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「売れない新規事業」を背負わされた現場の、キャリア防衛策『THE CULTURE CODE』

「この新規事業は失敗する」半数の担当者は計画早期に気づいている

ある調査データを目にしたとき、私は隠し続けてきた不都合な真実を、正面から突きつけられた感覚になりました。失敗の理由として挙げられる第1位は、競合の強さでも市場の読み違えでもなく、「社内関係部門との調整不備」という人間関係の問題でした。

そして、「やり直せるとしたら、何をする?」という問いに対し、第1位は「計画や体制の設計」でした。
人間関係を恐れて口をつぐんだことが原因だと分かっているのに、いざやり直す段階になると、再び「計画書作り」という手近な作業に逃げ込んでしまう。

恐ろしいのは、失敗の原因が対話の欠如だと分かっていながら、誰も止められないことです。

プレスリリースが打たれた瞬間、役員の興味はメディアの反応や株価の動きに移り、事業そのものへの関心は薄れていきます。しかし、現場にとっての過酷な日々はそこから始まります。社内の対話を恐れて不都合な真実から目を背けた結果、上がらない数字と果てしない調整作業だけが残されます。

かつての私も、数字が伸びない状況の中で脂汗を流しながら、終わりの見えない事業開発を続けていた一人でした。

新規事業が失敗しないための5つの評価軸と、経営の判断

30代中盤で既存事業の出世コースから外れ、新規事業の担当へ回されたとき、私にあったのは焦りだけでした。
既存事業の傘から出た以上、私が社内で生き残る道は新規事業で実績を出すことだけです。数百のPoCを繰り返し、数億円の資金を溶かしていた3年目、経営から新規事業のテーマがAIとIoTに絞り込まれました。

新規事業には、本来検証すべき5つの評価軸とその優先順があります。当時私が取り組んでいた案件は、この軸に当てはめると、未だ事業化は判断できないはずでした。

  1. 市場はあるか:存在するが明確な需要が見えない

  2. 経営の意向は強いか:極めて強い

  3. 競合は弱いか:分散していて一強は存在しない

  4. ソリューションの妥当性はあるか:PoCの結果、妥当性(PSF:Problem Solution Fit)が低い

  5. 組織の実行可能性はあるか:飛地領域で、営業や技術のシナジーがない

私は経営会議で、「自社開発」ではなく「アライアンス」の方向で再検討したいと提案しました。しかし、決定したのは自社開発でした。

理由は極めて単純でした。画面の中で動くソフトウェアだけでなく、「手で触れるハードウェア」にCTOが可能性を感じたからです。3年間新しい収益の芽が出ないことに我慢できなかったのかもしれません。
そして、4(PSF)も5(実行力)もない案件が、CTOの一声であっという間に商用化へと押し切られていきました。

PoC地獄の先に待つ、社内から拒絶される生き地獄

PoC地獄からの脱却は果たしたものの、商用化の先に待っていたのはさらなる地獄でした。

いざ商用化に向けて動き出すと、社内の各部署からの猛反対が始まりました。「利用シーンが限定的で提案が難しい」「ハードウェアは扱ったことがない、サポートできない」と、営業も運用部門もことごとく拒絶しました。

4(PSF)と5(実行力)が欠落している以上、社内の反発は当然の反応です。しかし、上席の役員はCTOの意向を前提に「もっと関係部署を巻き込め」と、上がらない数字と組織の板挟みになる責任を私に押し付けてきました。

絶対に立ち上がらないと分かっている事業のマネジメントを背負わされ、社内のあらゆる部署へ頭を下げて調整に回り、拒絶され続ける日々。
会社の資金が消えていくこと以上に恐ろしかったのは、自分自身のキャリアが不毛な社内調整で削られていく感覚でした。

成果の出ない事業に縛り付けられ、実りのない事業開発を繰り返す毎日。30代から40代の貴重な時間をこの場所で使い果すことへの強い焦りから、新規事業の担当になって5年目、私は転職を決意しました。

『THE CULTURE CODE ―カルチャーコード― 最強チームをつくる方法』 著者: ダニエル・コイル / 出版社: サンマーク出版 / 発売日: 2019年11月 / カテゴリ: 組織論・リーダーシップ / 評価スコア: Amazon ★4.4 / 5.0 概要: 世界で成果を上げ続けるチームを徹底分析し、優れた組織文化を形作る「安全感」「弱さの開示」「方向性の確立」という3つの原則を明かしたバイブル。

