見出し画像

リングドッグ逃亡中 #せりふ三題噺

こちらははらとけいさんのお題企画への参加作品です!!
三題は難しい・・・。長くなっちゃってすいません!

お題:以下のセリフと言葉を使う
■セリフ
「わ!ふっかふか!」
■三題
・酸性
・夕立
・リングピロー

【以下本文】


「"リングドッグが逃亡しました"ってどういう事だぁぁ!」
 
 厳かな教会に俺の絶叫が響いた。

「す、すいません!リングピロー渡したら、遊んでもらえると思ったのか外に出ていっちゃって…」
 
 怯えた声で説明する部下に、俺は机を叩いた。スタッフの控室が一気に重苦しい雰囲気に包まれる。

 憧れのウェディングプランナーになってから、これでもう何度目のトラブルだろう。最初は一生に一度の幸せを静かに演出できるロマンティックな職業だと思っていたが…。
 
 
 (冗っ談じゃない!!連日連日、無理難題、リクエスト祭りからのトラブル祭りだ!)
 
 頭の中で”ブチギレ退職”のフレーズがぐるぐると回るが、俺は冷静に一つ息を整えた。まずは今日、この問題を解決してからだ。
 気を取り直して俺は叫ぶ。
 
「出来る限りの多くのスタッフで探すんだ!」
「し、しかしチーフ…外が…」
 見ると、さっきまでの晴天が嘘のように夕立が降り始めている。会場のスタッフが全員ビショビショなど、不吉過ぎて笑える話ではない。

「ど、どうします?」
「ホールに出ない奴だけで速攻探せ!」
 戦力はかなり減るがしょうがない。命令を出すと、俺も雨の中に飛び出した。もちろんこの後もホールでの仕事がたっぷり残っているが構ってはいられない。
 
 「なぜ!なぜ人は言葉も通じないどこに行くかも分からない生き物に、一生に一度の大役をやらせたがるんだろうなぁぁ!!」

 雨の中、自分で言ってても詮無い言葉を吐き出しながら、目の前をのんびり歩くゴールデンレトリバーを何とか確保する。しっぽを振りながらじゃれついてくる愛犬様は、嬉しくなったのか前足で俺の胸にジャンプアタックをしかけ、見事に水たまりに押し倒した(俺の勝負服が・・・)。

「す、すぐにこのワンちゃんを洗ってさしあげろ!ちゃんと弱酸性の洗剤で丁寧に洗うんだぞ!」
 
 そんな状況にも俺は怯む事無く指示を出すと、全身ずぶ濡れになりながら、教会まで走って戻った。指輪交換までの時間はまだある。まだ挽回のチャンスはあるはずだ!素早く着替えをすませ、髪を整えると、ちょうど犬の入浴が終わったところだった。
 
「よし!何とかなったな!」
 俺は会心のガッツポーズをしかけた。
 だがーー
 
「チーフ、しかしこちらが…」
 部下がおずおずと差し出したのは、土で汚れに汚れたリングピローだった。もちろん洗濯はしたが、沁み込んだ泥が落ち切らなかったのだろう。
「くそう、ここまでか…」
 
 万策尽きた…。
 俺はがっくりと肩を落とし、新郎新婦に謝罪に行くため、控室に足を向けた。
 その時ーー
「わ!ふっかふか!」
 
 振り向くと、親族だろう。小さな子供がきれいに整えられた犬の毛を撫でている。
 
「ふかふか……。………!」
 
 俺の頭の中にアイデアが弾けた。俺は急いで準備のために控室へ全力で走った。

「それでは、リングドッグのジェニーちゃんの登場です!」
 
 ひと際大きな司会の声が響き、式場が暗転する。スポットライトを浴びて登場したのは、先ほどのゴールデンレトリバーだ。しかし、その口にはリングもリングピローも無い。
 一瞬、会場がざわつくが、俺は余裕の顔だった。参加者もそろそろ気づくころだ。その頭につけられた大きなリボンに。
 
「なお、ジェニーちゃんにはそのふかふかの毛で、リングピローという大役も受け持ってもらっています」
 
 仕込んでおいたアナウンスが場内に流れる。そう。犬の頭を枕に見立て、リボンで即席のリングピローを作ったのだ。司会の言葉に、今まで怪訝な顔をしていた参加者からも笑いが漏れ、温かい拍手が送られた。
 
(やった、やったぞ、何とかなった…)
 
 俺は心から安堵していた。そしてもう一つ感情が湧いてきていた。自信という名のそれだ。
(なんだ、俺はちゃんとやれるじゃないか…。実は向いてるんじゃないか、この仕事)
 
 そんな浮ついた気持ちでいたからだろう。会場の笑いがざわめきに変わっている事に気づいていなかった。
 
「…あれ?指輪が無い…」
 新郎が不思議そうにつぶやいた。
「何だって!」
 思わず叫んで俺は犬の元に駆け寄った。そんなはずはない。俺がこの手でしっかりと設置したのだ。落ちるなんて事はあり得ない。しかし、現実として、2本のリングが…無い。
 
「ど、どういう事だ…そんな…」
「あの…もしかしたら」
 訳が分からない俺に向けて、小さな声で新婦がつぶやいた。
 
「この子…頭の上におやつを乗せて食べる芸が得意で…」
 
 呆然と新婦の言葉を聞くと、俺はゆっくりと向き直り、彼女ージェニーちゃんの目をじっと見つめた。まるで微笑んでいるかのような彼女は"ワンっ!”と満足げに一声鳴いた。
 
 教会内に今日二度目の絶叫がこだました。

【了】


私の拙い文を、ここまで読んでいただいて誠にありがとうございます!
‥‥ワガママついでに、連載作品もちょっと目を通していただけると嬉しいです!


いいなと思ったら応援しよう!