あすみ小学校ビレッジ ④花子さん騒動 連載恋愛小説
「いづみやさん、たいへん! 花子さんが出た!」と瑠美から出動要請。
よくよく聞けば、夜中に校舎で人影が見えるとのこと。
「ええ? ホテルのお客さんじゃ…」
「ちがうんだって。第二校舎のほう」
スミくんを借りて、夜の校舎に入る。われながら勇ましい。
泉は霊感がまったくないので、幽霊も妖精も見たことも感じたこともない。
それでも、暗闇に沈んだ建物は独特のつめたい空気を抱えていた。ホテルに改修されたのは第一校舎で、こちらの第二校舎は当然ながらひとけもない。
ひとり肝試しって、どうなんだろう。
避難用の誘導灯がともるようになっているため、真っ暗なわけではない。
窓はすべて閉まっているのに、首筋になまぬるい風を感じる。だれもいないはずの廊下の奥から、水を流す音が聞こえた。
モノホンの花子さんは、やはりトイレに常駐している……?
ペタンペタンと間の抜けた音をたてながら、不気味な長い影が姿をあらわす。
泉は悲鳴をあげ、顔を覆った。その影は不思議そうに首を傾ける。
「……びっ……くりしたあ」
「え? いづみやさん……? それこっちのセリフだよね。どしたの。こんな夜ふけに」
「こっちのセリフ……」
2教室ぶんの壁をぶちぬいてできた多目的室。今は塩屋龍次のアトリエとなっている。
「ノッてくると時間忘れちゃって。というか、中断したくないんだよね」
サイズの合っていないスリッパが窮屈そうな彼は、泉が落としたスミくんのリードを拾い上げた。
泉が大声で騒いでも、柴犬らしい気高さで動じない。
「きみは番犬には向かないねえ」
龍次が語りかけると、スミくんはくすんと鼻を鳴らした。
夜な夜な、人知れず作業に励んでいたというわけか。
アートに没頭できる場を提供する。それが「Fresh Airプロジェクト」の目的のひとつだが、限度ってものがあるだろう。
そんな騒ぎになっていたのかと、高速でまばたく彼。
「バレないと思ったんだけどなあ」
あはは……と力なく笑いながらも手は止まっていない。
塩屋龍次はジオラマ作家。街や森、海や川を精巧につくる。人物フィギュアも市販ではなく、お手製。
あたたかみのある作風で物語性があるという評判だが、素人の泉にはよくわからない。
彼の作品を見ていると、その世界に吸い込まれた感覚になる。それがストーリーの力なのだろうか。
(つづく)

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