具だくさんスパニッシュオムレツをどうぞ|連作小説⑲
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「お~、今年は豪華だなあ。なんか厚みがあってボリューミー?」
4月生まれの父の誕生日、好物のオムレツをつくる。
レシピサイトで見つけたスパニッシュオムレツを花歩が披露して以来、毎年それを所望されるようになった。甘いものがニガテな父にとって、それがバースデーケーキなのだ。
いつもは玉ねぎとベーコン、じゃがいもだけだったが、今回は彩りを考え、ミニトマト、春キャベツを足してみた。
5、6個の卵を溶きほぐす。塩こしょう、ピザ用チーズ、炒めた野菜を入れ、卵液の完成。
オリーブオイルを引いたフライパンに流し入れ、ふんわりするように大きく混ぜる。半熟になったら5分ほど蒸し焼き。裏返してさらに4分ほど焼く。
ここで失敗すると残念な見た目になるので、えいやっと気合いを入れて。
「お父さんを産んでくれて、女手ひとつで育ててくれてありがとう。おばあちゃんがいなかったら、お母さんはお父さんと出会えなかったし、わたしも生まれなかった。 全部おばあちゃんのおかげです、ありがとう」
父への祝福のあと、祖母に思いきってつたえてみた。反応があるかどうか、ちょっとこわいけど。
キツイ嫁姑戦争の影響で、祖母とは食事も別々、同じ屋根の下でも分断状態だった。
孫娘の向こうに嫁の影を感じるせいか、めったに笑顔を見せることのない祖母。幼い頃はかわいがってもらったような気がするが、ほとんど覚えていない。母をいじめる人、という認識が刷り込まれてしまって。
複雑によじれてしまった感情の糸を完全にほどくことは、できないのかもしれない。
「……あんたの子供には思えない。律子さんの血かな」
お皿に目を落とし、オムレツにスプーンを入れる。彼女が食べるのはまったくのはじめて。
妙に緊張し、映画かなにかの映像を見ているみたいに現実味がなかった。
「ハイカラだね」
「ハイカラて。おいしいんだってさ、花歩」
「えっと、味が足りなかったらケチャップあるから。お父さんはかけすぎ。味見もしないでかけないでくれる?」
にやにやしながらケチャップを勢いよく絞る父。それを見越して調味料をひかえめにしてはいるけども。
ふたりとも残さずペロリ。それだけで、じんわり心がほぐれる。
「気が済んだから、律子さんと暮らしなさい。こそこそ会ってないで」
「あ、バレてた? けっこう楽しんでるよ、バーで夜デートしたり。障害があるとなんちゃら、ってやつ?」
のんきなオヤジに開いた口がふさがらない。
ずんと心が重くてものを食べられるかすら自信がなかった、さっきまでの深刻ムードをどうしてくれる。
花歩の見ていた祖母は一面にすぎない。
これからは、もうすこし話してみようかな。あとになって悔やまぬように。
「今まで理不尽に耐えてきてくれた律子に、これ以上いやな思いはさせたくない。姉貴とも相談して、万が一の時は施設に入ってもらうことにした。幸い、今は元気だけどな」と、父はあとで教えてくれた。今から情報を集めているという。
結局、母は家には戻らず、娘のアパートでの生活を維持する方向だ。
いわく、「発展的別居」なのだそう。
「着たい服を着て、行きたいとこに行く。ゆきのんさんの影響かな。すごいよね、陽のパワーっていうの? 初対面でハイタッチしたしね」
雪野のペースに喜んで乗っかっていく、そんな母にも十分バイタリティーがある。
母親や姑という集合体があるわけじゃない。ひとりひとり考えかたも環境もちがう。あたりまえのことをどこかにやっていた。
「来週、ゆきのんさんちでパジャマパーティーするからさ、花歩は一青くんをここに呼びなよ。あ~、楽しみ~」
抑圧されてきた反動か、なかなかのはっちゃけぶり。
理解がありすぎるというのもなんだかなあ、である。
(つづく)

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