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Thaler確定 / 英TDM例外放棄 / AIと著作権をめぐる6管轄比較 雑感


Ⅰ 並行する著作権法制と事業者の戦略的選択

 AI技術の急速な発展に対し、各国の法制度はそれぞれ独自の軌道を描いている。Gianluca Magnani Avanziniが2026年3月に公表した6管轄比較資料「AI & Copyright: The Global Legal Divide」は、米国・EU・英国・オーストラリア・中国・インドにおけるAIと著作権の法的状況を一覧できるものとして有益な素材である〔注1〕。

 一覧してまず気づくのは、各管轄が共通の原則に向かって収束しているのではなく、それぞれ固有の軌道を描きながら急速に分岐しているという事実である。AIモデルをどこで訓練し、データの出典をどう管理し、どの市場に成果を展開するか。この判断は、もはや細かな法解釈の問題ではなく、著作権の枠組みに依存した戦略的選択となっている。法の国際的な調和が欠如した現状を所与として受け止めたうえで、各国の法制度がどのように分岐しているかを精査することが求められる。

1 米国とEUにおける対照的なアプローチ

 訓練データの利用に関して、米国は成文法上の例外規定を設けず、フェアユースの法理に基づく訴訟主導のアプローチを維持している。Thomson Reuters v. Ross事件において法律のヘッドノートへのAI学習にフェアユースが否定されたことや、Bartz v. Anthropic事件での15億ドル規模の和解に見られるように、適法性は個別の裁判を通じて事後的に判断される〔注2〕〔注3〕。著作者要件についても、2026年3月2日に連邦最高裁判所がThaler v. Perlmutter事件の上告裁量を否定したことで、AI単独による生成物は著作権の保護対象とならないという判断が現行法のもとで確定した〔注4〕。70件以上の訴訟が係属中という状況は、訴訟が事実上の法形成を担うこの環境の不安定さを示している。

 EUは立法的措置による事前のルール形成を志向している。DSM指令3条および4条に基づくTDMオプトアウトの仕組みを軸とし、2025年8月に施行されたEU AI法に基づく規制枠組みを稼働させている〔注5〕〔注6〕。2025年7月10日に公表されたGPAI行動規範により、プロバイダーに対する訓練データの開示義務が課され、2026年8月2日からは全世界売上高の3%を上限とする制裁が適用される見通しである。もっとも、GEMAとOpenAIのミュンヘン事件では「TDMが合法であることは、著作物がモデルの重みとして保持されることを正当化しない」との主張が提起されており〔注7〕、訓練と保持の区別は今後の争点として残る。

2 英国とオーストラリアの権利者保護への傾斜

 英国とオーストラリアは、AI学習のためのデータマイニング例外規定を設けない方針へと明確に舵を切った。英国は2026年3月18日の政府報告書において、それまで検討されてきたオプトアウト付きのTDMモデルの導入を正式に断念し、任意の業界ベストプラクティスへの委任という方針を示した〔注8〕。同月6日の貴族院報告書は現行法がAI規模の訓練に対応するには不十分であり早急な改革が必要であると指摘していたが〔注9〕、政府の選択は立法的解決を先送りするものとなった。CDPA1988の9条3項の廃止も提案されており、純粋なAI出力に対する保護を縮小し人間の関与を保護の条件とする方向性は鮮明である。係属中のGetty Images v. Stability AI事件の判断が、実務上の基準形成に影響を与えうる点も注目される〔注10〕。

 オーストラリアは6管轄の中で最も権利者保護に傾いた立場をとる。2025年10月26日に生産性委員会が提案したTDM例外の導入案を政府が拒否し、クリエイターへの公正な対価還元を原則として維持した〔注11〕。著作権・AI参照グループを通じた有償の集団的ライセンス枠組みの構築が2026年の主要課題となっている。

3 中国の多層的規制とインドのハイブリッド構想

 中国は、訓練段階ではプロバイダーの適法なデータ利用義務を課しつつも相対的に寛容な姿勢を保ち、生成物の出力段階において厳格な責任を問うという階層的なアプローチを採用している。2025年2月のUltraman事件ではAI生成侵害コンテンツについてプラットフォームの責任が確認され〔注12〕、2026年1月1日施行のサイバーセキュリティ法改正でAI固有のコンプライアンス規定が整備された。著作物性の判断については、北京インターネット裁判所が150回以上のプロンプト入力と反復的な修正を経た場合に著作権を認めるという判断を示しており、人間の関与の程度が実質的な閾値として機能している〔注13〕。

