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【イタリア20州ワイン巡礼 #8 リグーリア】断崖と海風とバジル――細長い海岸線にしがみつく“英雄的ワイン畑”


1.「崖っぷちの海とペスト」――リグーリアを一言でいうと?

今回の旅先は、リグーリア州(Liguria)
イタリア北西部、フランスとの国境からトスカーナとの境界まで、
地中海沿いに細長く伸びる“イタリアン・リヴィエラ”です。

ワインよりも先に思い浮かぶのは、おそらくこちら。

  • 港町ジェノヴァ(Genova)

  • 世界遺産の景勝地 チンクエ・テッレ(Cinque Terre)

  • バジル香る ペスト・ジェノヴェーゼ(ジェノバ風バジルソース)

  • フォカッチャ(Focaccia)や、魚介たっぷりの料理たち

その背後の、崖に貼り付くような段々畑で育つのが、
塩の風をまとった白ワインと、繊細な赤ワインです。

  • 柑橘とハーブが香る ヴェルメンティーノ(Vermentino)

  • よりリグーリアらしい顔つきの ピガート(Pigato)

  • ローズとハーブが漂う軽やかな赤 ロッセーゼ(Rossese)

  • チンクエ・テッレを支える白ブドウ ボスコ(Bosco)/アルバローラ(Albarola)

一言でまとめるなら、

「崖と海とバジルと魚――
その全部に“塩気のある白と繊細な赤”を合わせる州」

山のワインが続いた後に、
“海の風味を持ったワインの世界”を見せてくれるのが、リグーリアです。


2.“英雄的ヴィティカルチャー”――段々畑と海洋共和国の歴史

2-1.崖にしがみつくブドウ畑=ヒロイック・ヴィティカルチャー

リグーリアの象徴と言えば、なんと言っても
チンクエ・テッレ(Cinque Terre) の段々畑。

  • 断崖絶壁のような急斜面に、石積みのテラスが何段も連なり、

  • 海からの風と日差しを正面から受ける位置にブドウ樹が並ぶ

あまりに急峻で、

  • トラクターは入れず、人力と簡易モノレール頼み

  • 収穫は背負いカゴで運ぶ

  • 石積みテラスの維持にも手間とコストがかかる

こうした極端な条件から、
この地域の栽培は“英雄的ヴィティカルチャー(heroic viticulture)”
と呼ばれることもあります。

2-2.ジェノヴァ共和国と海の交易

中世〜近世にかけて、リグーリアは
ジェノヴァ共和国(Repubblica di Genova)として海を支配した     「海洋共和国」の一つでした。

  • 地中海貿易で富を築いたジェノヴァの港には、
    世界中のスパイスや穀物、ワインが集まり、

  • 海に出る船乗りたちには、
    旅の間に飲むためのシンプルな白や、保存性の高い甘口ワインが求められました。

チンクエ・テッレで造られる甘口パッシート
“シャッケトラ(Sciacchetrà)” は、
そうした歴史とつながるワインのひとつです。

2-3.観光とともに見直された“崖ワイン”

20世紀後半〜21世紀にかけて、
チンクエ・テッレは世界的な観光地として注目されるようになりました。

  • カラフルな家が崖にへばりつくように建つ海辺の村

  • その背後を覆う段々畑

  • ハイキングコースから見下ろす海とブドウ畑のコントラスト

観光客の増加は同時に
「この崖で造られているワイン」への関心も呼び起こし、

  • チンクエ・テッレDOCの白

  • 同じ品種を陰干しした Sciacchetrà(シャッケトラ)

などが、「景色込みで味わうワイン」として再評価され始めました。


3.リグーリアのテロワールを「東と西」で見る

リグーリアは横に細長い州なので、
「東(レヴァンテ)」「中央(ジェノヴァ周辺)」「西(ポネンテ)」
くらいで分けると理解しやすくなります。

3-1.東側(Levante)――チンクエ・テッレとコッリ・ディ・ルーニ

州の東側、トスカーナに近い一帯がレヴァンテ(Levante)
ここには、二つのキーワードがあります。

1つ目は Cinque Terre DOC(チンクエ・テッレDOC)

  • 先ほど触れた段々畑から生まれる白で、
    主な品種は Bosco(ボスコ)/Albarola(アルバローラ)/Vermentino(ヴェルメンティーノ)

  • 海からの風、急斜面、岩の多い土壌が組み合わさり、
    塩味とハーブ感を持った、非常に“海らしい”白になります。

同じブドウを陰干しして造る
Sciacchetrà(シャッケトラ) は、
アプリコットや蜂蜜、ドライフルーツのニュアンスを持つ甘口ワインで、
生産量は少ないですが、チンクエ・テッレの「宝物」のような存在です。

