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折原一『六つ首村』冒頭試し読み公開!【11/19発売】

2025年11月19日(水)発売の新刊『六つ首村』(折原 一・著)より、プロローグ&第一部の冒頭を試し読み公開します。


折原 一『六つ首村』

プロローグ


   1

 村が燃えている。赤々と、そして禍々しく……。
 油が溜まったすり鉢のような盆地の底に火がつき、折からの強風に煽られて、その範囲を広げていた。今、その火は五、六軒に燃え移り、地獄絵図をさらに広げる勢いだった。
 近くで半鐘の音が鳴っている。消防分署の火の見櫓から誰かが鳴らしているのだ。山向こうでカンカンという金属音のような響きが聞こえる。消防車のサイレン音だが、それがここに向かっているのか、山向こうのどこかの火災現場に出動しているのか、現時点では判断できなかった。
 男は日本刀を手にしていた。その刃全体に真っ赤な血がべっとりと付着し、刃先から血が滴り落ちている。興奮が収まらない。胸の動悸が激しく、放っておけばその場で心臓が破裂してしまいそうだ。来歴は不明だが、何代も前から伝わる名刀だという。とにかくよく切れる。この刀は過去何人もの人を斬っているらしく、刃がところどころ缺けている。今、これで刀の価値がどれくらい下がったかなと脈絡もないことを考えている自分は異常だろうか。いや、今やっていることを考えれば充分異常だ。
 疲れきっていた。ふだん使わない筋肉を使ったので、全身が悲鳴をあげており、歩くのも旧式の二足歩行ロボットのようにぎくしゃくしている。右肩から手の先まで痺れが走っている。顔から胸にかけて粘りつくのは、返り血を浴びたからだと思う。
「俺はこれからどこへ向かおうとしているのだ」
 男は火に追われるように、山のほうへ歩いていく。右肩に重い頭陀袋。左肩から斜めに猟銃を掛けているが、それは一度も使われることなく、今はただ彼の肩に余分な負担をかけているだけだ。しかし、ここに置いていくわけにはいかない。最後にこれを使って総仕上げをしようと思う。
 今、山道を登り、六つ首峠へ向かっている。頭に差した懐中電灯を抜いて足元を照らす。この奥に確か洞窟があったはずだ。そこへ行くのは後まわしにして、とにかく峠を目指す。丈高く生い茂った雑草をかき分けて。
 薄暗闇の中にぼうっと六人の亡霊が見える。
 かつて見せしめのために首を切られ、杭の上に並べられた六人の男たち。その腐臭を嗅ぎつけた蠅の大群が押し寄せ、卵を産みつける。そして、生まれた夥しい数の蛆虫がむしゃむしゃと音を立てて腐肉を食い尽くす。そのおぞましい光景に雑食の鴉さえ、恐れをなしてしまうほどだ。
 杭の上に残った頭蓋骨は、風と雨に晒され、何年もの間、そのまま放置されていたが、やがて杭のほうが朽ち、頭蓋骨も地面に落ちた。
 その後、地元の有志たちにより、首のない六体の地蔵が建てられ、世を恨んで死んでいった者たちの霊を慰めた。さらに時が流れ、首の上に笠が置かれ、首無し六地蔵として崇められた。
 さらにまた時が流れ、男は今、その六地蔵の前に立っている。
 猟銃を下ろし、右肩に担いでいた頭陀袋を地面に置いた。その重さに肩が悲鳴をあげていた。それから、頭陀袋に入れた六つの生首を首無し地蔵の一つ一つに据えていく。これで首無しの地蔵に命が加わり、生身の人間の体をなす。
 六地蔵の向こうに燃える民家が見える。煙のにおいが風に運ばれ、峠まで伝わってきている。
 その時、闇の中で鴉がぐわあと不気味な声で鳴いた。死者の霊を弔うかのように。いや、嘲笑うがごとく。
 復讐は果たされた。とりあえず……。


   2

 彼女はひんやりとした床に寝かされていた。
 目を開いた時、最初どこにいるのかわからなかった。かなり眩暈がする。薄暗い明かりの部屋、天井がぐるぐるとまわっている。横たわっているのはわかるが、布団の上ではない。床に直に寝かされているのだ。ひどく寒く、冷えが体の下から上ってきていた。
 裸? 自分の身を見ようとしても首がまわらない。それでも、徐々に裸であることがわかってきた。全身が痺れている。酒を飲んだ記憶があったような、ないような。すべてが曖昧だ。
 その時、近くで低い笑い声がした。誰かが部屋の中にいる。しかも複数のような気がする。起き上がろうとしたが、体に力が入らない。いったい、わたし、どうしてしまったんだろう。
 薄闇の中に、首のない人間が現れた。いや、黒い頭巾のようなものをかぶっていて、顔が見えなくなっているので、首無しに見えるのだ。
 誰かが囁くような声で「目が覚めた?」と言った。
「何、どうしてわたし、ここに?」
「緊張しなくていいんだよ」
 意味がわからない。最後の記憶を遡ると、何人かの男の人とお酒を飲んでいて、それから……。飲みすぎたのか、急に眩暈がして、体全体が痺れ、その後の記憶がなかった。
「やっちゃおうぜ」
 誰かの低い声。そして、それを合図にするように、急に彼女の足が押し開かれ、頭巾の男が彼女の目の前に入ってきた。
 体の感覚がないのに、何をされているのか、わかる。とんでもなく屈辱的なこと。顔を隠した男が次々にわたしに襲いかかる。男たちの下卑た笑い声。
 悲鳴をあげる彼女の口に汗臭いタオルが無理やり突っこまれ、彼女は過呼吸のような症状になった。心臓が異様に鼓動し、息が苦しくなる。ああ、最後は殺されて山の中にでも捨てられてしまうのかもしれない。
 意識が遠のいていく。………
 次に目が覚めた時、彼女の体には土臭くて汚い毛布が掛けられていた。全身の麻痺はすでに解けている。意識を失う前、感覚はなかったが、今は全身がひりひり痛む。特に下半身は鋭い痛みがある。いやな予感を覚えつつ、右手で下半身に触れると、布のようなものに触れた。それを目の前に持ってくると、黒い頭巾であるのがわかった。
 最後の記憶が一気に甦ってくる。黒い頭巾をかぶった男たちが次々とわたしを襲ってきたのだ。再び下半身に触れてみる。下着も何もつけておらず、股の間がひどく冷たい。ぬるぬるとした液体が指に。しかも大量に。
 自分の身に何があったのかわかる。警察に訴える? いや、これが彼にばれたら……。

 それから魂を抜かれたような状態で怠惰な生活を送り、死ぬ気力さえなくなっていた。本気で死のうと思ったのは、身籠もっていると知った時。それまで無気力で部屋にずっと臥せっていることが多かったため、堕ろすタイミングを失っていた。
「手遅れよね」と彼女はつぶやいた。もうどうでもいいや。
 でも、彼にばれたら、何をされるか。


   3――(竹中良太の巡回日誌)

 本官は六つ首村の山向こうの駐在所に勤務している巡査です。
 あの事件の起きた日は、たまたま非番で六つ首村におりました。妻の実家がこの集落にあり、体調を崩していた義母の見舞いに自転車で訪れていたのです。妻は数日前から実家にもどっており、義母の看病をしていました。幸いにも義母の病気は大したことはなく、快気祝いを兼ねて家族で食事をしました。ひさしぶりに開放的な気分になったこともあり、義父と酒を飲んでかなり酔ってしまい、その夜は妻の実家に泊まることにしたのです。
 床についたのは十一時すぎだったと思います。夜中、何とも不快な胸騒ぎを覚えて目を覚ましました。上半身を起こすと、妻が傍らに寝ていました。ああ、そうだ。妻の実家に泊まったんだっけと思い、また横になりましたが、いやな予感がつきまとって離れません。職業的な勘といいますか、本官には第六感めいたものがあるのです。
 気になったので、寝ている妻を起こさないように起き上がり、手早く服を着ました。そして、外に出た時、村の真ん中あたりに赤いものが見えます。風に乗って焦げ臭いにおいもして、火事だと直感しました。芸術村あたりが火元ではないかと思いました。そこは過疎対策の一環で都会から芸術家を招いて村おこしをやろうと地元在住の中学校の教師が声かけしたところなのです。詩人やら画家やら彫刻家など五人か六人に空き家となっている住居を無償で提供し、そこで創作活動をしながら村の者たちとの交流を図り、観光客も呼びこもうという計画でした。しかし、そこの連中は村の女性たちと不純な交遊関係を結んだりするなど、評判はよろしくない。まあ、大方の予想通りでしたが。
 ともあれ、本官は自転車に乗って、火災現場に向かいました。村には消防団もあり、その連中もすでに気づいているのではないかと思っておりました。
 火災はやはり芸術村でした。その中の一軒の家から火が出ており、延焼する勢いでしたが、消防分署の扉は開いていなかったので、まだ誰も気づいていないようでした。ですから、本官はとっさの判断で消防分署のそばの火の見櫓に上り、半鐘を鳴らしたのであります。そのほうが義父宅にもどって一一九番通報するより早いと思ったからでした。
 ああいう陰惨な事件になるとは、その時には思ってもいませんでした。


第一部 六つ首村へ


一.悪魔が来りて首を斬る

   (序)