不都合な真実を隠す組織が支払うコスト

本書は、優れたチームには共通して「所属の安全感」「弱さの共有」「目的の確立」が存在すると指摘します。
当時の現場には、この3つが何一つ揃っていませんでした。

「弱さの共有」とは、現場がSOSを出すことだけではなく、上層部もまた「自分たちの判断の誤りや組織の限界」を認めることを意味します。私が「自社開発」ではなく「アライアンス」を推しても拒絶されたのは、上層部が自身のプライドや保身を捨てて、組織の限界という不都合な真実に向き合う姿勢を持っていなかったからです。

経営が見ているもの(株価やメディアへの影響)と現場が見ているもの(事業の実現性)が決定的にズレており、目的が揃うことはありませんでした。
不都合な真実を拒絶し、3つの原則が壊れた組織が支払う最終的なコストは、数億円の損失と「現場の離反」です。

自律的なキャリアを歩むための線引き

3つの原則が存在しない組織で、現場の理論でどれだけ正しい提案をしても上層部の判断が変わることはありません。

会社や組織に自分のキャリアを委ねるのではなく、自分自身の市場価値と時間を軸に置くこと。不利な戦いから適切に身を引き、自律したキャリアを踏み出すための境界線をどこに引くべきか。
後半では、上層部が変わらない現実を前に、あなたが組織の不条理に飲み込まれず、自分の人生の舵を取り戻すための具体的な考え方をお話しします。

「自分なら役員を説得できる」という誤解

4(PSF)と5(実行力)がない現実をどれだけデータで示しても、自前主義やプライドを抱えた上層部が考えを改めることはありません。

理論的に説明すれば分かってくれるはずだ、という期待こそが、自分の貴重な時間を溶かす原因でした。「アライアンスを組む」「事業を売却する」という一見合理的なプランは、上層部にとっては「自分の失敗を認める選択肢」でしかないからです。

現場の力で、壊れた組織の空気や上層部の姿勢を変えることは不可能です。勝ち目のない説得にエネルギーを注ぐのをやめ、まずは自分のキャリアを防衛する思考へ切り替える必要があります。

自分のキャリアを防衛する思考の順番

上層部が変わらないことに気付いたとき、新規事業に取り組む実務者が、キャリア自律するために取るべき3ステップです。

  • ステップ1.【認知の切り替え】
    「スキルや努力が足りないからだ」という自責をやめる
    :4(PSF)と5(実行力)がない以上、ビジネスは成立しません。上がらない数字は構造上の欠陥であり、自分の努力では変えられないと割り切る。

  • ステップ2.【現場での自己防衛】
    不可能な数値を「やれます」と解釈しない
    :責められても評価を下げられても、「現在の体制で出せる数値」を淡々と示す。計画実現のために前提を変えるプランB・Cを提案する。

  • ステップ3.【最終的な意思決定】
    自分の市場価値を軸にした「個人のプランB」を発動させる
    :新規事業と共に成長する選択肢が潰されたら、自分のキャリアを守るために、副業・異動・転職の道を探る。

自分のキャリアのコンディションを測るチェックリスト

「個人のプランB」を発動する前に、自分のキャリアがどれほど不条理な組織に精神と時間を削られているかを測るチェックリストです。

  • 「売れない商品」の言い訳作りに時間を奪われていないか:今週使った時間のうち、本質的な価値検証ではなく社内報告の取り繕いに何時間使ったか。

  • 上層部の面子を守るために「ダメな担当者」の烙印を甘んじて受けていないか:構造上の失敗の責任を個人で背負い込み、自分の社内評価や精神を傷つけていないか。

  • 会社の数億円より、自分の30代・40代の5年間の方が重いと自覚しているか:組織のサンクコストに引きずられ、外の市場で通用する自分の価値を落としていないか。

  • いつでもこの場所を離れられる準備ができているか:職務経歴に書ける実績が古くなる前に、新たな領域に踏み出す選択肢を手元に確保しているか。

どれだけ組織に尽くしても、上がらない数字の責任を取らされるのは現場です。会社の資金が消えることより、あなたの人生の数年間が不毛な社内調整で消えていくことの方が取り返しのつかない損失だと考えます。

あなたは明日も、変わらない組織のために自分の時間を差し出し続けますか?それとも、自分の人生を取り戻すために舵を切りますか?


もし、この思考の跡があなたの「武器」や「盾」の一助となったなら、「スキ」をいただけると幸いです。
画面の向こうに、同じ景色を見ている誰かがいる。それだけで、明日もまた現場に立てる気がします。

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