2つ目は Colli di Luni DOC(コッリ・ディ・ルーニDOC)

  • リグーリアとトスカーナの州境にまたがるエリアで、

  • 柑橘や白い花、ハーブが香る Vermentino が主役。

  • シーフード全般に合わせやすい白が多く、
    日本市場でも見かける機会が増えてきています。

3-2.中央部(ジェノヴァ周辺)――入り組んだ湾と“小さなDOC”

州都ジェノヴァの周辺にも、いくつかのDOCが点在します。

  • Val Polcevera(ヴァル・ポルチェヴェラ)

  • Golfo del Tigullio(ゴルフォ・デル・ティグッリオ)

  • Colline di Levanto(コッリーネ・ディ・レヴァント) など

ここでは、

  • いくつかの地場品種(例:Bianchetta Genovese など)

  • ヴェルメンティーノ、ピガート

  • 淡いロゼやフリッツァンテ(弱発泡)

といったワインが造られています。

名前の知名度こそ高くありませんが、
「入り組んだ湾と小さな漁村のワイン」という雰囲気を持ち、
現地のトラットリアで、魚料理と一緒にするりと出てくるタイプのワインです。

3-3.西側(Ponente)――ピガートとロッセーゼの世界

フランス国境に近い西側がポネンテ(Ponente)
ここでは、Riviera Ligure di Ponente DOC(リヴィエラ・リグレ・ディ・ポネンテDOC) が大きな枠組みになります。

このDOCの看板は、主に3つ。

  • Pigato(ピガート)
    ヴェルメンティーノの一系統(バイオタイプ)とされることが多い白。
    桃やアプリコット、アーモンド、海のミネラル感がはっきり出やすく、
    「リグーリア訛りのヴェルメンティーノ」というイメージを持つと分かりやすいです。

  • Vermentino(ヴェルメンティーノ)
    柑橘、白い花、ハーブ、ほのかな塩味。
    ピガートより少しシャープで、スッと伸びるタイプの白が多い印象。

  • Rossese(ロッセーゼ)
    赤いベリー、バラ、地中海ハーブ、優しいスパイス。
    特に Rossese di Dolceacqua DOC(ロッセーゼ・ディ・ドルチェアクア) は、
    軽やかでエレガントな赤の代表格で、「小さなピノ的」なポジションとも形容されます。


4.DOCで見るリグーリアの顔

リグーリアにはDOCGはなく、DOC中心で構成されています。
ラベルでよく目にする名前を、押さえるところだけピックアップしておきましょう。

  • Cinque Terre DOC

    • 東側レヴァンテに位置するチンクエ・テッレの白ワインDOC。

    • Bosco/Albarola/Vermentino をブレンドして造られる、海風を感じる辛口白。

  • Cinque Terre Sciacchetrà DOC

    • 同じ品種を陰干しして造る甘口パッシート。

    • 生産量は少なく、現地でも“ご褒美ワイン”扱い。

  • Colli di Luni DOC

    • リグーリアとトスカーナにまたがるエリアのDOC。

    • Vermentino主体の白が主役で、魚介料理との相性がとても良い。

  • Riviera Ligure di Ponente DOC

    • 州西部ポネンテの広い範囲をカバーするDOC。

    • Pigato/Vermentino/Rossese など、多彩な白と軽やかな赤を含む。

  • Rossese di Dolceacqua DOC

    • Rossese 単一品種の赤DOC。

    • 軽やかな色調と、バラやハーブの香りが魅力で、
      シーフードの前菜から白身肉まで、幅広く合わせやすいスタイル。

  • そのほか:Val Polcevera / Golfo del Tigullio / Colline di Levanto など

    • 生産量は小さいですが、
      「入り組んだ湾と小さな漁村ごとの顔」を持ったミニDOCたちです。


5.品種と味わい:Vermentino / Pigato / Rossese / Bosco / Albarola

5-1.Vermentino(ヴェルメンティーノ)

リグーリアだけでなく、サルデーニャやトスカーナ沿岸でも活躍する白ブドウ。
リグーリアでは、海との距離感が特に大きなポイントになります。

  • 香り:レモン、グレープフルーツ、白い花、タイムやローズマリーのようなハーブ

  • 味わい:

    • フレッシュな酸

    • ミディアムボディ

    • 舌の上に残る、ほのかな塩味(塩気のニュアンス)

