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着ぐるみとロボット ⑪未遂 連載恋愛小説 

「自覚してなかったけど、けっこう引きずってた。しののこと。できることなら、やり直したい」
 たそがれの空。薄雲が風で流されていて、忍は同化しそうになった。
「それは無理。たぶん」
「たぶん?絶対じゃないんだ」
 國見くにみりょうと交際したのは、高3の冬。あと数カ月で卒業というタイミングだった。数週間もしないうちに、留学のウワサが本人以外からもたらされ、忍は疑心暗鬼になった。
 自信がなくて不安定だった、あのころの気持ちがよみがえってきて、時間感覚がおかしくなる。ソーラーパネルが設置され、あまり学生が出入りしない2号館の屋上は、母校のそれとよく似ていた。

「やり直せそうか、確認してみる?」
 ほとんど抱え上げられるような体勢で、キスをしていた高校時代。國見がフェンスに手をかけたとき、ドアのきしむ音がした。
「河嶋借りていい? 話がある」
 雷に打たれたみたいに硬直した忍に反し、國見はゆっくりと体を離した。
「急ぎですか?」
「そう」
 國見と長屋、ふたりとも声は穏やかなのに、空気はザラつく感じがする。
 どうでもよさげに手招きされ、ロボットみたいなぎこちない足取りで忍は長屋に従った。

 空気のこもった、独特の匂いがする。そこは理科準備室みたいなところで、予備の実験器具やら薬品類やらが、ガラス戸棚に保管されていた。
 長屋はロッカーのカギを開け、大きな箱を取り出す。
「え? ハッコくん、きれいになってる……」
 くたびれた毛並みは空気を含み、ふわっふわ。そのせいで、ひとまわりボリュームが出た気さえする。
 さわっていいかと確認してから、忍はそっと手のひらをあててみた。永遠になでさすりたい衝動に駆られる。
「ハイ、つかまえた」
 背後から腕が巻きつき、しっかり確保されていた。
「なに、さっきの」
「な、なんことやらさっぱり……」
 とぼけてみたが、きつく抱きしめられ、忍は黙るしかなくなる。
 さっきからずっと動悸どうきが激しくて、血管が切れるんじゃないかと心配になる。

 長机に横たわっているハッコくんの上に忍を座らせ、長屋は両腕で閉じ込めるようにして向かいあう。なにも言わずに目を伏せ、忍のあごと首の境目あたりに唇を押しあてる。そして、そのまま強く吸う。
「き、キスマークはまずいです……」
「じゃあ、なんだったらいいわけ」
「唇にちゅーとか……」
「断る」
 本気を出してきた長屋の色気は尋常ではなく、オオカミに狙われた野うさぎのごとく、忍は身動きが取れなくなってしまう。
 キス未遂に張り合っているとしか思えない。
「浮気じゃないです」
「でも、グラついてた」
 しおりとつきあうことになったのではと、お返しとばかりに追及する。

「それは明日から。今はまだフリー」
 耳を疑い、忍はその胸を押しやった。
「冗談」
 完全にキョヒられたと、長屋は楽しげに言う。ほかの女が頭から離れないのに積年の想いを自己満足でぶつけて、宮城しおりをムダに混乱させた。
「オレもバカだってこと」

 しおりはやっぱり、あの人が忘れられないのか……
 感傷に浸ってしまい、忍は自分が今置かれている状況を失念しそうになった。
「あの……ハッコくんが見てます」
 廊下からのわずかな光をとらえた、つぶらな黒い瞳と目が合う。
 キスをすっとばして最後まで奪われかねないところ、丸洗いクリーニング帰りの彼に救われたのだった。

(つづく)
▷次回、第11話「忍、拾われる」の巻

#恋愛小説が好き #小説 #賑やかし帯


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