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居眠り猫と主治医 ㉛秘密の業務連絡 連載恋愛小説

 感受性が豊かで共感力が高く、人のために泣いたり笑ったりできるから、塾講師は天職だ。脈絡なく言われて戸惑ったが、言霊作戦かと思い出す。
「もっとほめてみて。あ、私のどこが好きか聞いてない」
 ちょっと浮かれて踏み込んでみたものの、文乃の期待した答えとはテイストが異なっていた。
「迫ったら泳ぐ目、ビクつく舌。……以下、自主規制」

 もう会えないと本気で思っていたので、いざ密着するとなにがなんだかわからない。振り出し以前に戻った感覚だった。
「どうかした?」
「ど、どうもしないけど?」
 祐はといえば終始ゴキゲンで、テンパる文乃を堪能している模様。
「オレの性癖わかったうえでやってんなら、策士」
 左手を制止しても、フリーの右手が文乃の背骨をたどり、遊びだす。

「話に集中できない」
「この状況でなにを話すんですか、守屋さん?」
 獣医さんモードで思い出した。里佳子がなにか言っていなかったか探ってみる。
「ああ。グループラインで長文送りつけてきた」
「業務連絡:小鳥会会員・守屋文乃さんは、夏目祐先生とただいま絶賛ケンカ中につき、しばらくお休みです
(期間は、夏目先生しだいです)
仲直りのあと、復帰予定 みんなであたたか~く見守りましょ~」
 文面に目が点になった。

「昔で言う、連絡網まわされた感じ? それにしても圧がスゴイな、水野さん」
「イヤじゃないの?」
 ひた隠しにしたかったであろう関係を勝手に暴露されても、憤慨するどころかゆかいそうだ。
「オレがしょっちゅう文乃のこと目で追ってるとかで、とっくにバレてたけど?」
 かの子になぜ交際の事実をつたえていなかったのか、と逆に追及される。
「文乃がいない、消えた、ってうろたえすぎて、あとでさんざんからかわれましたよ」
 元カノとのニュートラルな関係性が、いまだに理解できないけど。

「最初の夜、妖艶に誘われたんだけどなー」
「人違いですね」
「同じ匂いだし、同じ反応なのに?」
 たまらずその唇をふさいで軽口を止めたつもりが、罠にかかっただけだと直後にさとる。祐の目が躍るように不敵に笑った。
 じゃれ合いながらもなんとか話はまとまり、月イチで互いを訪ねることになった。
「いろいろ案内してもらえるね」
 絶景の孤島でイチャつくのもアリだな、と彼は悦に入っていた。

 せっかく具材をそろえたのに、最先端チルド室とやらにそれらは追いやられた。朝食に手巻き寿司は、斬新だなと思う。祐といると、新しい体験が次から次へと増えてゆく。
 ほんのすこし先の未来を考えて、心が弾む。それは文乃にとって未知の感情だった。

(つづく)

#連載小説 #恋愛小説が好き #私の作品紹介 #賑やかし帯

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