 今筆をとってこの恐ろしい物語の第一部を書き起こそうとするにあたり、編者自身、いささか良心の呵責なきを得ない。
 実を言うと、このストーリーをまとめたくないのだ。この禍々しい事件を文章にして発表することに危惧の念を抱いているのだ。なぜならば、これはあまりにも凄惨な事件であり、あまりにも憎悪に満ちていて、読む人の心を明るくするところが微塵もないからである。
 この物語の最後が、どのような形で結ばれるか、それは編者にもまだ予測することができないが、おそらく読者は巻をおいた瞬間、何とも言いようのない暗澹たる思いに、重苦しい胸を押しつぶされるにちがいない。犯罪の物語に後味のよくないのが少ないのは当然かもしれないけれど、この事件はあまりにも後味の悪さにおいて極端であろうことを編者は恐れるのである。その点、小説家の館沢敦司も同じような考えだったらしい。この材料を小説化するにあたって、彼は少なからず躊躇、逡巡していたようだ。
 六つ首村は北関東と会津の境目の狭い盆地に誰知られることなくひっそりと沈んでいる。行政的には山一つ向こうの村に属しているが、小さな町村の無理やり感のある合併による弊害か、中心となる町からの目が行き届かなくなり、かつての僻村であった時代よりさらに生活が不便になり、住民の数を大きく減らしていた。
 館沢敦司は、あの事件の後、村はずれの高台にあった廃屋に移り住み、事件に関する小説を書いた。よそ者にもかかわらず、トラブルもなく入居できたのは、集落に住む郷土史家、鳥山孝作氏の紹介があったことが大きい。鳥山氏は長らく地元の中学校の社会科教師を務めた関係で、村を含めた地域全体の歴史にくわしく、地元の人たちに崇敬されていた。その人の紹介とあらば、排他的な村人も館沢敦司の存在にそれほど敵意といった感情は起こさなかったようだ。いや、それよりも、村はずれの高台に住んでいた孤独な老女が死に、承継する者もなく朽ち果てるのを待つばかりの廃屋に小説家の先生が住み、その維持管理をしてくれたことに対し、村人たちは逆に感謝に近い気持ちさえ抱いていたと思われる。
 館沢敦司は、事件の関係者に近づき、取材することにより、事件の全貌を小説としてまとめあげた。それが『六地蔵連続殺人事件』であり、一時期、一般の人にもその名は知られていた。
 その鮮烈な描写は、読者の目を引きつけ、巻を開いた瞬間、不穏な物語の世界に否応なく引きずりこんだ。館沢は実話に大胆な残虐描写を入れ、読者を恐怖のどん底に落とした。その作品は映画化もされ、日本中の多くの人々を震撼させ、不眠にさせたのだ(が、その一方、文庫化されなかったこともあり、忘れられるのが早かったことも付け加えておく)。

 小説の冒頭の場面は、今から三十年も前、インターネットや携帯電話も普及していない時代であることを頭に入れて読んでもらうのがいいだろう。
 導入部はゆっくり、村を訪れる場面から。読者の油断を誘い、物語の世界に足を踏み入れた途端、もう後には引き返せなくなり……。
 ああ――。
 読者は「六つ首村」の住人となり、村の外に出られなくなる。くれぐれもご用心。
「ですから、やめるのは今のうちですぞ」と警告しておく。後悔するようなことがあっても、それは編者の所為ではない。悪しからず。
 ………………

編者


   1――『私家版・六つ首村』(編者註)  館沢敦司

 六つ首村というのは、福島県と栃木県の県境にある山中の一寒村である。
 一番近くの鉄道駅から六つ首村に入るには、山を二つ越えねばならない。峠といっても、そう高くはないのだが、そこから村を見下ろした刹那、私は何ともいいようのない暗い感じに襲われたことを今でもはっきり覚えている。
 それにしても、不気味な名前である。
 六つ首。「ろくろっ首」ではない。六つの首なのである。
 ここに生まれ、ここに屍を埋め、代々長くこの名に馴染んできた人々は、別に何の奇異な感じも受けないのかもしれないが、初めてこの名前を耳にする他郷の人々にとっては、一種異様な名前のように思えるだろう。何かしら不気味な曰く因縁がありそうに思えるにちがいない。
 その村はまるですり鉢の底のような地点にあった。四方を山に取り囲まれた小さな盆地で、直径が八百メートルほど。斜面の痩せた土地には住人によって段々に作物などが植えられ、太平洋戦争までは自給自足に近い生活を送っていたらしい。平家の落人伝説が伝わっているが、これは日本全国の隔絶された集落の多くにありがちな、後世になってまことしやかにこしらえられ、そのまま定着してしまったのだと思われる。
 私が初めてこの六つ首村を望見したのは、秋深まる十月の半ばだった。小さな盆地の底に点在する家々の上に何かしら禍々しいものが漂っていそうな感じだった。私は思わずぞくりと身を震わせたことを覚えている。
 この他と隔絶された狭い寒村であの陰惨な事件が起きたのか。
「ほら、向こうの山の麓にひときわ大きな屋敷が見えるでしょう。あれが事件の発端となった白兼邸。犯人はあそこから殺戮を開始して、村の中心部にある家々を襲っていったんです」
 そう説明してくれたのは、私をこの村に案内してくれた鳥山孝作氏である。氏は私がこの陰惨な連続殺人事件に興味を持つのではないかと考え、私に直接手紙を書いてきたのだ。

 三か月前に遡る。
 和紙で作られた立派な封筒に宛名が墨書されていた。私には編集者経由でたまに読者からファンレターが届く。「先生の作品の大ファンです」とか、「あの作品のあれはすばらしかった」とか似たような内容なので、私はそれらにさっと目を通すだけで返事をすることはなく、ごみ箱に捨てる。もともと人と交わることが苦手な性格で、過剰にほめられると気恥ずかしくなってしまうのだ。しかし、その手紙はそれまでのものと違って、私の目を引いた。まず封筒が手作りの和紙であり、いかにも書き慣れた筆致の文字に自信が漲っているように見えたのである。気になって差出人の名前を見ると、見覚えのある地名だった。そう、あの陰惨な事件の起きた村だった。胸がざわついた。封筒から中身を取り出す。楮か三椏か知らないが、木の繊維が際立つ紙に妖しい墨文字が躍っていた。

「いきなりお手紙を差し上げる無礼をお許しください。先生は六つ首村の事件に興味がありませんか? 世間を震撼させたあの事件、一応の解決を見ていますが、果たしてそうでしょうか。私はいま一つ釈然としない思いを抱いており、様々な角度から考察を試みてみたものの、解決の糸口さえ見つからず悶々としていました。その時、ふと思いついたのが、『六角堂殺人事件』という怪奇的な作品を世に送り出している館沢先生でした。(小説の中ではありますが)難解な謎を解き明かしている館沢先生にぜひあの陰惨極まる事件に鋭いメスを入れ、謎を解明していただきたいと思いました。私は中学校の社会科の教師をしながら郷土史家として(自費出版ではありますが)地元の歴史に関わる著作を五冊出しております。先生にご来駕いただければ、ぜひ村を案内いたしたく存じます。交通の不便極まる場所ですが、最寄りの鉄道駅にお越しいただければ、お迎えにあがります。ぜひご一考のほどよろしくお願い申し上げます」

 このような堅苦しい文章の後に、差出人の連絡先と電話番号が記されていた。私は筆不精なので、読者に対してほとんど返信を書くことはなかったが、この手紙は大いに気になった。
 六つ首村で起きた陰惨な連続殺人事件は、表面的には解決を見ているが、事件の派手さに比較して尻切れとんぼのきらいがあった。竜頭蛇尾という言葉があるが、まさにそれだ。犯罪者の立場からは「九仞の功を一簀に欠く」といった感じだろうか。もし自分で現地に赴き、事件の関係者に直接あたれば、何か新しいものが見つかるかもしれない。それを小説として仕上げれば、小説家として低迷している己の文運の向上につながるかもしれないと思ったのだ。
 直接電話するより、手紙を書くことにした。一枚の便箋に事件に興味があることを簡単にまとめ、名刺を入れておいた。だが、それに対する返信は一週間がたっても二週間がたってもなく、私を大いに苛立たせた。あれだけ熱のこもった手紙は結局何だったのだろう。真っ先に思いついたのは、その郷土史家とやらが私の同業者たちにも同様の手紙を書いて、それぞれの反応を見ているのではないかということだ。もしかして今頃は他の作家が村に出向いているかもしれない。くそ、田舎の郷土史家ごときに舐められたものだと思う。
 あまりに癪に障ったので、一言注意したくなった。ああ、そんなことをしなければよかった。そのまま放置しておけばよかったと後に悔やむことになるが、その時の私の頭には血がのぼっていて、まともな判断能力がなくなっていたのだ。
 手紙に書かれていた電話番号を指でまわそうとする時、怒りで手が震えた。受話器をいったん置いて深呼吸する。手が震える己自身にも腹が立った。
「なんでこの私が震えなくてはならないんだ」
 怒りを声に出す。そして、もう一度息を思いきり吸ってから電話をかける。
 呼び出し音が鳴っているが、その呼び出し音自体、通常の音とも違っているように感じられる。ざらついた砂土の上で重いものを引きずるような音が混じっているのだ。まるで地獄の底で死体の入った棺桶を引きずっている音とでも形容すればいいのか。私の貧困な語彙力ではとても表現できなかった。
 いや、これは単に混線しているだけなのだろうと思い直し、受話器を耳に強く押しあてる。呼び出し音が四回、五回と鳴っても相手が出る気配はなかった。十回まで数えて出なかったら電話を切ろうと思い、「十」と口にした時、波が玉砂利の浜を引いていくように雑音が消えていったのだ。
 受話器を耳から離そうとした瞬間、かちりと硬質な音が聞こえた。受話器からトタン板に土砂降りの雨が激しく打ちつけるような音がした。それから荒い息とともに相手の声が出た。
「失礼しました。雨が激しく降っているもので、電話の音が聞こえませんでした」
 ということは、本当に雨がトタン屋根か何かにあたっている音がしていたのだ。「あのう、どちら様でしょうか?」
 声の感じからすると、五十歳前後のようだ。
「館沢敦司です」
 私は声に怒りを含ませつつ、威厳を込めて言った。
「ああ……、これはどうも失礼しました」
 やや困惑したような声。
「ずいぶん前にお手紙を差し上げましたが、その後どうなっているのかと思いましてね」
「お手紙? あ、はあ……」
 しばらく沈黙があった後、相手の口から重い溜息が漏れる。「実はこのところ大雨がつづきまして、山向こうの町と連絡がとれないのです。当然ながら、郵便もしばらく来ない状態でして。ここは何とも不便な場所なのです」
 相手はすまなそうに言った。何ということだ。手紙が悪天候によって届かなかったということか。そんなことなら、最初から電話すればよかった。私は己の不精さにかえって呆れてしまった。そして、それまでの怒りの反動というか、私は結果的に相手の誘いに乗ってしまっていたのだ。
「ぜひ六つ首村に案内してください」

