あすみ小学校ビレッジ ⑯夏祭り開幕 連載恋愛小説
明日海市消防局所属・マーチングバンドがビレッジ内を練り歩き、お祭りの開幕を高らかに宣言。
運動場は花火大会の設営に特化されているため、縁日のお店は屋内に登場。コロッケ・焼き鳥・焼きそば・焼きもろこし・サイコロステーキ串。
りんご飴・綿菓子・たい焼き・アイスクリーム・ベビーカステラ。
誘惑の香りがあたりに充満している。
かき氷は、特産のレモンをふんだんに使用した、特別バージョンが人気。自家製レモンシロップに砂糖漬けのスライスレモンを全面にはりつけた、映え度100%の逸品。
1階ロビーでは、地元食材フェスタを開催。
鮮魚や朝どれ野菜は、目を疑う安さ。おばちゃんの手づくり味噌や、佃煮、干物。ころんとしたフォルムの檸檬ケーキやレモンジャムが、飛ぶように売れていく。
年じゅう人気の瑠美のたこ焼きは、助っ人を加え量産体制。
店主は「がんばりすぎると体がもたない」と早々に現場をはなれ、のんびりとお店めぐりをしている。
校舎の廊下をランウェイにした「みんなが主役でshow」ファッションショーは、古着のコーディネートを披露するイベント。
ペットや車いす、幼稚園児や90歳のモデルまで、照れたり胸を張ったりとさまざまな表情で晴れ舞台に立つ。
ものづくり部の部員たちが手がけた「ミニジェットコースター」は不安定さがスリル満点だと一部男子に直撃し、連続乗車する猛者まで。
射的・スーパーボール釣り・ポケモンカードクジ引き。子どもそっちのけで熱中するお父さんたちがちらほらいるのも、ほほえましい。
金魚すくいで隠れた才能を発揮したのが、龍次。
彼のポイだけ不思議なほど破れず、ほとんど紙の部分がなくなってからも延々と金魚をぽいぽい確保する。
「全国大会行ったことあるし」とさらりと告白する。
コツを知りたがる善には「金魚の息づかいを感じること」とあてにならないアドバイスを授け、あきれられていた。
準備段階で燃えつきた感のある泉は「なにごともなく今日1日が過ぎてくれれば……」と祈るばかり。ひとりひそかに中庭のベンチに避難する。
木の枝に巻き付けられたライトは不規則に点滅させる仕掛けで、蛍のような奥ゆかしさ。にぎやかさと隔絶された空間は、張り詰めていたものがゆるむ気がする。
濁りのない透き通った池の水。それはたまたま手に入ったのではなく、いろんなひとの努力でなしえた宝物。
その水面は今、ちらちらと明かりが揺れる夜空を映していた。
「おつかれさまです、いづみやさん」
なにも考えずぼーっとしていたから、声に気づくのが遅れた。ビクッと肩を震わせた泉に、龍次は申し訳なさそうな表情。
「となり、いいですか?」
ベンチを差すその指先に、泉は首を縦に振る。
(つづく)

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