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あすみ小学校ビレッジ ⑭こころの居場所 連載恋愛小説

「もう泉イズムになってるんじゃ?」
 「あすみ給食室」の名物は、コッペパンサンド。

 敷地内にある畑で野菜を収穫し、客が自分好みのサンドイッチをこしらえる。自分でつくるので食べ残すこともなく、食育にもなる。
 もとは家庭科室だったので「調理実習サンド」と呼ばれている。
「あ~、りゅうちゃん親父ギャグ~」
 善がレタスをちぎりながらツッコむ。
「これで晴れて、身も心もオヤジ化まっしぐら~」
「ハカセ、毒舌に磨きがかかってますな……」

 もともと本の虫だった善だが「森下寺子屋」で学ぶようになってから、語彙ごいが格段にゆたかになった。図鑑で仕入れた情報とフィールドワークで体感した知識が、いい具合につながったのだろう。
 龍次とつるんでいる姿は、実の兄弟のよう。
「うっわ、だせー。きゅうりをよけるな!」
「え? だれのことっすか」
「シャキシャキしておいしいのに~」
「なんか生臭くないっすか、ハカセ」
 厳しいハカセの指導を受け、きゅうりスライスを1枚だけ受け入れる龍次。

「オッサン先生とりゅうちゃんのおかげで、ぼくの世界に色がついたんだ。今まで白黒だったけど」
 幼いながらも、他人にはわからない苦悩を抱えてきたのだろう。思いがけずシンクロして、泉は鼻の奥がツーンとした。
 龍次の反応はというと「どんな色? 原色、それともグラデーション?」と善を質問攻めにしている。
「オサム先生はともかく。僕はとくになにも……」
 善の尊敬のまなざしに、龍次はとまどっている。

「ガッコの先生やオヤは『ちゃんとしなさい』って言うけど、りゅうちゃんみたいなオトナもいるんだって、安心したんだ。きゅうりも食べれない、片づけもできない。でも、すきなことで食べていけてる」
「なんかビミョーにうれしくない……」
 すこしくらい枠からはみ出ていても、生きていくうえでなんら問題はない。好きなこと、自分の軸を見つけ、それを極める。その姿が善にとって新鮮な驚きだったようだ。

 人間が嫌いになった時期があった、と龍次はあとで話してくれた。中2のとき、授業でまちがいを指摘したら無視されるようになった。
「担任主導のいじめっていうの? 人間不信になるよねえ。あんなちっちぇー人間でもセンセイになれるんだもんな。一人称『先生』の教師、めっちゃイヤ」
 「先生」呼び教師は世の中にごまんといそうだが、それはおいといて。

 彼の口ぶりから察するに、龍次も善と同じように学力や洞察力が群を抜いていたのかもしれない。
 生きづらさを痛感し家から一歩も出ない状態だったが、ジオラマのおかげで「人間界に復帰できた」と。
「オタク仲間とリハビリ楽しかったよ? 今でも関係続いてるしね」
 いきいきと話す彼の当時の葛藤を思い、泉はもらい泣きしそうになる。
「僕は泣いてないから、泉さんのセルフ泣き」
「なにそれ」

 現在進行形だった善の苦しみにそっと寄り添っていたのも、気持ちがわかりすぎるくらいにわかっていたからなのだ。
 奥行きのあるひとだと、なんだか安心して話せる。その印象は、彼の過去を知ることでよりいっそう強まった。

(つづく)

#恋愛小説が好き #私の作品紹介 #賑やかし帯

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