 十月中旬の午後二時すぎ。ローカル線の車両が、がくんと大きく揺れて停まった。不覚にもぐっすり寝こんでいた私は、その反動で座席にごろんと横になってしまった。見まわすと、乗客は私を含めて三人のみだ。八十代半ばぐらいの地元の人間らしき女二人が、東北弁に近い、強い北関東訛りでぼそぼそと話していたが、だるまのように無様に転がった私を見て、会話をやめた。
 最初、自分がどこにいるのかわからなかった。起き上がって、窓の外の駅の表示を見ると、指示された駅であることがわかった。
 しまったと思い、慌てて荷物を持って、ドアに向かう。運転手が「お客さん、こっちですよ」と声をかけてきて、手招きした。車掌がいないので、運転手が車掌の役もこなしているらしい。
 今にも崩れそうな荒れ果てたホームに立って、荒い息を吐きながら周囲を見る。線路の両側には山が迫っており、午後二時をすぎたばかりだというのに、西に傾いた太陽は山の端にかなり近づいている。線路は谷に深くえぐられた川に沿って北へ向かっており、今、車両の最後部がトンネルの中に吸いこまれていくところだった。走行音が聞こえなくなると、辺りは重苦しい静寂に包まれる。もちろん、鳥は鳴いているが、静寂を強調する効果音のようなものだ。その鳥の鳴き声も何かに怯えて仲間に注意を喚起しているような響きが感じられる。
 もちろん、ここは無人駅だ。小さな駅舎に入った時、煙草のにおいがした。中には誰もいない。駅舎を抜けると線路に沿って道路が走り、正面に「むつ商店」という表示が消えかかった家があった。ガラス戸の内側に薄汚れたカーテンが閉められ、営業している気配は感じられない。店を閉じて何年もたっているのだろう。
 駅舎の左にある木造の便所の前に古い型の車が一台停まっているのが見えた。車体の上に「個人」の表示があるのでタクシーにちがいない。
 その時、便所の中から制帽を目深にかぶった男が現れた。年齢は五十歳前後で頭は白髪まじり、紺色のズボンに白いワイシャツを着た小柄な男だった。運転手は私に目を留めると、口にくわえていた煙草を地面に落とし、足で踏み消した。
「館沢さん?」
「そうです」
 鳥山孝作とはここで待ち合わせする約束だった。鳥山がタクシーを手配してくれたのだろう。
「鳥山さんは?」
「とりあえず乗ってください」
「鳥山さんに頼まれて迎えにきてるんですね?」
 運転手が否定しないのを見ると、そういうことなのだろう。運転手は後部ドアを手で開き、私に乗るよう顎を動かした。客商売なのにやや横柄な気がするが、本人に悪気はないのだろう。事件後にこの地を訪れた無礼な者たちに対して反感を覚えているのかもしれない。
 車は山の中腹にある駅から九十九折りの道を下っていく。ガソリン臭がひどく、私は車の揺れとともに、気持ちが悪くなっていった。山を下りきり、車一台がやっと通れるほど狭い橋で谷川を渡ると、また山道を上り、また下りというふうに進んでいくが、私は車酔いで外の景色を見るどころではなかった。
 目を閉じる。頭の中心部がぐるぐるまわっているような気がする。そういえば、昨日はほとんど寝ていなかった。締め切りの迫った原稿を何としてでも終わらせようとしていて、夜明け近くにやっと仕上げ、封筒に入れた。「ボツになるかもしれない」と思ったが、六つ首村に向かう前、最寄り駅のポストに投函し、浅草始発の電車に飛び乗った。それから何度か乗り換えて……。
 まるで嵐の時、大波に翻弄される船の底にいるような気がする。ああ、眠い。そして、私はいつしか睡魔に襲われていた。
 ………………

(編者註)『私家版・六つ首村』は、登場人物名も地名も現実のものになっているが、商業出版する際、事件の遺族や関係者の心情に配慮して『六地蔵連続殺人事件』と改題され、登場人物名も別のものに変えられている。読者諸賢はそのことを頭に入れて読んでいただきたい。なお、映画化された時も「六地蔵連続殺人事件」のタイトルが採用されている。


   2――(現在)

 その無人駅の駅舎を出ると、小さな広場があった。駅の正面にある商店は薄黄色に変色したカーテンが閉められている。ガラス戸の桟もところどころ折れ、ガラス自体にも蜘蛛の巣状のひびが入っているのに、そのまま放置されているところを見ると、閉店して何十年もたっているようだ。
 ぼくは列車の中で読み返していた『六地蔵連続殺人事件』の冒頭の部分を思い起こしながら、周囲を見まわす。すると、何の違和感もなく空気に溶けこんでしまいそうな気がする。ここではそれだけ時がたっていないのだ。空気がうまそうなので、大きく深呼吸すると、かすかに煙草のけむりのにおいがする。
 駅舎に隣接して、今にも朽ちかけそうな木造の便所があり、その前に一台のタクシーが停まっている。七十代半ばであろう白髪の小柄な男が車にもたれかかり、のんびり煙草を吸っていた。色褪せたような紺色の制服に、結び目のゆるんだあずき色のネクタイ。車の上に「個人」の表示灯がある。
「こんなところでタクシーって、商売になるのかね」
 同行するプロデューサーの筒石透がばかにしたように言った。長旅の疲れで機嫌が悪いこともある。運転手の肩がぴくりと動いたところを見ると、筒石の声はその耳に届いているらしい。運転手はぼくたちに目を向けると、煙草を地面に落とし、車の中にあった制帽をかぶった。
「乗っていくかね?」
 東北弁とも違う、強い北関東訛りの声で言った。「列車に合わせて待ってんだ。六つ首村に行く物好きな者がたまにいるからね。おまえさんたちもそうなんだろ? トンネルができて六つ首にはずいぶん行きやすくなった。歩くと一時間半はかかるかな。山道も多いから、あんたたちのような都会の人間はたっぷり三時間は見ておいたほうがいい」
 肥満気味の筒石は、運転手の話を聞いて戦意喪失といった感じで、疲れた様子でタクシーに歩きかけている。
「筒石さん」
 ぼくは慌てて言った。「このタクシーでとりあえず峠の下まで行きましょう。そこからは歩きです。峠から村を見下ろさなくては犯人の気持ちはわかりません」
「ああ、わかったよ」
 そんなわけで、ぼくたちは無礼きわまる運転手のタクシーに乗りこんだのだ。峠の麓まで二十分ほどかかった。小説の描写では山を上がったり下がったりと、九十九折りの山道を進んでいく箇所があったが、実際はそれほどでもなかった。まあ、それでも乗り物酔い寸前のところまで来ていた。
 筒石はそのままタクシーに乗っていきたそうだったが、運転手が「俺は麓の向こう側で待ってるよ」と言ったので、渋々降りて、二人で六つ首峠への山道を登り始めた。
 ハイキング道程度の狭い道で、人がやっとすれちがえるほどだ。昔は車がどうにか通ったらしいが、トンネルができたことで使われなくなり、急速に荒れ果ててしまったらしい。
 秋の日は短い。上がっていくうちに、闇の気配が濃くなっていった。
 ………………


