まかないグラタンをどうぞ|連作小説⑫
2187字
ひなまつりパーティー当日、花歩は花を活けた。
花屋さんには桃の花、猫柳、雪柳、菜の花、キンセンカなど、まだ咲いていないはずの花材も含めきっちり入荷していた。
ライトグリーンや水色のガラス花瓶を持ち込み、華やかに且つじゃまにならないよう飾る。大きめの花器には、桃の枝を中心にすっきりと。ちいさいほうは低く可憐な感じを出してみた。黄色と白、ピンクで空間が春めく。
枝が思っていたよりも大ぶりで、ちいさな剪定ばさみで四苦八苦。ああでもないこうでもない、と格闘していたら、ため息のような歓声が聞こえた。
「いけばな習われてる? きれ~」
「すみません、自己流なんです」
「そういうときは、ハイ、得意技です!って涼しい顔しとけば、ごまかせるよ?」
ふふ、と笑う姿に既視感があった。
「ちょ、来るの早すぎだから! ゲストは重役出勤してくれないと」
「だってえ。楽しみで早く目が覚めたんだもん」
一青がいつもとちがい、あわてている。親しげな空気に花歩はピンときた。七生のほかにもきょうだいがいたのかも。
「お姉さんですか? はじめまして、榎本です」
ふたりして黙り、花歩を見つめる。
と、女の人が一青の背中をいきおいよくはたいた。
「きゃー、聞いた聞いた? お姉さん、だって!」
とんでもない発言をしたのかと不安になっていると、母親の雪野だと種明かしされた。本日3/2は一粒万倍日なだけあると、彼女はにっこにこ。
スペシャルゲストの存在を聞かされてはいたが、まさかお母さんだったとは。今ごろになって、髪型やメイク、服装が気になってきた。
「こちら、歩く花と書いて榎本花歩さん。いろいろ手伝ってもらってる」
「まっ。名は体を表しまくり! 私もお手伝していい?」
表情や言葉遣い、なにより雰囲気が若々しい。彼女のやわらかなオーラに緊張はどこかへ消えていった。
朗読会にて即興コラボした相方である樹里氏、4歳。
完成度を上げたいとの申し出を受け、祖母である美絵の家に赴きリハーサルを重ねてきた。
樹里がえらんだのは、12匹のくまの兄弟が活躍する『くまのようちえん』シリーズから『くまのこ、ちらしずしをつくる』
紅一点・末っ子の桃の節句をお祝いするため、こぐまおにいちゃんたちは手分けして、海へ山へと材料を求め冒険の旅へ。ところが、肝心の末っ子ちゃんが海隊山隊どちらにも参加したいと駄々をこね……
「サーモンのおさしみ釣るの!」
「うーん、おさしみは泳いでないかな?」
「竹の子のおとうさん、おかあさんをひっこぬくの!」
「えっと、おとうさん、おかあさんはムリかな? 空まで伸びてるから届かないよ」
まるで樹里の地をいくようなキャラで、掛け合いが楽しい。さりげなく食育にもなるという、大人が読めばうなるストーリー。
練習の成果を存分に発揮し、樹里は気取ってスカートの裾をつまみ、ペコリ。漫画家兼ミュージカル女優が夢だそう。
「イッセイくんとカホちゃん、ふたりはいい感じなんだって~。ばあばが言ってた」
梅シロップ入りカルピスをごくごくしたあと、得意げに発表する。突拍子もなくて、大人たちは反応に困っている。
「いいかんじって、どんな漢字? ジュリは練習したから自分の名前書けるんだよ?」
「すごいねえ、樹里ちゃん。きれいな字を書けるとかっこいいよね。どんな漢字だろね~、青空とお花が仲良しなの、わかるなあ」
雪野がさりげなくフォローしてくれ、花歩はほっとしたようなむずがゆいような、逃げ出したい気分になった。
やわらかな日差しが、ひな飾りにふりそそぐ。竹筒の中に収まるかぐやびな。友禅和紙のお着物の人形は、ふたりそろって居心地よさげにほほえんでいた。
「もう、ほんっとに助かった! ありがとう」
セッティングから料理の手伝い、片付けまで、なんだかんだと長丁場だった。
「残り物でなんだけど、食べてほしい」
パパッとつくってくれたのは、グツグツと誘うまかないグラタン。とろけたチーズとこんがり焼き目が、遠慮する選択肢を無効にする。
クラムチャウダーのコクで、ホワイトソースの必要性はまったくない。
「大好き! メニューにほしいくらい」
いつも以上に照れまくる彼。なにか変なことでも言ったっけ?
小海老とスナップエンドウ、マカロニも加えてあり、言われなければリメイクだとは気づかない。
「わたしのなんちゃってグラタン、恥ずかしいなあ」
ブロッコリーとゆで卵、ベーコンと冷凍フライドポテトに、マヨネーズ、チーズ、パン粉をかけて焼くだけ。冷凍ポテトは肉じゃがにしてもいい。時短に命をかける、めんどくさがりが編み出したレシピ?である。
手間暇かける彼の料理とは対極にある。
「いいね! その発想はなかった。天才じゃない?」
とろとろグラタンの最後のひとくちを味わいながら、ほほえみ返す。
「まかないでもなんでも花歩さんに食べてもらったら、この時間をすこしでも引き延ばせるかなあ」と一青はグラタン皿を指差す。
「っていう下心グラタン」
「それは……」
「うん 」
「メニューには載せられないね」
声を合わせて笑い、カウンター越しにキスをした。
帰る? と言われ、うなずく。
肌寒いけれど、春がひっそりと出番をうかがっている気配がする。芽やつぼみたちの寝言が聞こえてきそう。朧月の明かりがほわほわとやさしい夜だった。
(つづく)

▽つづき(第13話)
▽前回のお話(第11話)
▽目次:第1話~
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