護衛艦「あたご」。
海上自衛隊のイージス艦である。

今あたごは、濃灰色のスラリとした姿を
岸壁に寄せていた。

タラップが降ろされている。
この行列も、館内見学のそれだ。

その姿を見ながら、綾乃と違って
アオイは一抹、不安を感じていた。

無駄としりつつ、髪をベレーに押し込む。

髪そっくりのセンサー群はひとりでに
周囲のあらゆる情報をセンシングしてしまう。
自分がヒューマノイドであることは
自衛官にはわかるだろう。

…そして護衛艦には機密事項が多い。

アオイの心配を知らず、綾乃は
あれこれとネットに公開している
情報をアオイにしゃべってくる。

それに注意を向けていることが
一番遮蔽効果になりそうだった。




試験も済んで暇なんです

「アオイちゃん、護衛艦を見に行きましょう」

綾乃の声に、少し離れて本を読んでいた
アオイは驚いた。

「綾乃は護衛艦に興味があるんですか?」
「あまりないけど暇なんです」
「ああ、試験も終わったし、ですか?」
「終わったし、です」

そういうと接眼中の護衛艦の
ニュースを見せてきた。

「見学もできるみたいだから
面白いかもしれませんね」

木漏れ日荘にきて2ヶ月がすぎた。

最近、綾乃はだいぶ落ち着いた様子だ。

スーパーはやめ、美波のバーと
カフェこもれびでアルバイトをしている。

それを決めてきた時、
人と接することに慣れてみたいんです、と
綾乃はアオイに言った。

夜働くことは、アキラと出くわす
心配もないことはなかったが、
美波のところがいいと綾乃は言った。




動きが綺麗なヒューマノイド

乗り換えのミントシティ駅は
ほどほどの人出だった。

方向の違う人の流れを
アオイはごく自然にかわしていく。

あちこちにいるヒューマノイドと
まるで違うスムーズな動きに
綾乃が気づいたのは、電車に乗ってからだった。

「…アオイちゃんて」
「なんですか?」
「アオイちゃんて、変わってますね。」
「私は普通のつもりですが…?」
「全体的に、ヒューマノイドっていうより
もっと違うなにかみたい。」

アオイは返事を考えた。
「確かめてみますか?」
わざと密着してみる。

え、という綾乃をアオイはじっと見つめた。

なんとなく赤くなって目をそらす綾乃を見て
アオイは冗談です、と言った。

アオイのつけ爪

「…綺麗なつけ爪」
話を変えるきっかけを掴んだ綾乃は
アオイがつけているつけ爪を見た。

凝ったデザインのネイルアートがある。

「私が作ったのです。ありがとう」

今度私にも作って、とせがまれたアオイは
綾乃の手は、指も細くて爪が小さいけど
何か作ってあげましょうと言った。

スピードを落として、ガタンゴトンと
電車が端方港駅に入る。
ホームに降り立つと微かに潮の香りがした。

やっぱり、なんか違う

並んで歩くアオイを見て綾乃は少し見惚れた。

背が高く、ほっそりとしたアオイは
背筋を伸ばしてスタスタと歩いていく。

アオイは人間と同じ歩き方で、
しかも結構足が速い。

体の動かし方もギクシャクしない。

追いつくと、綾乃は言った。
「体の動きが普通のヒューマノイドと違う。」
「いえ、普通です。人間に最も近い規格です。」

「あ、あのシンイチさんが作った、って聞きました。」
「あの人は、史上稀に見る変人です。
エンジニアとしても相当ど外れている。」

「そうなんですね」

実は私、宇宙から来た

アオイはまっすぐ歩きながら、横を向いて
綾乃の方を見つめた。

アオイの微笑みが、綾乃の周囲から雑音を消す。

「綾乃、これは秘密なんですが。」
「え?!」そういうと思わず立ちどまった綾乃に振り向く。

「私、地球を侵略しにきた宇宙人の手先です」

「…それは違います。」
意外に冷静な綾乃の返事に思わず尋ねる。
「綾乃、なぜですか?」
「それだったら、小さいカエルみたいじゃないと」
アオイは今度は笑い出した。

「…綾乃、アニメの見過ぎです」




あれ、もしかしてヒューマノイド

30分も待ち行列が進むとようやく順番が来た。

えーと、成田綾乃さんね、
こちらは…佐藤アオイさん。

受付の自衛官がアオイを見て首を傾げる。

もしかしてヒューマノイドですか?