   3――『私家版・六つ首村』  館沢敦司

 山の麓にタクシーは停まった。
「さあ、着きました」
 停まったのはいいが、そこは五、六台停まれるほどのスペースのある砂利敷きの広場で、タクシー以外の車はなく、待ち合わせている鳥山孝作らしき者の姿もなかった。私がそのまま座っていると、運転手が「さあ、降りてください」と言った。
 時計を見ると、三時を少しすぎたばかりだが、心持ち薄暗くなったような気がする。それは山が空き地の近くまで迫っているからだろう。鴉の群れが鳴いているが、茂みの中に隠れていて、姿は見えなかった。私は心細くなり、車のウインドーを下げた。
「鳥山さんは?」
「すぐそこにいますよ」
 だが、近くには誰もいない。私が困惑しているのを見て、運転手はタクシーの外に出る。私も仕方なく降りるしかなかった。
「私が鳥山です」
 運転手が帽子をとり、軽く頭を下げた。
「ええっ」と私は絶句した後、「どうして、それを最初に言わなかったんですか?」
 騙されていたかと思うと、少し腹が立った。
「いや、失礼かと思ったが、あなたがどういう方なのか、観察したかったものでね」
「それで、テストは合格したんですか?」
 私は皮肉っぽく言う。「もし合格しなかったら、どうするつもりだったんですか?」
「まあまあ、お怒りもごもっとも。たいへん失礼しました。田舎者の元教師の無礼をお許しください」
 鳥山は私の怒りを軽くいなし、急に真顔になった。「不合格だったら、タクシーを上りの便の到着前に駅まで返すつもりでした。実は私、教師を辞めて農業をやっていこうと思ったのですが、晴耕雨読の生活は無理ということがわかり、仕方なくタクシーの仕事を副業でやっているのです。歴史関係の資料は高いですから、金はいくらでもほしい。マスコミ関係もたまに来ますから、貸し切りにすれば、そこそこのもうけにはなります」
「不合格だったほうがよかったかな」
 私の心の半分は東京のほうにもどりかけていた。「それに、あなたは教師なんか辞めなければよかったのに」
 と嫌みで返した。
「まさに、おっしゃる通り。後悔先に立たず」
 鳥山は苦笑した。「でも、結果オーライではないですか。実は、先生には六つ首峠から村に入っていただこうと思って、わざわざここまで来ていただきました。テストの件は冗談とお考えください」
 真面目な元教師の冗談? 全然笑えないよと思ったが、口には出さなかった。
「実は最近トンネルが完成して、車でも村に入れるようになっているんですが、峠の上から見てもらわないと、村の全貌がつかめないと思いましてね」
 こいつ、私を歩かせる気なんだ。
「どうです、先生。歩いてみませんか?」
 鳥山は日に焼けた顔に白い歯を見せる。こっちをばかにしているのか、その笑顔から読み取るのはむずかしい。私は弱みを見せないよう、わざと平静を装った。
「三十分ほどで着きます。おそらく小説の構想がぱっと浮かぶのではないでしょうか。私に小説を書く才能があったら、とうに書きだしてますね。例えば、『すべては山の中にあった』とか、『ローカル線のトンネルを抜けると、そこは山国だった』といった出だしにしてね。フフッ」
 会心の小説を書けないスランプの状態がつづいていたので、相手がどこかで見たような小説の書き出しを得意げに語るのを見て、私の心は逆に動いていた。おまえよりましな文章は書けるよと思って。
 車を広場にそのまま置いていくわけだが、それは私が気にすることではない。
 空き地のそばに、木のトンネルがあった。そこに入ると、まさにこの世から切り離された異世界のような気がした。鬱蒼とした森の中を鳥山の先導で歩く。ふだん運動をしないわが身には山登りはいささかつらいものがあったが、ついていくしかなかった。こんな薄暗い山の中に一人取り残されたら、どうなるのか容易に想像できる。
 車がどうにか通れる狭さの道は右へ左へ蛇のように曲がりながら、次第に高度を上げていく。しばらくすると、上方に少し開けたような場所が見え、そこから西日が差しこんでいた。
 横溝正史のある有名な作品では、村はずれで異様な風体をした尼とすれちがう場面がある。主人公は「来るな、来るな。かえれ、かえれ。おまえが来ると、村はまた血でけがれるぞ」といった呪いの言葉の洗礼を浴びるのだが、そんな場面が起きてもおかしくない妖気のようなものが、周囲に漂っている。
 グワアと何だかわからない鳥の声がする。断末魔の叫びのような。そして、それを合図にしたかのように鳥山が立ち止まり、前方を指差した。
「あそこが六つ首峠です」
 鳥山はふり返ったが、その顔に少し怯えが走っているような気がした。「もう少しの踏ん張りです」
 そして、峠に差しかかった時、私を衝撃が襲った。なぜなら、前方に人影が見えたからだ。横溝正史と違うのは、それが複数であることだった。
 村人たちがあそこで私を歓迎しているのか。もちろん、そんなはずがないことは頭の中ではわかっていた。
「帰れ、今なら間に合う」
 私の中の弱気の虫が耳に囁きかけてくる。警戒心が湧き起こりつつも、私は歩を進めていた。なぜなら、もどっても、タクシーを停めたあの空き地からどうやってあのローカル線の駅まで辿り着けるというのか。仮に辿り着いたとしても、この日の最後の上り列車は出ているはずだ。
「六人の方々のお出迎えです」
 鳥山が苦渋に満ちた声で言った。そこには確かに六人が峠に立っていた。だが、それは生身の人間ではなく、石仏だった。
「これが六地蔵です」
 六体の地蔵は破れかかった藁の笠をかぶっていた。高さは一メートルほどで、体のところどころに青い苔が生えている。手前には萎れた花と茶褐色に変色した米粒がぱらぱらと散らばっている。お参りする人は少ないようだ。
 その時、鳥山が六体の地蔵の笠を次々に取り払った。
「おおっ」
 思わず、私の口から感嘆とも恐怖ともつかない声が漏れる。そこにあったのは、なんと……。
「首がない」
 私はそのまま絶句した。ある意味、老いた尼に「帰れ」と怒鳴りつけられたほうがまだましのような気がする。六体の地蔵は、首から上が鉈で無理やり切られたかのように、赤褐色でぎざぎざの断面を見せていたのだ。まるで血で塗りたくったような跡が、地蔵の古さにもかかわらず生々しく迫ってきた。
「そう、首無しの地蔵なのです。先生は六地蔵をご存じですか?」
 私が答えないでいると、彼はにやりと笑い、そのまま話をつづけた。「六地蔵とは、六道において衆生の苦しみを救うという六種のお地蔵さんで、先生なら旅先のどこかで一度ぐらいはご覧になったことがあるでしょう」
「はあ、何度か見たような記憶はあります。村はずれとか、野辺の道とかで」
「しかし、ここの六地蔵は建立の意図が違っておりまして……。つまり、話は江戸末期に遡ります」
 鳥山は遠い過去に思いを馳せるように目を細める。「十八世紀の末、飢饉がつづいた時、年貢に差し出す米がないと六つ首村で一揆が起こったのです。五十人近くにまでふくれ上がった勢力は、峠の向こう側の代官屋敷に押し寄せたのですが、一揆の情報はどこからか漏れ、待ち伏せしていた代官側に簡単に制圧されてしまったのです。首謀者の六人は見せしめのため斬首され、村を見下ろす峠に生首を晒されました」
 鳥山は六地蔵を鋭く指差す。私は驚いて後ろに退いた。
「それがまさに六地蔵が立っているこの場所なのです」
 鳥山が指差す方向、六地蔵の背後に集落が見えた。楕円状の小さな盆地の中に家が点在している。西の空に落ちかかる太陽が赤く照らすその集落は、あの血塗られた連続殺人事件を象徴しているかのように見えた。
 その時だった。人の声が聞こえてきたのだ。どうやら峠の向こうから誰かがやって来るらしい。鳥山が急に慌てた様子で、私をふり返る。その顔が青ざめている。
「鳥山さん、どうしたんですか?」
「あ、いや」
 鳥山は言葉を曖昧に濁し、次の言葉を必死に探しているようだった。そうしている間に、声は近づいてくる。それは誰かと会話しているのではなく、一人の人間が歌をうたっているようだった。何やら不思議な節まわしの子守歌のようにも聞こえた。
 やがて、その人物が峠の下の道から姿を現した。腰の曲がった老女だった。頭に手拭いを巻きつけ、杖を突きながら低い声で歌っている。その悲しい旋律は私の神経にひどく染みてきて、全身に震えが走った。
 我々が呆然と立ち尽くしていると、老女は六地蔵の前でしゃがみこんだ。
「一つ目の首はここにあり。首を切られて晒された」
 老女は一番左の地蔵を指差し、念仏のような節まわしで言った。つづいて二体目、三体目と順々に、粘りつくような調子でつづけていく。四体目、五体目、そして最後の六体目で立ち上がり、地蔵の首の断面に触れた。
「六つ目の首はここに……、ない、ないぞ」
 驚いたように叫び、頭を抱えこみ、南無阿弥陀仏を唱えた。老女はやがて杖を突いて、よろよろと立ち上がり、ようやく私たちの姿に気づいた。頰かむりした老女は皺だらけで、その目は猛禽類のように鋭かった。彼女は私に目を留めると、その視線が急に優しくなった。
「おやおや、むっちゃんかい? おかえり」
 老女はそう言うと、何ごともなかったかのように、元来た道を杖を突きながらもどっていったのだ。
 私は衝撃からなかなか立ち直れずにいた。
「むっちゃんというのは六彦のことだと思います」
 鳥山がぽつりと言った。六彦というのは、連続殺人事件の犯人と目される白兼六彦のことである。
「私を六彦と勘違いしたのはいいけど、村の人は彼に敵意を抱いていないのですか?」
「爛れきった村の陋習を断ち切ったといった意味では、彼は功労者ともいえます」
 鳥山は開けた空間からのぞく小さな盆地を指差した。「すでにおわかりだと思いますが、あれが六つ首村。北側に城砦のように建つのが白兼邸です。さあ、暗くなる前に行きましょう」
 私たちは老女の後をついていく形になったが、前を蝸牛のようにゆっくり歩いているはずの老女の姿は不思議にも見えなくなっていた。そして、日暮れ前、六つ首村の中に入っていったのである。
 ………………


   4――(現在)

