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イケメンを見に行った日

「イケメンがいるよ」
そう聞いたのは先日の飲み会だった。同じリラクゼーションセラピストとしてデビューする新人のことらしい。 

イケメン…。

私の日常生活の中で、しばらく脳みそを通らなかったワードである。

「なんでそのイケメンを呼ばなかったんですかー」
と軽口を叩きながら、自分の本心のありかを探ってみる。

私はイケメンに会いたいのか?
会ってどうするのか?
そもそも私はイケメンが好きなんだっけ?

なんとなくその場の流れで、イケメンと言われたら色めきだっておくべき、と私のポンコツコンピュータが判断したけど、イケメンがこれまで私の人生に意味をもって登場したことがあっただろうか。

アイドルの推し活にも縁がなく、恋愛対象としてもイケメンがど真ん中にきたことはなかった。若いときは顔の造作よりも、いかにも鬱屈していそうな文化系青年がタイプだった。

万人受けするザ・イケメンはむしろ苦手だった気がする。
いや。本当にそうだっただろうか。
もっと正直に深掘りすると、

「どうせ相手にされない」

という自分を守る気持ちも少なからずあったように思う。
数少ないイケメンと交差した場面を掘り返すと、
「遊んでそう」
などと失礼にも決めつけては、うっかり惚れてフラれるような事態を回避していたような。

だからイケメンが私の世界にいなかったのは、もしかしたら自分で排除していたのかもしれない。

そんなことを考えていたら、誓って狙ったわけではないのだけど、たまたま用事ができて噂のイケメンと会えることになってしまった。

みんなに「会えてよかったですねー」と言われながら向かう途中複雑だった。イケメンが何歳か知らんけど、おそらくひと回りかそれより年下のイケメンにワクワクしながら会いに行くと思われてるの、恥ずかしいな。

仮に私が20代の美女だとして、40代のおじさんがわざわざ自分に会いにやってくるとなったら、ちょっと恐ろしいものな。

本社に着くと、
「ごめんねー、イケメンまだ来てないんだよ」
なぜか謝られる。
これはいよいよ私が本腰いれてイケメンに会いに来たと思われているな、と危機感を抱き、
「あははー。イケメンに会ったら写真でも撮ってもらって自慢しますわー」
と、あくまでフワッとしたノリであることを強調してみる。

周りをみると、2~30代のシュッとした男子が何人かいて、私からしたらみんなイケメンの枠に入れて差し支えないように思う。でもこの人たちはイケメンではなく、真のイケメンがこれから登場するらしい。

イケメンってなんなんだ。
そんなに厳かに存在を尊ぶものなのか。

用事が済んだあとも、こうなってくるとこのままイケメンを見ずに帰っていいのか?とやはり落ち着かず、せっかくならイケメンを拝んでいこうという気になった。

パイプ椅子に座って瞑想していると、
「あっ、イケメン来ましたよ」
と肩を叩かれる。
顔をあげると、若い男の子がこちらにペコッと頭を下げて通り過ぎるところだった。
「あっイケメン!?」
「え、どうも……」
イケメンはさすが言われ慣れてるのか、キョロキョロしたりせず堂々とこっちを見た。

確かに骨格がきれいに整っていて髪がさらさらで、シルバーのピアスがチラッと見えて、いや、イケメン、イケメンだ、イケメンだと思うが。

私はイケメンをどうしていいのか分からない……。

「ほら、写真撮るんじゃないんですか?」
と20代の癒し系女子がせっついてくる。

いやなんかそんなテンションじゃないんだよ、とも言えず、
「そ、そうだよね。3人で撮ろうよ。私たちだけマスクで」
「ならイケメン単体のほうがいいんじゃないですか」
「そうねえ。でも待って。あなたもし40代のおじさんから単体で写真撮らせてくれって言われたらどうする?」
「怖いです!」
「怖いのよ!やめよう!よくないよ!落ち着いて!」
「えっ私が落ち着くんですか?」
「そうよ、一旦落ち着こう」
「はぁ」

そんなやり取りをコソコソして、イケメンどうするか問題を強引に終わらせた。

イケメンってイケメンという事象でありただの事実なんだわ。
イケメンってだけで気分が良くなったりお肌がつやつやになったりはしないんだわ。

「きゃー」どころかなんの感情も興味もでてこず、ただ初対面の気まずさを味わうはめになった。

あと圧倒的に若い。若すぎる。
生き物としての全盛期感がつよすぎて、最近どのようにしても口が下に雪崩落ちてくる問題で美容医療にまよいこんで高額請求された身としては、もう本当に生きている時代が違うっていうか……。

目がかすむと眼科にいけば「老眼」と言われ、虫歯だと思って歯医者に行けば「歯の劣化」と言われる。

私の周りに起こっている問題とこのイケメンが見ている世界はぜんぜん別物なのが一目で理解できてしまった。

イケメンってなに?どうしたらいいの?

「ベニスに死す」
という映画で老人が美少年に魅せられて、美少年の周りをうろうろするけどあれは何がしたかったの?

ベニスに死すの美少年。確かに三度見ぐらいするかも

アッシェンバッハのように彼の周りをうろつく気にもならず、「イケメンをみた」という事実だけ握りしめてまっすぐ帰宅した。




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