見出し画像

居眠り猫と主治医 ②初診 連載恋愛小説

 やることもないので両手で頬杖をつき、彼の事務作業をぼうっと観察する。しばらくすると、眉間にシワを寄せてこちらへやってきた。
「気にさわったんなら、やめます。もう見ない」
 返事をせず、ゆうは無造作に文乃ふみののあごにふれ正面を向かせた。そのまま顔を近づけたかと思うと、文乃の目の下あたりに親指を置く。
「貧血だな」
 下まぶたの内側を確認したらしい。

 なんの前ぶれもなかったので、心拍数がおかしい。
 心臓の音聴かせてくださいねー、とか動物相手にはあんなに穏やかなのに。なんなんだ、この落差は。
「肉もろくに食ってなかったし」
 人間に興味はなさそうなのに、観察眼は鋭いというちぐはぐさ。
 文乃は周期的に壊れることがある。明かすつもりはなかったが、すでに見抜かれている気もする。

「なんか食う?」
「え? いいです、大丈夫です。食欲ないんで」
 しゃべればしゃべるほど、相手の機嫌が悪化していくのが手にとるようにわかった。しかたがないので、出された野菜ジュースはがんばって全部飲んだ。
 逃げるように仮眠室に戻り、毛布にくるまる。体が限界だったのか気絶したかのように眠り込み、始発はおろか開院時間ギリギリまで居座ってしまった。
 夜勤開けの夏目祐が、出勤してきた看護師と引き継ぎをしている。これはまずいと、見つからないように裏口から出た。
 泥棒かよ、と文乃は自分にツッコんだ。

(つづく)

*23年7月に公開していた作品です
加筆・修正し、分割して再掲します


#連載小説 #恋愛小説が好き #私の作品紹介  




















いいなと思ったら応援しよう!

藤家 秋 最後までお読みくださり、ありがとうございました。 いただいたチップはインプットのための書籍購入費にあてます。 また来ていただけるよう、更新がんばります。