「ここから見た感じですけど、どうでしょう?」
 ぼくは、同行したテレビのプロデューサー、筒石透に言った。今まさに太陽が山の端に隠れようとしているところで、真っ赤に染まった盆地の底はまるで鮮血を溜めているように見えた。
「聞きしにまさるとはこのことだね。実際、来てみないと、この不気味というか、おぞましい感じはわからないな。いかにも陰惨な殺人事件が起きそうな空気というか、村全体から妖気のようなものが立ちのぼっている」
 筒石は双眼鏡を取り出し、村の全景を時間をかけて見る。
「行けるでしょうか?」
 ぼくの手には何度も読み返してぼろぼろになった『六地蔵連続殺人事件』があった。その表紙には、血走った目で読者をにらみつける異様な風体の男の立ち姿が描かれている。全身黒ずくめ。頭に日の丸のついた鉢巻きをし、そこに懐中電灯を二つ差しこんでいる。その右手には日本刀、肩に猟銃を掛けていた。これから殺戮の現場へ向かう緊張感が見事に活写され、読者に向かって生々しく迫ってくるように見える。
 この小説が発表された時、そのどぎつい表紙は物議をかもしたものである。子どもたちに与える刺激が強すぎるとPTA関係者などからクレームがつき、出版社はやむなく表紙を抽象画に差し替えたが、迫力を失ったこともあってか、本の売れ行きは急激に落ちこみ、映画の上映後、一年もたたないうちに絶版になってしまった。その後、作者が筆を折ったことで、『六地蔵連続殺人事件』は作者の名前とともに忘却の彼方に去ってしまったのだ。今は古書店などをまわっても、どぎつい表紙の本を見つけることはむずかしい。ぼくが古書店でやっと見つけた時もすでにかなり日焼けしていて、本の状態は最悪に近かった。
 ぼくは旅先では必ず古本屋をのぞくことにしているが、以前、六つ首村の下見に行く途中、たまたま訪れた宇都宮の小さな古本屋で『私家版・六つ首村』という函入りの本を見つけた。作者は『六地蔵連続殺人事件』の館沢敦司。気になって中を確認すると、登場人物と地名は現実のものを使っているが、ストーリーの流れは小説の内容とほぼ同じだった。奥付に「限定十五部」とある。定価が記されていないところを見ると、自費出版の限定本に間違いないだろう。作者のごく親しい者に配られたが、そのうちの一冊が古本屋に流れたと推測できる。作者の館沢は自分の保存用として実際の記録を残しておきたかったのだろうか。三十年近く前のものなのに、保存状態がいいのが気に入った。ぼくはこの貴重な函入りの『私家版・六つ首村』を自宅に大事に保管している。だから、今回の旅には『六地蔵連続殺人事件』を持ってきていた。
「おどろおどろしい感じが村全体からどーんと伝わってくる。映像的にこれは使えるな」
 プロデューサーの声に、ぼくは空想の世界から現実に引きもどされた。「あの事件から三十年もたって、若い人はほとんど知らないだろうし、我々より上の世代の者も記憶は曖昧になってるんじゃないかな」
「再現ドラマをやるのは、時期的にぴったりだと思いますか?」
「ああ、そう思うね」
 筒石は双眼鏡で村のあちこちを眺めては、興味を覚えたところにピントを合わせたりしている。
「今なら再現ドラマをやっても、叩かれる心配はないですよね?」
「そうだね。評判がよかったらドラマ化してもいいかもしれない。過去、『六地蔵連続殺人事件』として映画化されて、一時的にヒットしたけど、まあ、それも三十年前のことだから、今だったら、リメイクしても新鮮に映るかもしれない」
「館沢敦司のあの作品を筒石さんはどう思いますか?」
 ぼくの問いに、筒石は双眼鏡を下ろして、ふり返る。
「事件が事件だけにスリリングだった。事実をそのままなぞって書いていけばおもしろくなるのはあたりまえだ。一番早く書いたのが成功につながったと思う」
「結末に関してはどうですか?」
「最後がちょっと曖昧だな。実話より若干弱い印象は否めない」
「ちょっとだけベストセラーにはなりましたけど」
「それは作者の腕ではなく、実話の力だよ。その後の館沢敦司を見てごらん。すっかり消えてしまったじゃないか。たまたま実話に寄りかかった作品の成功で脚光を浴びたけど、その後の沈黙で作家の実力がそれほどのものでないことが証明されてしまった。その後、館沢がどこにいるのか、誰も知らない。ミステリ文壇から消えてしまったんだよ。作家が忘れられるとともに、事件も風化してしまった。だから、今事件を取り上げるのは逆にタイムリーとも言える」
「その館沢敦司がどこにいるか、ぼくは知っています」
「ほう」
 筒石は興味深げに私を見る。「生きているのか?」
「ええ、今も健在です」
「年齢は確か……」
「七十五歳前後だと思います。あの当時は四十代半ばでしたから」
「どこにいるんだね?」
 そう聞かれて、ぼくはにんまりとした。予想通りの反応だったからだ。ぼくは村を指差した。
「この村です」
 実は、プロデューサーが乗り気でなかったら、館沢が六つ首村に住んでいる件を持ち出すつもりでいたのだ。
「えっ、本当かよ。それはすごいな」
「小高い丘に隠棲しています」
「そうか、実に興味深い。こんなところで一発屋が余生を送っているとはな」
 筒石は一昔前の人気テレビドラマの探偵のような口ぶりで言った。
「というより、この村だったら本の印税で老後を暮らせると判断したんじゃないですか。物価は安いし、畑でもやれば自給自足の生活を送れます。まあ、彼自身、印税以外にもそれなりに資産があったと思いますけどね」
「なるほど。彼なら、事件の裏話をいろいろ知ってるかもしれない。再現ドラマの合間に本人のインタビューを挟んでもおもしろいんじゃないかな」
「館沢はサリンジャーのように人嫌いなのがちょっと問題ですかね。いろいろ叩かれて神経質になったそうですから」
「そこをうまくやるのが君だ。あの事件の再現ドラマをぜひやってみたいね」
 ぼくは心の中で快哉を叫んだ。自腹を切って、テレビのプロデューサーを連れてきた甲斐があったというものだ。
「いいじゃないか。六地蔵連続殺人事件。いかにも昭和の犯罪のにおいがするしさ」
「役者はすぐに用意できます。地味なんですけど、推理劇をやってる劇団ですから、こういうテーマにはぴったりだと思います。低予算ですみますし」
「そうか」
 筒石は再び双眼鏡で村全体を舐めるように見まわす。その時、何かに気づいたのか、「おやっ」と言って双眼鏡の倍率を上げ、ピントを調整した。
「おい、誰か来るぞ」
 そうこうしている間に、下のほうからがさがさと草をかき分けるような音が聞こえてきたのだ。そして、現れたのは……。
 そう、頭に手拭いを巻いた少し大柄な女が腰を屈めながら歩いてきたのだ。腰を屈めているのは、女が大きな荷物を背負っているからだった。いや、単なる荷物ではない。それは大きな人形か。いや、白い布のようなもので顔全体が覆われているので、はっきりしないが、人形ではないようだ。大きめの子どもか。それとも……。
 女は六地蔵に近づくと、野辺で摘んできたとおぼしき赤い花を一体ずつに手向けながら、手を合わせて念仏のようなものを唱えだした。
「一人、戸を開け、切られました。二人……、三人……、四人……、五人……、六人……」
 数え歌にも聞こえるが、もごもごとつぶやいているように歌っているので、数字の部分しか耳に入ってこない。そして、最後に、
「みんな、切られました。さぞ痛かったろうねえ」
 と嘆息まじりにつぶやいた。女の背中から異様な妖気のようなものが漂っており、迂闊に近づけない雰囲気があった。やがて、念仏を終えた女が腰を伸ばしながら立ち上がり、その時になってようやくぼくたちに気がついた。手拭いに隠れて、目以外、顔のほとんどは見えなかった。女はぼくのほうに目を向けると、その目つきが厳しくなった。「来るな、六つ首村に来るな」と叫ばれそうな気がしたが、意外にも女の口から出てきたのは、次のような言葉だった。
「おや、かっちゃんかい? あ、違うか。双子のようによく似ておったものでな。人違いじゃ仕方がない」
 女はそれから何ごともなかったかのように子どもらしきものを背負ったまま元来た道を下りていった。
「おいおい、君のことを『かっちゃん』なんて呼んだぜ。数え歌みたいなものを歌ってさ、まるで『悪夢の子守歌』じゃないか」
『悪夢の子守歌』というのは、『六地蔵連続殺人事件』の巻末に載っていた館沢敦司の次作予告だった。「みちのくの山間の寒村で子守歌の旋律に乗って次々に起こる戦慄の殺人劇」といったおどろおどろしい宣伝文句が書かれていたが、作者が筆を折ってしまったため、幻の作品になってしまったのだ。筒石は館沢敦司の小説に目を通していて、当然、その次作予告を見ているようだった。
「いいじゃないか。今の場面も使えるよ。ドラマの導入部として最高だ。我々も今から六つ首村に入ってみようじゃないか」
 そうして、ぼくたちは女の後を追っていったのだが、ゆっくり前を歩いているはずの女の姿は途中で見失っていた。そして、笹の生い茂った山道を下っていくうちに、お椀の形状をした六つ首村の中心部に入っていたのである。
 太陽が山の端に隠れ、残照が赤とんぼの群れが舞う西の空を赤く染め上げていた。
 …………