「レモンを絞った白身魚のグリル」にそのまま寄り添うイメージで、
魚介との相性はほぼ抜群です。

5-2.Pigato(ピガート)=“リグーリア訛りのVermentino”

ピガートは、ヴェルメンティーノと遺伝的に近い(バイオタイプと見なされることが多い)白ブドウです。

  • 香り:桃、アプリコット、洋梨、アーモンド、ハーブ

  • 味わい:

    • ヴェルメンティーノよりもやや厚みがあり

    • 熟した果実と、より強いミネラル感が出やすい

「Vermentino よりじんわりと旨味の出る白」という印象で、
魚介だけでなく、ハーブを効かせた鶏料理や、
リッチなジェノベーゼパスタにもよく合います。

5-3.Rossese(ロッセーゼ)

ロッセーゼは、リグーリア西部を代表する赤ブドウです。

  • 香り:

    • イチゴやラズベリーなど赤い果実

    • バラの花びら

    • 地中海ハーブ(タイム、オレガノなど)

    • ほんのりとしたスパイス

  • 味わい:

    • 軽〜中程度のボディ

    • 柔らかいタンニン

    • みずみずしい酸

特に Rossese di Dolceacqua のワインは、
「色は淡く、香りは華やか、飲み口はするり」 というピノ的なエレガンスがあり、
魚介の前菜、トマトベースの軽い料理、鶏肉や豚肉のグリルなどに幅広く合わせられます。

5-4.Bosco & Albarola(ボスコ/アルバローラ)

チンクエ・テッレの白は、Bosco/Albarola/Vermentino のブレンドが基本です。

  • Bosco(ボスコ):

    • 構造とボディを与えるブドウ。

    • 厚みとアルコール、しっかりとした骨格を担当。

  • Albarola(アルバローラ):

    • フレッシュさと軽やかさを加える役割。

    • 柔らかな果実味や酸を補う。

この2つにヴェルメンティーノが加わることで、
「塩気・ハーブ感・果実味・骨格」がバランスした海の白が生まれます。

同じ品種を陰干しすると、
アプリコットやドライフルーツ、蜂蜜を思わせる
Sciacchetrà(シャッケトラ)になります。


6.ペスト・魚介・フォカッチャ――料理が先に決まっている州のワイン

リグーリアでは、ほとんどの場合、
「料理のイメージが先にあって、ワインはそれに寄り添う」形になります。

代表的な料理とワインの関係を、少し整理してみます。

6-1.ペスト・ジェノヴェーゼ × Vermentino / Pigato

ペスト・ジェノヴェーゼ(ジェノバ風バジルソース)は、

  • バジル

  • 松の実

  • にんにく

  • パルミジャーノやペコリーノ

  • オリーブオイル

で作る、香りとオイル感の強いソースです。

ここに合わせたいのは、

  • 柑橘とハーブが爽やかな Vermentino

  • より厚みと旨味のある Pigato

どちらもハーブ同士が共鳴しつつ、オイルを切る役割を果たしてくれます。

日本の ジェノベーゼパスタ
バジル入りカプレーゼ、
バジルソースのチキンソテーなどにも、そのまま応用できます。

6-2.魚介のフリット・青魚料理 × 「塩味のある白」

リグーリアは、魚介料理も主役です。

  • フリット・ミスト(魚介のフライ)

  • イワシやアンチョビのグリル/パン粉焼き

  • 魚介のスープやアクアパッツァ系

こうした料理には、

  • Colli di Luni の Vermentino

  • Riviera Ligure di Ponente の Vermentino/Pigato

  • Cinque Terre の辛口白

のような、塩気と柑橘を持った白がぴったりです。

日本の食卓なら、

  • アジフライ、イワシのフライ

  • サバの塩焼き

  • 白身魚のムニエル

などに、そのまま置き換えて考えることができます。

6-3.フォカッチャ&軽食 × 軽やかな白・ロゼ

シンプルな塩フォカッチャや、
玉ねぎやローズマリーをのせたフォカッチャには、

  • 軽めの Vermentino/Pigato

  • 中央部の Golfo del Tigullio などの白・ロゼ

のような、“食事にもおやつにも寄り添える白”がよく合います。

休日のブランチに、

  • フォカッチャ

  • オリーブ

  • 少しのチーズ

と、冷えたリグーリアの白を合わせるだけで、
一気に“海沿いの休日”のムードになります。

6-4.Sciacchetrà × ブルーチーズ/アーモンド菓子

チンクエ・テッレの甘口パッシート Sciacchetrà は、

  • 蜂蜜

  • ドライアプリコット

  • カモミールやハーブティーのような香り

を持つ、少量で満足感の高いデザートワインです。

合わせるなら、

  • ゴルゴンゾーラなどのブルーチーズ

  • アーモンド菓子(カントゥッチ、トルタ・ディ・マンドルレなど)

