【イタリア20州ワイン巡礼 #19サルデーニャ】|風と花崗岩、孤島が守った葡萄
イタリア本土の西に浮かぶ大きな島、サルデーニャ。
シチリアに次ぐ面積を持ちながら、
その文化も、言語も、そしてワインも、
本土とはどこか異なる。
この島を形作ったのは、
火山ではない。
風と花崗岩、そして長い孤立の歴史である。
1|なぜサルデーニャは“スペイン的”なのか
サルデーニャの歴史は、本土イタリアとは少し違う道を辿った。
紀元前にはフェニキア人が沿岸部に拠点を築き、
やがてカルタゴ、そしてローマ帝国の支配下へ入る。
中世になると、ピサやジェノヴァといった海洋都市国家が影響力を持つが、
14世紀以降、島はアラゴン王国(スペイン)の統治下に置かれる。
この支配は約400年に及んだ。
行政制度、言語、農業政策。
スペイン的要素は深く根付いた。
その中で重要なのが、
ガルナッチャ(グルナッシュ)系葡萄の導入・定着である。
現在サルデーニャで主役となっている
カンノナウは、
フランスではグルナッシュ・ノワール、
スペインではガルナッチャと呼ばれる品種と同系統だ。
近年では、サルデーニャで発見された古代アンフォラ内の
種子DNAがカンノナウと一致したことから、
「むしろサルデーニャが起源ではないか」
という説も浮上している。
決定的な結論は出ていないが、
少なくともこの島が数世紀にわたりカンノナウを守り続けたのは事実である。
2|島で唯一のD.O.C.G.
Vermentino di Gallura DOCG
(ヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラD.O.C.G.)
サルデーニャで唯一のDOCG。
島北東部ガッルーラ地区に限定される。
品種:ヴェルメンティーノ95%以上
最低アルコール:
Normale 11.5% / Superiore 12.5%
Galluraは島内でも特異な地域である。
風化した花崗岩土壌
海抜200〜500mの丘陵
強烈なミストラル(北西風)
強い日照と乾燥
排水性が極めて高く、
ブドウは深く根を張らなければならない。
その結果、
香りとミネラルの純度が際立つ。
柑橘の皮のほのかな苦味、
白桃の柔らかさ、
乾燥ハーブ、
潮を思わせるニュアンス。
同じヴェルメンティーノでも、
トスカーナは果実味が前面に出やすく
リグーリアは軽快で繊細
Galluraはより引き締まり、より塩味を帯びる。
なぜここだけがDOCGなのか。
それは、
ヴェルメンティーノの個性が最も明確に、
そして安定的に表れる土地だからである。
3|サルデーニャの真の主役
Cannonau di Sardegna DOC
(カンノナウ・ディ・サルデーニャD.O.C.)
品種:カンノナウ85%以上
生産地域:島全域
Classico:Nuoro周辺
Riserva:最低2年熟成(うち6ヶ月樽)
カンノナウは、
フランスのグルナッシュ、スペインのガルナッチャと同系統。
品種としての特徴は:
中熟〜やや早熟
糖度が上がりやすい
酸は中程度
果皮は厚めだが色素はやや淡い
乾燥耐性が高い
強い日照のもとではアルコールが高くなりやすい。
しかしサルデーニャでは、
ミストラルが病害を抑制し、
健全な果実が育つ。
さらに、
沿岸部(海抜0〜200m)では柔らかく果実的
中央山岳地帯Nuoro(300〜700m)では酸が保たれ引き締まる
OlienaやMamoiadaでは古木由来の深みが出る
同じDOC内でも、
表情は驚くほど多様だ。
そして“いま”
かつては15〜16%に達するパワースタイルも多かった。
だが近年は、
早めの収穫
抽出の抑制
セメントタンク回帰
アルコール14%前後への調整
バランス重視へと移行している。
サルデーニャのカンノナウは、
力強さだけで語られる時代を終えつつある。
4|もう一つの重要赤
Carignano del Sulcis DOC
(カリニャーノ・デル・スルチスD.O.C.)
島南西部スルチス。
砂質土壌が多く、
フィロキセラ被害を免れた古木も残る。
カリニャーノは、
色がより濃く
タンニンが強く
より骨格が明確
カンノナウとはまた異なる
サルデーニャの表情を見せる。
5|風がつくる島
シチリアが火山なら、
サルデーニャは風。
劇的ではない。
だが静かに、確実に個性を刻む。
唯一のDOCGである
ヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラ。
島全域を包み込む
カンノナウ・ディ・サルデーニャ。
そして南西部のカリニャーノ。
この島のワインは、
派手さではなく、
持続する個性で語られる。
サルデーニャは、
いま静かに再評価されている。
流行ではない。
守り続けた葡萄が、
ようやく世界に届き始めたのである。
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