二.六つ首村へ


   1

 六つ首村をテレビのプロデューサーが訪れた時から遡ること七か月――。

 笹村克哉は母親の病死、妹の通り魔被害など、身内の相次ぐ不幸に見舞われていた。おまけに自身の仕事が軌道に乗っているとはいえず、負のサイクルが幾重にもなって、心身は最低最悪の状態だった。
 彼はフリーのライターとして生計を立てている。主な仕事は自費出版の執筆代行だ。世の中には自分が生きた証を自伝という形で記録に残したいと思う高齢者が多い。一代で企業を立ち上げた者、定年まで勤め上げた者、母として多くの子どもたちを育て上げた女性などいろいろだ。傍から見れば、どれもありきたりの人生なのだが、本人にインタビューすることで、激動の世の中、波瀾万丈の人生を送ってきた優れた人物だと脚色することができる。あるいは、文章を書くのが好きで自ら己の伝記を書いた者には文章のチェックなど適切なアドバイスをすることで、ある程度は読めるものに変えることができる。その手腕を見こまれて、自費出版関係の出版社から執筆代行の依頼は多かった。
 もともと子どもの頃から文章を書いたり、ミステリ仕立てのドラマの筋書きを考えたりするのが好きで、大学時代はテレビ局でアルバイトをしながら映像関係の世界をのぞいてきた。大学卒業後は小さな出版社で働きながら脚本や小説を書いた。脚本やミステリの新人賞に応募して、何度か最終候補まで進んだことはあるが、いずれもあと一歩のところで賞を逃していた。
 二十七歳で会社を辞め、フリーになった。仕事の付き合いで、テレビなど映像関係の仕事もたまに受けたりする。地方に飛んで観光スポットや店を取材し、原稿にまとめることもある。何でもそつなくこなす。そんな器用貧乏すぎるのが自分にとっての長所であると同時に短所であり、現状から一歩抜け出せない理由だと認識していた。
 このまま仕事をつづけていくべきか。一人で食べていくことはできるが、そのまま一生を終えるのは虚しいと思いかけていた時に立てつづけに起きた身内の不幸だった。
 妹は一か月ほど前の深夜、自宅アパートの近くで何者かに後頭部を鈍器のようなもので殴られた。たまたま犬と散歩中の男性が通りかかり、路上に倒れている妹を発見、すぐに警察に通報した。現場近くにあった防犯カメラは逃げていく黒っぽい服装の人物をとらえていたが、フードのようなものをかぶっているので、顔も性別もわからなかった。警察は近くでも女性を狙った似たような事件があったことから、同一犯の可能性があると見て捜査をつづけている。
 笹村は週に二回ほど阿佐谷にある病院に見舞いにいくが、妹はベッドの上で眠っているだけで、彼が呼びかけてもまったく反応しない。
 そのような状況下、仕事が手につかず、借りている東中野のアパートで悄然とすごしている時に思いがけない訪問者があった。己の平凡な人生ががらりと変わる驚くべき展開を迎えるとは、その時点では思いもしなかった。

 桜の蕾がふくらみ始めた頃だ。その日もベッドでだらだらとしていた。カーテンの隙間から入る日差しの具合では昼頃だろうと漠然と認識している。そんな弛緩した気分でいる時、ドアにノックがあった。チャイムはあるが、壊れていて機能していない。来るのはどうせ怪しい訪問販売の者だけなので、出なくても問題ないと思っていた。緊急の用件ならドアを叩くだろう。
 その時のノックは、やわらかい感じのものだった。控えめな、叩く指が壊れそうなもろさを感じた。いつもと違う。ふとそんな違和感を覚えた。
 それから、涼しげな女の声が聞こえてきた。それは閉めきったドア、壁を通過して、笹村の耳に心地よく響いてくる。
「笹村さん、いらっしゃるのかしら?」
 聞き覚えのない声だが、どこか懐かしく響いた。目を閉じていると、瞼の裏側に一面緑の世界が広がった。緑の奥にさらに深い緑の山々が見える。だが、その緑の世界はさわやかではない。じめじめと湿気が多く、むしろ不快だ。頰に触れると、べたっとしている。それから、いきなり赤の世界に切り替わった。血のように真っ赤な緞帳が顔に覆いかぶさったような気がして、たまらず目を開けた。深い海の底に沈み、溺れ死にかけていた意識が急速に浮上し、血液に泡がまじる。その瞬間、潜水病で死ぬと思い、悲鳴をあげていた。己の甲高い声、声変わりしていない幼児の出す脳の中枢を破壊するような鋭い声に驚いて跳ね起き、意識が完全に覚醒した。
「克哉さん、大丈夫?」
 彼の悲鳴が外に聞こえてしまったらしい。仕方なくドアまで歩いていく。ドアスコープをのぞくと、三十代ぐらいの女が立っていた。向こうからは彼のほうは見えないはずなのに、女は手を振って笑いかけてきた。歪んだ画像でも、女はずいぶん色っぽく、なれなれしさが伝わってくる。
 それから、突然ドアスコープが真っ暗になった。女が外から指で押さえているのだ。どうやら、こっちがのぞいていることが相手にばれているようだ。
「安心してください。怪しい者じゃありません。克哉さん、あなたの姉ですよ」
 姉? この女、いったい何をふざけたことを言っているんだ。ぼくには姉はいない。妹はいるけれど……。
「大事な話があります。早く開けてほしいの」
 困惑する彼は、相手に言われる通りにドアを開けた。警戒することより、好奇心が勝っていたのだ。
「あら、意外にお元気そう」
 姉と称する女は口に手をあて、何がおかしいのか、うつむきながら笑った。体の線を強調する白いワンピースに真っ赤なジャケットを着ている。さっきまで夢の中で見ていた赤い緞帳のイメージと重なり、彼は眩暈を覚えた。年齢は彼よりいくつか上で、三十五、六歳といったところか。ふわっとした髪がやや厚めの化粧をした顔を包んでいる。好奇心旺盛そうな大きな目は彼を値踏みするように見つめていた。
 顔に血がのぼるのを意識し、彼はそれを隠そうとドアを大きく開けて、女を部屋の中に入れた。色仕掛けの怪しい者という気はしなかったが、念のためにドアの外を見てみる。胡散臭そうな男の相棒はいない。
「大丈夫よ。怪しい宗教やセールスの者じゃないから。本当にあなたの姉なのよ」
 彼の前を通りすぎる時、強い香水と甘い体臭が彼の鼻をくすぐった。
 1DKの部屋はろくに掃除をしていなかった。寝床兼仕事場はベッド以外は本であふれ返っている。かろうじて来客が座れるスペースはダイニングの椅子しかなかった。テーブルの上もノートパソコンと資料類で占められている。
「そこに座ってください。テーブルの本を片づけますから」
「あら、お気づかいなく。話をしたら、すぐに帰るから」
 笹村は相手のペースにすっかり巻きこまれていた。彼は客の向かい側に座り、改めて女を見る。
「どういうことですか。ぼくの姉って、そもそもこの世に存在しないんだけど」
「もちろん、あなたと血はつながってないわ。あなたのお兄さんの妻ってわけ。つまり、あなたの義理の姉になるの。わたしは高城美奈といいます。妻というのは正確ではないかな。あなたのお兄さんである白兼夢男の内縁の妻というべきね」
 女はテーブルの上にあった広告のチラシの裏に、二人の名前をペンでさらさらと書いた。白兼夢男、それから高城美奈と。
「ぼくの兄が白兼夢男。あなたが高城美奈ということですか?」
 初めて聞く名前ばかりで、困惑ばかりが広がっていく。
「ぼくには兄はいませんよ。妹ならいるけどね」
 妹のことを思うと、悲しみで胸が張り裂けそうだ。涙があふれるのも気にせず、相手を見つめる。
「お母さまと妹さんに不幸があったのね。お悔やみ申し上げます」
 女はいろいろ調べているようで、それまでの笑顔を消して、神妙な顔で頭を下げた。妹は意識不明の状態だが、そのことはあえて指摘しなかった。
「いきなり訪ねてきて、いろいろ言って戸惑うばかりだと思うけど、わたしは六つ首村から来ました」
「六つ首村?」
 そのおどろおどろしい響きに、かすかな不安が胸に兆す。地の果てから響く遠雷のように静かに、しかし確かに彼の心をざわつかせる。脳の奥底にかすかに記憶があるような……。
「そう。六つ首村。あなたは小さい頃、そこで暮らしていたんだけど……。覚えてるかしら?」
「いいかげんなこと言わないでください。戸籍謄本にはそんなことは一文字も書かれてなかった。おふくろが死んで、除籍の手続きをしたけど、六つ首村なんて記載はなかった。相続の手続きをしたばかりだから、よく知ってるんだ」
 相手が詐欺師だとすれば、そろそろ追い出さなくてはいけない頃合いだが、そうすることを引き止める何かが女の中にあった。もう少しだけ話を聞いてみよう。
「あなたのお母さんは今で言うシングルマザーだったの。あなたを産んだのは群馬県のお母さんの実家で、あなたはそこで生まれたことになってる。違う?」
「まあ、それはそうだけど」
「あなたは実の父親が誰なのかお母さんに聞いたことある?」
「いや、それは……」
 幼稚園に通っていた頃、父親の不在を疑問に思った笹村は母に何度か聞いたことがある。しかし、いつもはぐらかされていた。不審に思って祖母に聞くと、「おまえの母さんは好きな人との間におまえを産んだんだけど、その人が死んじゃったのよ」という答えが返ってきた。祖母には「お母さんが悲しむから、あまり聞いちゃだめだよ」と諭された。確かに、母は父親の話題になると、いつも悲しそうな顔をしていたと思う。
 笹村が少し大きくなって、テレビドラマを見たり、小説を読んだりして男女の機微について少しは知るようになってから、ある程度は推測できた。たぶん母が男に捨てられた時にはすでに彼を堕ろせなくなっていたのだろう。その結果、自分がこの世に誕生したのだから、結果的によかったんじゃないかと彼は思うようにした。というか、そう考えて自分を無理に納得させていたのだと思う。
 母は笹村が六歳の時、笹村武雄と再婚したこともあり、彼は母方の室山姓から笹村姓となり、実父のことを意識から遠ざけるようになった。母の再婚というのは正確ではない。母の最初の結婚は戸籍謄本には記録されていないのだから、戸籍上では笹村武雄との結婚が初婚扱いになる。その相手と結婚し、母はすぐに女の子を産んだ。それが笹村の異父妹の亜衣である。
 笹村克哉の継父、武雄は栃木県の宇都宮市近郊で小さな工務店を経営していた。母が継父とどうやって知り合ったのか、彼は母から聞いていない。
「あなたのお母さんの友里江さんは、二十六歳の時、白兼六彦と結婚したの。でも、実際のところは内縁関係でね。籍は入れられていなかった。友里江さんは鬼怒川温泉でホステスをやっていて、客の白兼六彦に見初められたのよ。そりゃあ、美人さんでね。六彦はどうしても彼女がほしくなったんでしょうね」
 高城美奈の話は、初めて聞くものばかりだった。
「ぼくはその六つ首村で生まれなかった?」
「生まれたのは桐生市のお母さんの実家。里帰り出産だったのね。だから、白兼家のことは記録には残ってない」
 確かに戸籍謄本には白兼家の記載はなかった。しかし、笹村には六つ首村を彷彿とさせる場所にいたような記憶がかすかにある。それが六つ首村なのかはっきりしないが、昔の白黒写真のようなイメージが意識の奥底に残っているのだ。そのセピア色の風景の中になぜか血塗られたような真っ赤な記憶が際立っていた。それはよいものではなく、禍々しい色彩として。
「六つ首村というのは正式な村名ではなくて、今は近くの村に吸収合併されて、村としては消滅してるの。だけど、今でもそこは地元とその周辺では『六つ首村』と言われてる」
「ぼくの最初の姓が白兼ではなかったのは、白兼六彦に認知されなかったってことなんですね?」
「あなたの戸籍の記録を見たことはないけど、もともとはお母さんの実家の室山姓だったはず。お母さんが笹村武雄さんと結婚した後、連れ子であるあなたは笹村姓になった」
 相手はその辺のこともよく調べている。「あなたはたぶん笹村友里江の子となってるんじゃないかしら」
 確かにそうだ。笹村の戸籍謄本には確かに母の子であって、父親の記載はどこにもない。
「だったら、今になってなぜぼくを?」
「ぶっちゃけた話」
 彼女はくだけた調子で言い、口元にかすかに笑みを浮かべた。「白兼家の跡取りがいなくなったの。何代もつづいた由緒ある名家をなくすわけにはいかないってことで、白兼家に縁のあるあなたに白羽の矢が立ったわけ」
 ますます話がこんがらかってくる。
「その白兼六彦は健在なんですか?」
「たぶん、三十年前に亡くなってる」
 彼女が微妙な言い方をしたので、笹村は突っこんだ。
「たぶんというのは、どういうことですか?」
「つまり、死体は見つかっていないってこと。状況から見て、死んでいるとしか考えられないし、警察もそう判断したの」
「警察? 何か問題があったのですか?」
「あなた、『六地蔵連続殺人事件』って聞いたことがないの?」
 彼女は逆に怪訝そうな顔をした。「館沢敦司の小説とか、映画とか、見たことも聞いたこともないのかしら?」
 聞き覚えはなかった。出版界に身を置いている者として、彼は己の無知を恥じた。
「でも、まあ、三十年前の事件だし、若い人が知らないのも無理はないかな」
「白兼六彦は被害者だったんですね?」
「その逆。白兼六彦は加害者。連続殺人事件の犯人なの」
「ぼくが殺人者の息子?」
「ああ、でも安心して。彼はあなたと血はつながってないの」
「どういうことですか?」
「あなたのお母さんは別の男の子どもをお腹に宿したのよ。彼女が白兼家を追い出された理由がそれ。実をいうと、六彦は不妊症だった。女遊びは派手だったのに、他の女は誰も妊娠しなかったくらいだからね」
 殺人者と血がつながっていないことを喜ぶべきか。
「それなら、今になってなぜ血のつながっていないぼくを白兼家に迎えようとするんですか?」
「さっきも言ったけど、あなたは白兼家と縁がないわけではないのよ。事件があった日、あなたたち母子は白兼家にいたわけだから。六彦は何かの意図で一度追い出したあなたたちを呼びもどした」
 母子を殺す意図があったことが彼女のぼかした表現の中に読みとれる。笹村の背筋を冷たいものが駆けのぼっていき、額の生え際に不快な汗が滲み出てくる。目を閉じると、またしても真っ赤な血のような緞帳のイメージが瞼の裏側に広がった。折に触れ、赤い炎に包まれたような不思議な夢を見るのは、そこに原因があったのだろうか。
「どう、何か心当たりでもある?」
 笹村の顔色の変化を見てとったのか、高城美奈は言った。
「いや、何とも言えません」
 彼は頭を左右に振った。「殺された人の数は?」
「七人。それから重傷者が一人」
 笹村と母がその中に含まれていないことを幸いに思うべきか。
「そんな大きな事件のことをどうして知らないんだろう」
「津山事件のように三十人以上が殺されれば、百年たっても忘れられないだろうけど、今は衝撃的な事件が次々と起こるから。それこそ、宮﨑勤やオウムの事件とか神戸の少年Aの事件とか、和歌山のカレー事件とか、世間の記憶が上書きされていくのかもしれないわね」
「『六地蔵連続殺人事件』という映画は見ることができるんですか?」
「映画化されたのは一回きり。本も発売当時はベストセラーになったけど、作者がそれから筆を折ってしまったから、作者と一緒に忘れられてしまった感はあるわね。ビデオ化も版権とかでいろいろもめたらしく、発売されなかった。作者の館沢敦司は、売れない小説家だったけど、『六地蔵連続殺人事件』だけヒットした。残念ながら、あれ以降は沈黙してしまった」
「すでに亡くなってるんですか?」
「それがね。生きてるのよ。六つ首村でね。空き家になっていた家を借りて、今もそこで自給自足の生活を送ってる」
 俄に信じがたい話で、頭の中で整理ができない。彼が今、失意のどん底にある状況でなければ、目の前にいる女を追い出していたかもしれない。ばかなことを言わないでくれと怒鳴りつけて。
 しかし、彼は高城美奈の話に興味を持ち始めていた。殺人者に関するありがたくない情報だったが、白兼六彦ではない本当の父親のことを知りたい気持ちもある。よく考えると、彼の実の父親は母の不倫相手ということになる。いや、違う。白兼六彦とは内縁関係であったのだから、不倫というのも正確な表現ではない。ああ、どういうことなんだ。
「それで、ぼくにどうしてほしいんですか。この通り、お金は持っていない。吸い取られるものは何もないどん底の生活を送っているんですよ」
「まあ、すぐに信用してくれとは言わないけど、わたしと一緒に六つ首村に行って、当主に会ってほしいの。白兼家としては、そこであなたを正式な相続人と決めるかどうか見きわめたいというわけ。うまくいけば、白兼家の莫大な財産を相続できるかもよ。旅費その他、必要経費は全部白兼家が持つから、気楽に来てくれればいい。もちろん、いやだったら、その場で断ってもかまわない。最終的にあなたの意思が尊重されるの」
 高城美奈は一気にそれだけ言うと、笹村の顔を探るように見た。
「もちろん、今ここで断ってくれても、いっこうにかまわないんだけど」
 彼女は一転して強気な口調になった。


