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居眠り猫と主治医 ㉘夏目先生のお料理教室 連載恋愛小説

 次の日、スーパーに寄って手巻き寿司の材料を買い込んだ。
「あ。初デートだ」
「どこが」
 昨日の彼はどこへやら、すっかりクールな夏目祐に戻ってしまっている。
 おぼつかない手つきの文乃に業を煮やし、祐は包丁を取り上げた。
「刺身があとかたもなくなる」
 刺身包丁でなくても2回に分けて引くように切るといいと、職人技を見せてくれる。
 文乃は卵焼きをねだって、その魔法のような箸さばきに目を丸くし、料亭並みの味だと絶賛した。

 満を持して、得意料理を披露する。心を救ってくれた甘酒ミルクの恩返しが、やっとできる。
「ツナマヨかよ」
「ただのツナマヨではございません」
 隠し味に、かつお節とケチャップを入れて、旨みアップ。おむすびにもぴったり。
 うまいじゃん、と言われて破顔する。
「はじめてほめられた……」
 祐がお父さんだったらよかったのに、とふと思う。
「そしたら、もっとまともな人間に育ちそう」
 名を呼ばれて見上げると、彼は神妙な面持ちをしている。
「かわいい」
 目をぱちくりさせてしまった。
 自分の良さをわかっていないから、これからはポジティブなワードを浴びせると彼は言う。

 照れ隠しに、彼の好きなところを教えてあげた。
「几帳面、説教くさい、要領がいい、裏表激しい」
「あきらかに悪口だろ、それ」
 核心を突いているのが腹立たしいらしい。もうすこしひねって、ピンポイントで考えてみた。
「料理の手さばき、診察のときの鋭い目、動物にかけるやわらかい声、子供みたいな寝顔。これでどうだっ!」
 唐突に腰を引き寄せるから、洗っていた大葉がぺたりとシンクに落ちた。
「……包丁持ってます、先生」
「あー、うん」
 食前のキスは、なんだか妙な気分になる。

(つづく)

#私の作品紹介 #連載小説 #恋愛小説が好き #賑やかし帯


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