見出し画像

ぼんぼりドーナツをどうぞ|連作小説⑪

1380字

「ひなまつりパーリー、来てくれる?」
「パーリー?」
「うん、そう」
 マジメな顏で言うので、花歩かほは反応に困る。
「ん? パーチーのほうがよかった?」
 いや、そういうことでなく。 
 3月3日は、ヒナタボコの前身レストランの開店記念日。
 ヒナタボコで働くおばちゃんたちは、くしくも「雛隊」を名乗っている。前日の3/2(日)に、貸し切りでお祝いの会をひらくとのこと。

「へえ! 楽しそう。なにつくるの?」
「えっとね~、桜鯛のカルパッチョ、桜色クラムチャウダー、手まり寿司がメインかな」
 海老とアボカド、桃の花をかたどったきゅうり&カニ、錦糸卵の中はピラフ、洋食屋さんの矜持きょうじ・ローストビーフは低温調理でしっとり仕上げ。
 大葉にちょこんとのった、菜花添えころりんお寿司たち。話を聞いているだけでよだれが出そうになる。
 ちなみに、クラムチャウダーの隠し味は、なんとケチャップ。まだまだ肌寒い時季にうれしい、ほっこり滋味スープのおもてなしだ。
 手の込んだ料理を10人分+α。まさかひとりでこなす気かと心配したが、前もって仕込んでおくぶんとはべつに、午前中みんなでわいわい調理するのが恒例になっているらしい。

 前回、サラダガレットを手伝って気づいたことがある。
 意外にも、厨房は雑然としていた。見えている範囲とはちがい、奥の棚や調理器具は、それぞれが意思を持っているかのごとく、わがまま放題にごちゃついている。
「実は整理整頓がニガテで。美絵みえさんたちにインテリアとか丸投げなんだよね……」
 魔法使いのように絶品料理を作り出す。花歩にとって一青いっせい=異次元の才能だったが、一気に親近感を覚えた。ふふふ、と声に出してしまい、怪しまれる。
「あ、バカにしてる?」
「全然。一青さんは仙人じゃなかったなって」
 今度は彼のほうが戸惑ったのか、くしゃみをこらえているような微妙な表情に。弱点を認めたさっきは、耳を倒したわんこかと思ったが。

 赤エプロンがトレードマークかと思いきや、春夏は空色のデニム地に衣替えするという。白シャツも含め、しみじみとよく似合っていて、花歩は所在なさを覚えた。物理的距離をとろうと、厨房からさりげなく出る。
「明かりをつけましょ?」
 前ぶれもなく歌いだし、意味ありげな視線を投げてくる。
「……ぼんぼりに?」
 スイーツにも定評のあるヒナタボコ。
 ひなまつりには、甘酒と白桃のパンナコッタが登場予定。十分すぎるラインナップだが、主役はべつにある、と一青は自信たっぷり。

 イタリア・トスカーナ地方の郷土菓子、まんまるフォルムがかわいい軽ふわドーナツ。揚げてあるのに不思議なほどもたれない。
「ボンボローニ。もう、ひなまつりにはこれしかないっしょ!」
 ……うん、親父ギャグですね。
 ふんわり生地の中心には濃厚クリームがたっぷり。ティラミス味は珈琲クリーム、華やかな紅茶フレーバー、スイートポテトに檸檬風味。バリエーションの多さは気合いの表れだろうか。

 ベースとなるカスタードクリームからして最高。
 バニラビーンズの香りと卵の甘み。ホイップと合わせてあるせいか、ほわっと溶けるやさしい味わい。
 こんがりバタートーストにぽてっとのっけて、かぶりつきたい。
「それいいな。パンケーキとかクロッフル(クロワッサン×ワッフル)にも応用できるし」
 職人の顔に切り替わった一青は手を拭いてから、スマホにメモ入力した。

(つづく)

▽つづき(第12話)

▽前回のお話(第10話)

▽第1話~

まあるい手まり寿司&
まあるいドーナツでお祝い⭐

#賑やかし帯 #連作小説 #小説 #恋愛小説が好き #飯テロ












いいなと思ったら応援しよう!

藤家 秋 最後までお読みくださり、ありがとうございました。 いただいたチップはインプットのための書籍購入費にあてます。 また来ていただけるよう、更新がんばります。

この記事が参加している募集