   2

 高城美奈は東京のホテルに三日間滞在するので、返事はそれまでに決めてほしいと言い残して帰っていった。彼女の残した名刺には住所の記載はなく、「高城美奈」の名前と携帯電話の番号とメールアドレスだけが記されていた。
 笹村克哉は高城美奈が東京にいる間に、母が六つ首村にいたという証拠がないか調べることにした。母が嫁いだ笹村家は栃木県の宇都宮市近郊で工務店をやっているが、二十年ほど前、継父が工事現場で転落するという事故で死亡した後、その弟が事業を引き継いだ。母は配偶者として受け取るべき夫の遺産をもらうと、二人の子どもとともに宇都宮を離れ、さいたま市内に中古のマンションを購入した。だから、宇都宮には母の遺品といったものは存在しないと思われる。また、母の実家である桐生市の室山家も、すでに祖父母はこの世になく、母の兄夫婦が継いでいて、ほとんど交流はない。両家には、母の死に際しては家族葬で見送ったという通知を出したが、それに対して母の実家からのみ香典が届いただけだ。
 したがって、母の遺品はマンションの母の部屋にしかないはずだ。母の死後、遺品を整理しようとしたことがあるが、悲しみが募り、中断してそのままになっていた。その上に妹の一件だ。あのマンションに一人でもどると、悲しさで胸が張り裂けそうになるので、遺品整理業者に頼むしかないと思いかけていた。ついでにマンションも処分しようと思い、不動産会社に査定してもらったところ、一千万円にも満たないというので、ますます実家のマンションから遠ざかるばかりだった。住まないでいても管理費などの維持費はかかる。電気やガス、水道は今のところ、切らないでいるが、もう少ししたら契約を解除しようかと考えている。
 急いで母の遺品を調べなくてはならなかった。そこに六つ首村の資料のようなものが見つかれば、高城美奈の荒唐無稽な申し出が信用に値するかどうか判断できるのだ。
 母の生活臭が少し残る寝室に入ったが、思った通り、六つ首村に関するものは見つからなかった。母が実家から持ち出したもの、笹村家から持ち出したものは本当に身のまわりのものだけだった。クローゼットには普段着とよそ行きの服が数着ずつ。宝飾類といえば、男の目には何なのかわからない宝石のついた指輪、真珠のネックレスぐらいのもので、おそらく冠婚葬祭に使う程度と思われる。本当に最低限のものしか持っていなかったことに、笹村は胸をつかれた。
 母が一年前に死んだ時、相続税の申告のため、妹と預金通帳などを探したが、一つの銀行に一千万円ほど残っていた。まとめて残してあった何冊かの通帳の履歴を古いところまで遡っていくと、宇都宮の夫の遺産として受け取ったとおぼしき五千万円があった。直後に二千万円ほど引き出されているのは、おそらく中古マンションを購入した時のものだろう。それから、百万円単位のまとまった金が何度か出ているが、これも子どもたちの学費だと容易に想像できる。笹村は大学、妹の亜衣は演劇関係の専門学校に奨学金のローンなしに行かせてもらった。そのことに関して礼の一つも言っていなかったことを、母の遺影に向かって妹と泣きながら詫びたことを思い出す。
 母が外出することはあまりなかった。数少ない友人に「わたしのスナックにあなたのような美人が来てくれたら嬉しい」と請われ、昼間スーパーの惣菜コーナーで仕事をした後、夜の仕事もした。当時、母は四十歳前後でまだまだ色香が残っていた。そんな関係で、家にいることは少なかったが、運動会や授業参観など学校の行事には必ず顔を出してくれていた。
 働きづめでいたのは、まとまった手持ち資金を減らしたくなかったのももちろんあるだろうが、それ以上に過去のつらいことを忘れるためだったのではないか。命を縮めたのは働きすぎて、病魔の発見が遅れたためだったと思う。亡くなったのは五十八歳で、病院に行った時には乳癌が全身に転移していて、すでに手遅れの状態だった。
 アルバムが一冊残っていたが、ほとんどが家族の行事関係のものだった。子どもの入学式や卒業式、桜が満開している下で母は子どもと楽しげにしている。
 そういえば、母の笑顔をあまり見なかったなと今にして思う。妹と二人で葬儀場の一番安価な小家族プランで見送った時、遺影に使う写真選びに困ったことを思い出す。唯一、笑っていたのは笹村の大学の入学式の時で、子育ての責任を果たしたというか、安堵したような表情が印象的で、妹と「これだね」と言って選びだした。妹には「わたしの時はこんなに笑っていなかったのに」と半ば嫉妬気味に言われたが。
 アルバムは表紙がすり切れ、あずき色が淡く褪色したような古いもので、兄妹と母の思い出の写真を入れる前は、母自身の幼少期から成人するまでの写真が入れられていたことがわかる。なぜなら、糊が剝がされて破れている箇所がいくつもあったからだ。毛羽立ったところを指でさすり、あぶり出しのように中から文字でも現れないかと思ったが、何も出てこない。あきらめてアルバムを閉じようとした時、香木を焚いたような不思議なにおいが漂ってきた。香木というものを知っているわけではないが、何十年も前の古いにおいがアルバムの中から立ち上がってきたように感じた。時間が一気に四十年前まで巻きもどされ、その間から母の若い頃の肖像が浮かんできた。セピア色の若々しい母の笑顔がふっと現れ、また同じようにふっと消えた。
 そのにおいを嗅ごうとアルバムに鼻をつけようとした時、破れかけた裏表紙の隙間に何かが挟まっていることに気づいた。
 写真だ。裏表紙の隙間の秘密の隠し場所に指を突っこむと、紙の破れが広がり、「過去」が飛び出してきた。褪色した写真が二枚。
 一枚は制服を着た母の写真。まぎれもなく高校生の頃の母の肖像写真だ。髪は二つに結び、真ん中から分けられている。緊張しているのか、口をきりっと結び、真面目な顔で撮影者を見つめている。制服はいかにも女子校のものらしく、初々しい。人生の荒波に襲われることを想像していない、純真な母の姿。初めて見る若い母の肖像に笹村は衝撃を受けた。
 高城美奈の話では、母が鬼怒川温泉で働いている時に白兼六彦に見初められたというが、どうしてホステスをするようになったのだろう。母の両親、つまり笹村の祖父母はすでにこの世にいないので、伯父の室山弘義に聞いてみるしかないと思った。