  • ドライフルーツ&ナッツの盛り合わせ

などが定番。

日本では手に入りにくいワインですが、
「いつか現地で飲むための目標」として覚えておくと楽しい一本です。


7.トレンド視点:少量高品質・“海の白”の需要・観光地ワイン

リグーリアは、面積も生産量もイタリアの中では小さな州です。
その分、トレンドとしてはこんな特徴があります。

  • 生産量が少ないぶん、
    「大量に輸出するワイン」ではなく「少量高品質」志向の生産者が多い。

  • 世界的に「シーフードに合う塩味のある白」「地中海ハーブのニュアンスを持つ白」へのニーズが高まる中、
    Vermentino/Pigato/Cinque Terre の白は、
    ニッチだが熱量の高いファンを増やしている

  • チンクエ・テッレ観光と連動して、
    「崖ワイン」「ヒロイック・ヴィティカルチャー」というストーリー性も評価されている。

つまりリグーリアは、
「数は少ないけれど、刺さる人には深く刺さる産地
とイメージしておくと、トレンドの見え方も分かりやすくなります。


8.家飲みでリグーリアをどう“使い分ける”か

最後に、いつもの家飲み運用メモです。

8-1.ペストの日:Vermentino or Pigato

  • ジェノベーゼパスタ

  • バジル入りカプレーゼ

  • バジルソースのチキンソテー

→ 迷ったらまず Vermentino
→ 濃い味・クリーミー寄りに振るなら Pigato を。

8-2.青魚・フライの日:Colli di Luni or Riviera の白

  • アジフライ、イワシのフライ

  • サバの塩焼き、イワシのパン粉焼き

  • 鯛やスズキのアクアパッツァ風

Colli di Luni の Vermentino
→ または Riviera Ligure di Ponente の Vermentino/Pigato

8-3.ちょっと軽い赤が欲しい夜:Rossese

  • 鶏肉の香草焼き

  • トマトベースの軽いパスタ

  • 生ハム&サラミ&オリーブの盛り合わせ

Rossese di Dolceacqua を1本。
「赤だけど魚介もいける」くらいのテンションで使えます。

8-4.いつかの“ご褒美枠”:Sciacchetrà のイメージだけ持っておく

日本で出会える機会は少ないものの、

  • ブルーチーズ

  • アーモンド菓子

  • ドライフルーツ

と合わせる Sciacchetrà(シャッケトラ)を
「いつかチンクエ・テッレで飲むための目標」として、
頭の片隅に置いておくと、旅先での楽しみが増えます。


9.今日出てきたリグーリア用語の、ちいさな用語集

  • リグーリア州(Liguria)
    イタリア北西部、地中海に面した細長い州。イタリアン・リヴィエラとも呼ばれる。

  • Cinque Terre(チンクエ・テッレ)
    世界遺産登録の五つの村からなる海岸線。断崖に段々畑が広がる景観で有名。

  • Cinque Terre DOC / Sciacchetrà DOC
    Bosco/Albarola/Vermentinoから造る辛口白と、そのパッシート甘口ワイン。

  • Colli di Luni DOC(コッリ・ディ・ルーニ)
    リグーリアとトスカーナにまたがるDOC。Vermentino主体の白が看板。

  • Riviera Ligure di Ponente DOC(リヴィエラ・リグレ・ディ・ポネンテ)
    州西部ポネンテの広い範囲をカバーするDOC。Pigato/Vermentino/Rossese などが含まれる。

  • Rossese di Dolceacqua DOC(ロッセーゼ・ディ・ドルチェアクア)
    Rossese 単一のエレガントな赤ワインDOC。軽やかな色調と華やかな香りが特徴。

  • Vermentino(ヴェルメンティーノ)
    柑橘とハーブ、ほのかな塩味を持つ白ブドウ。地中海沿岸各地で栽培される。

  • Pigato(ピガート)
    リグーリアの白ブドウ。Vermentino の一系統とされることが多く、より厚みとミネラル感が強い。

  • Rossese(ロッセーゼ)
    軽やかで香り高い赤ブドウ。特に Dolceacqua のワインが有名。

  • Bosco / Albarola(ボスコ/アルバローラ)
    チンクエ・テッレの白ワインを支える地場白ブドウ。Boscoが骨格、Albarolaが軽さとフレッシュさを補う。


参考文献・参考URL一覧


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