着ぐるみとロボット ②大人のデート 連載恋愛小説
前から気になっていたお店に誘ってはみたものの、あまりにオトナな雰囲気に、忍のちいさな体はさらに縮こまる。
「あのー、カルピスとかありますかね? ここ」
オシャレな脚の長いスツールも座りづらくて、ひと苦労。コソコソと長屋の耳にささやいたところ、白い目を向けられた。
ふたりのぎこちない空気を察し、立ち姿のきれいなバーテンダーが助け舟を出してくれる。
「ノンアルコールのカクテルもございます」
甘酸っぱいのはお好きですか、と忍の好みも言い当てた彼は、軽やかにシェイカーを振り、グラスに液体を注ぐ。淡いルビー色のカクテルだ。
「え。これほんとにノンアルですか? お酒って感じー。きれー」
「シャーリー・テンプル。ジンジャーエールにざくろのシロップが入っています」
ほんのり甘くて、さわやか。好みど真ん中だった。
おいしい、すごい、と騒いでいたら「ノンアルの王道だから」と、長屋はそっけない。彼のほうは、定番のジントニックの麦焼酎バージョンを飲んでいる。さっぱりして食後にいいとのこと。
「飲めないのに、なんでここ?」
天井のシャンデリアに見とれていた忍は、長屋としっかり目を合わせる。
「大人の恋といえば、バーなので」
キメたつもりが、さらっとスルーされた。
教授に絡まれていたのは気づいていたらしく、うまいことかわすようにとお説教を食らう。
「やさしいですね。私のこと気になります?」
「宮城から忍としか聞いてないけど、名字なに」
たいして興味なさそうに、彼は言う。
呼び捨てされたことに感動して、忍はひとり、別世界へ。冥途の土産にしようと、再生を依頼してみた。
「もっかい言ってもらって、いいですか? よく聞こえなくて」
「名字」
そこじゃないのに。しかも、超短縮されている。
「河嶋です。河嶋忍。長屋さんのフルネーム、知ってますよ。長屋将さん、ですよね? デキる男にぴったりの、かっこいい名前ですねっ!」
「……もしかして、帰国子女?」
なんでわかったのかと、忍の目がまんまるになる。
「日本人は、そんなにほめないから」
ほめたほうも、ほめられた人もハッピーになる、ウィンウィンな習慣なのにな。
いいな、と思ったら、忍はすかさずその場で口に出すようにしている。最初はとまどっても、言われた人は必ず、すてきな笑顔になるのだ。
長屋将は、その理論に当てはまらないようだけども。
(つづく)
▷次回、第3話「忍のコンプレックス」の巻

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