 伯父は寡黙で無愛想な人間だが、電話をかけた夜の八時すぎは、アルコールが入っているのか、「やあ、克哉か。ひさしぶりだな。お母さんが亡くなって寂しいだろう」と明るい口調だった。
「線香をあげにいくつもりでいたけど、なかなか時間がとれなくてな」と言われたが、社交辞令くらいに受け取っておいた。
「で、何の用だ?」
「実は母さんのことで知りたいことがあるんです」
「うちには友里江のものは何も残ってないぞ。子どもの頃の写真が残ってるくらいだな」
 伯父の口調に警戒心が加わったように思う。もうおこぼれはないぞといった調子だ。
「いや、そういうことでなくて、母さんがぼくを産んだ頃のことなんです。産んだのは伯父さんの家ですよね」
「ああ、そうだ。友里江が腹を大きくして帰ってきたから、親父とおふくろはたまげたらしい。俺はその頃、大宮で働いてたから見たわけじゃないがね。おふくろに聞いた話だと、すごくやつれた感じで、『頼むからここで産ませて』と頭を下げたというんだ。何があったのか、相手が誰なのか聞いても、あいつは一言もしゃべらなかったようだ。追い出すわけにはいかないし、堕ろすのは無理になっていたから、実家で産むことになったってわけさ。どうせ鬼怒川あたりで悪い客に引っかかったんじゃないかと思うよ」
「じゃあ、鬼怒川温泉で働いていたのは事実なんですね?」
「そう。友里江は東京で失恋して、やけくそになって鬼怒川に行ったというのはおふくろに聞いた」
「母さんが死んだ時、除籍の手続きをしたんですが、ぼくの父親の記載はありませんでした」
「ああ、つまりシングルマザーということだな。おまえは友里江の私生児ということになる」
 さあ、ここからが問題だ。笹村は深呼吸してから質問をつづけた。
「母さんがぼくを産んだばかりなのに、また実家を出た理由は何ですか?」
「俺はその頃、大宮にいたから、その辺の事情はよく知らない。おまえが二歳になるころ、『あの人の元にもどります』と書き置きを残していなくなったらしい」
 伯父の口調が急にとげとげしくなった。「要するに、相手の男のほうに行ったと解釈するしかないよな」
「その後また、母さんはぼくを連れて実家にもどりますけど、それについては何か聞いていませんか?」
「同じ話の繰り返しさ。友里江は何も言わずにしばらく置いてくれと親父に頼んだのさ」
「どこから来たのか話さなかったのですか?」
「ああ、何も言わなかった。親子心中でもしそうな悲愴な様子だったから、親父たちは黙って受け入れるしかなかった」
 では、六つ首村のことは母の両親も兄も知らなかったようだ。
「伯父さんは、六つ首村って地名を聞いたことがありませんか?」
「何だね、それ」
「いや、ご存じないようならいいんです。夜分遅くすみませんでした」
「親父とおふくろが生きていたら、少しは事情を知っていたかもしれないが、今となってはわからないことばかりだ」
 伯父は言った。「あ、それから、おまえのために付け加えておくけど、友里江が再婚した笹村武雄さんは俺の取り引き先だった。妻を亡くして再婚相手を探しているという話だったから、友里江を紹介したんだ。それで、おまえたちは笹村家に入ったってわけさ」
 笹村は礼を言って電話を切った。自分の空白の歴史が少しだけ埋まった気はしたが、肝心の六つ首村に関する部分だけは空白のままだった。

 そして、もう一枚の写真――。
「ぼくだ。ぼくが写っている」
 思わず声が出た。母が一、二歳の笹村を抱いている。その頃の自分自身の写真をアルバムなどで目にしたことはないが、幼稚園に通った五歳頃のものと似ているので、すぐにわかった。母はバックに山が見える場所、おそらく小さな山の頂上から山麓が見下ろせるようなところに立って、撮影者に笑いかけている。幸福そうで自然な笑顔。一方、抱かれている笹村はべそをかいた後なのか、涙が浮かんでいるように見えた。
 ここはどこなんだろう。バックに低い山が連なっており、小さな盆地の中に家がぽつんぽつんと建っている。盆地の奥に城砦のような石垣のある豪壮な家があった。
 その写真を見た時、彼の喉の奥からまもなく死に絶える老人のようなしわがれた声が漏れた。
「これが六つ首村か」
 まさかと思いかけたが、その時、高城美奈の声が甦った。
「六つ首村に行ってみない?」という誘いの言葉が俄に現実味を帯びて聞こえてきたのだ。
 うん、行ってみよう。実際に行ってみて、この写真がそうなのか確認してみようじゃないか。そこに母と彼の秘密が隠されているのなら……。

〈本編へつづく〉


*続きは、11/19発売『六つ首村』でお楽しみください。

■あらすじ

さあ、復讐劇場の始まり、始まり。
奇才・折原一が横溝正史に捧ぐ、渾身のダーク・サスペンス。

フリーライター・笹村克哉のもとに、義理の姉と名乗る女がやってきた。曰く、笹村は北関東の奥地に佇む六つ首村の名家・白兼家の後継者候補であり、30年前に起きた「六つ首村連続殺人事件」を生き延びた張本人だという。連続殺人事件の犯人・六彦はどこに消えた? 引きこもりの現当主・夢男は何者? 自分の本当の父親は誰なのか? 六つ首村を訪れた笹村は白兼家の秘密を探りはじめ、並行して恐るべき殺人計画が進行する。 連続殺人事件の再現ドラマをめぐって、さまざまな人間たちの思惑が絡み合い――。三転四転のクライマックスの先に明かされる、衝撃の真相とは!?
密室あり、瞬間移動あり。折原ワールドの快感に酔いしれる仕掛け尽くしの超大作!

■書籍情報

『六つ首村』
著者:折原 一
装画:楢 喜八
装丁:坂野公一(welle design)
発売:光⽂社
発売⽇:2025年11月19⽇(水)
※流通状況により⼀部地域では発売⽇が前後します
定価:2,750円(税込み)
版型:四六判ハードカバー

■著者プロフィール

折原 一(おりはら・いち)
埼玉県生まれ。早稲田大学文学部卒。
1988年、『五つの棺』(のちに『七つの棺』として文庫化)でデビュー。
同年、『倒錯のロンド』で江戸川乱歩賞候補に。
’95年、『沈黙の教室』第48回日本推理作家協会賞(長編部門)受賞。
2018年、『異人たちの館』が本屋大賞発掘部門の「超発掘本」に選ばれる。
近著に『ポストカプセル』『傍聴者』『グッドナイト』など。

・著者ホームページ 「沈黙の部屋」

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