 インドは制度構築の最初期にある。2025年12月8日のDPIIT作業文書は、訓練データへの法定包括アクセスと権利者補償を組み合わせたハイブリッド型ライセンスモデルを提案しており〔注14〕、新技術の受容と権利保護の調整を図る独自のアプローチとして注目されるが、具体的な立法化は2026年以降の課題として残る。

Ⅱ 法の非対称性がもたらす構造的帰結

 6管轄を比較すると、同一の問題に対して米国は訴訟、EUは規制、英国は業界自律、オーストラリアは義務的ライセンス、中国はアウトプット規制、インドはハイブリッドライセンスという形で、それぞれ異なる解答を試みていることがわかる。この差異は、法制度の成熟度の差ではなく、著作権制度が何のためにあるかという規範的前提の差を反映しているとみるべきである。EUの透明性義務とオプトアウトの組み合わせ、オーストラリアのクリエイター保護とライセンス志向、米国の事後的な訴訟リスクの受容など、各管轄が選択した規範はそれぞれの産業政策や文化的背景を直接的に反映している。

 このような法域間の非対称性は、AI開発企業の事業構造やデータの調達方法を直接的に規定する要因となる。異なる著作権制度の並立は、各国の立法や司法が他国の動向を観察しながら自国の制度を調整していく過程での、ある意味で必然的な帰結でもある。統一ルールの不在を嘆くのではなく、各法域が選択したアプローチの差異を正確に把握し、個別の法域におけるリスクと適法性の境界を見極めることが、現時点で求められる実践的な視点であろう。

Ⅲ むすびにかえて

 AIと著作権の交錯領域は、権利論の段階を過ぎ、具体的な制度設計と執行の実務段階へと移行している。2026年後半には、EUにおけるGPAI規制の全面施行、CJEUへの付託に対する判断、英国の立法動向など、注目すべき展開が複数控えている。それぞれの法域が選択したアプローチの実効性がいかに評価され、判例やガイドラインを通じてどのように修正されていくか、引き続き精査していく必要があろう。詳細は原典をご確認いただきたい。

〔注1〕 Gianluca Magnani Avanzini, "AI & Copyright: The Global Legal Divide," Updated March 2026.

〔注2〕 Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH v. Ross Intelligence Inc., No. 1:20-cv-613 (D. Del.). 前掲〔注1〕参照。

〔注3〕 Bartz v. Anthropic, settlement reported March 2026. 前掲〔注1〕参照。

〔注4〕 Thaler v. Perlmutter, No. 23-5233 (D.C. Cir. 2024), cert. denied (U.S. Mar. 2, 2026). 前掲〔注1〕参照。

〔注5〕 Directive (EU) 2019/790 of the European Parliament and of the Council of 17 April 2019 on copyright and related rights in the Digital Single Market (DSM Directive), Arts. 3 & 4.

〔注6〕 Regulation (EU) 2024/1689 of the European Parliament and of the Council (EU Artificial Intelligence Act); GPAI Code of Practice (Jul. 10, 2025). 前掲〔注1〕参照。

〔注7〕 GEMA v. OpenAI (Munich, pending). 前掲〔注1〕参照。

〔注8〕 UK Government Report on Training Data and AI (Mar. 18, 2026). 前掲〔注1〕参照。

〔注9〕 House of Lords Report on AI and Intellectual Property (Mar. 6, 2026). 前掲〔注1〕参照。

〔注10〕 Getty Images (US), Inc. v. Stability AI, Ltd. (UK, pending). 前掲〔注1〕参照。

〔注11〕 Australian Government, Response to Productivity Commission TDM Exception Proposal (Oct. 26, 2025). 前掲〔注1〕参照。

〔注12〕 Ultraman ruling (Beijing Internet Court, Feb. 2025). 前掲〔注1〕参照。

〔注13〕 Beijing Internet Court ruling on AI copyright authorship (iterative prompting, 150+ inputs). 前掲〔注1〕参照。

〔注14〕 DPIIT Working Paper on AI and Copyright, Hybrid Licensing Model (Dec. 8, 2025). 前掲〔注1〕参照。

(マガジン)「AIと法雑感」

※目次は以下を参照

note総則規約3条2項前段
3.2 クリエイターが制作したデジタルコンテンツの著作権は、クリエイターに帰属します。
P.S. This is shared for academic discussion only.

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