「…はい。」
「一応チェックさせてもらうことになっているので、こちらへどうぞ」
心配そうな綾乃に、にこ、と笑うと
アオイは女性自衛官についていく。

ボディチェックを受け、
外部メモリがないこと、情報を
中継する機能がないことを申し出る。

「一応艦内では、わたくしが同行します」
そういうと40がらみの女性自衛官が
二人についてくることになった。

綾乃は居心地悪そうだったが
艦内を巡るうちに落ち着いてきたようだ。

護衛艦のカレー

護衛艦の艦内は狭い。
所狭しと機材が置かれ、
通路は行き交う人で混んでいた。

綾乃が驚いたのは艦長室の
シーツのアートだった。

折り畳まれたシーツが、
オブジェのようになっている。

ガンルーム(士官食堂)では
特別メニューを食べることができた。

「…カレーですね。曜日の感覚がずれませんか?」
「大丈夫ですよ」

「なんの話?」
アオイに気遣って急いで食べている綾乃は
水を飲みながらアオイに尋ねた。

「綾乃、今日は日曜日です。」
「そうだよね。」
「海軍の伝統を引き継ぐ自衛隊では
艦船の食事で、金曜日がカレーと決まっているのです。」

「もしかして、金曜日は料理の人も楽がしたいとか」
まさか、と女性自衛官が笑う。
「洋上では曜日の感覚が分かりにくいからです」

甲板で感じる風

同行の女性自衛官が、申し訳なさそうに言う。

「ここから、艦橋へご案内するんですが
ヒューマノイドは禁止なんです」
「そんな、友達なのに」

不満そうな綾乃に、アオイはいう。
「これは仕方ありません。私は前甲板で
待っています、綾乃」

その後、綾乃はタラップを上がって艦橋に行った。

案外機嫌よく、写真を撮りまくっている。

アオイはその様子にホッとした。
艦上から見る端方港は青い海に日差しがきらめいていた。
そよ風が気持ちいい。

波が穏やかで、もうすぐ春とうなづける。

綾乃の情報源と興味

綾乃と合流したアオイは、
垂直発射式ミサイルユニットを見た。

「これがVLS??」
要領を得ない表情の綾乃にアオイは笑う。
外見上はただの四角い蓋が縦横に
並んでいるだけだ。

「こういう大砲がいっぱい並んでいるもんではないの?」
綾乃は指差した「大砲」はMk45 5インチ砲だった。

「これもさ、大砲っていうか…」
「ははあん、分かりましたよ。綾乃の情報源が」
そういうと、アオイは遠慮なく笑い声を出した。

「アオイちゃん?バカにしてる?」
「おそらく、宇宙戦艦ヤマトとかの
イメージを持っているでしょう?綾乃」
「悪い?だって大砲あるって思ったのに。」

女性自衛官も微笑みながらいう。
「その大砲よりこれの方が怖いし
そっちの四角い蓋の中にはミサイルが」

「え?」

そのやりとりを見ながら、
アオイは、綾乃は私と出かけるのが目的で
軍艦に興味は持っていなかったのかもしれないと密かに思った。

なにしろ中世ヨーロッパが好きで
異世界ものの小説が好きなのだ。

白石の現場

そのとき、二人に聞き覚えのある声がかかった。
「おう、あんたらもおったんか」

ヘルメット姿の白石だった。
「白石さん。」
アオイが嬉しそうにする。
「おお、アオイさん。久しぶりじゃあ」
「はい」
「今出航の際の打ち合わせしたとこじゃ」

「タグの出番ですね」
「ま、こっちはこれが仕事じゃけえ。」

見てみ、と指差した沖の方に、
見慣れないタグボートが揺られている。

タイヤフェンダーには、真新しい白布が
巻きつけられている。

「押し引きはせんといかんが、汚してはいかん。」
「タグも大変ですね」

アオイにそう言われ、白石はガハハと笑った。
「これでも客商売じゃけ。心得とる」

第一、と白石は護衛艦の巨大なファンネルを見上げた。

「この船の主機関じゃあ馬力がありすぎで。
そろーっとデッドスローにしても
岸壁傷めるわい、とまた笑う。

アオイはびっくりした顔をしてみせた。
「そんなに馬力あるんですか」
「またまた。全部知っとる癖に」

白石に笑い飛ばされ、アオイはほっとする。

ほれじゃの、と陽気に手を振って
白石は軽快にタラップを降りて行った。

ふっと風に感じる潮の香りが濃くなった。




やっぱり聞き流していたでしょ!

綾乃は、アオイを軽く睨みつける。
「やっぱりね、全部知ってるのね」
「…さあ、なんの話でしょう?」
「このお船のことなんか全部知ってて
私が調べたこと聞き流していたでしょ?」

「いいえ、一生懸命聞いていました。」
「嘘!」
「私が知っていることはメモリの中で
封印して聞いていました。それを
信じるかどうかは、綾乃次第です。」

むう、と綾乃は膨れたがそれも束の間で
そう言うなら信じることにする、と言った。

それは良い心がけです。
そうアオイがいうと、綾乃は
アオイちゃんの意地悪、と
ベエと舌をだした。

短い冬が終わり、春が来る。
そよ風はもう春の風だった。


綾乃初登場の時

今までのお話


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