AI生成物の著作権の国際比較 / 欧州議会調査局(EPRS) 「AI生成物の著作権:EU及びその域外におけるアプローチ」を読む雑感
1 はじめに
今回は欧州議会調査局(EPRS) 「AI生成物の著作権:EU及びその域外におけるアプローチ」を読了したため、雑感を記したい。
European Parliamentary Research Service (EPRS), "Copyright of AI-generated works: Approaches in the EU and beyond" (Briefing, 19 December 2025)
https://www.europarl.europa.eu/thinktank/en/document/EPRS_BRI(2025)782585
生成AIと著作権法をめぐる議論は、新たなフェーズに突入している。
これまでは「AI生成物に著作権が発生するか」という権利性の有無が主たる論点であったが、2025年12月現在、議論の重心は「いかにしてAI開発・利用の透明性を確保し、既存の権利者との共存を図るか」というガバナンスの問題へとシフトしつつある。
この潮流を如実に示すのが、奇しくも同時期に公表された二つの重要文書である。一つは、欧州議会調査局(EPRS)が公表したブリーフィング「AI生成物の著作権:EUおよびその周辺のアプローチ(Copyright of AI-generated works: Approaches in the EU and beyond)」であり、もう一つは、日本の内閣府知的財産戦略本部が提示した「AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(案)」(以下「コード案」)である。
今回は、これらの資料に基づき、AI生成物をめぐる各国の法制度の現状(国際比較)を概観した上で、EUの規制動向と日本のアプローチを比較検討し、今後の実務への示唆を試みたい。
2 国際比較の概況――「人間中心」の原則とその揺らぎ
EPRSのレポートによれば、世界の著作権制度の主流は依然として「人間中心(Human-centric)」のアプローチにある。
EUにおいては、AI Act(人工知能法)が制定されたものの、著作権法自体におけるAI生成物の扱いは明確化されていない。しかし、欧州司法裁判所(CJEU)の判例法理は「著作者自身の知的創作」を保護要件としており、これに基づき「十分な人的関与のないAI生成物には著作権は発生しない」との解釈が維持されている。米国も同様であり、著作権局は「プロンプト入力のみでは不十分」としつつ、人間による選択・配置等の創作的寄与が認められる部分に限定して保護を与える運用を徹底している。
他方で、この原則から逸脱する動きも見られる。
英国やアイルランド等のコモンロー諸国では、「著作者のいないコンピュータ生成物(Computer-generated works)」に対して、その作成に必要な手配を行った者に著作権を付与する独自の規定が存在する。ただし、この規定が現代の生成AIにそのまま適用可能かについては英国内でも議論があり、見直しも検討されている模様である。
また、中国では裁判例が割れている。北京インターネット法院が人間のプロンプト調整等の労力を評価して著作物性を肯定した事例がある一方で、別の裁判所では厳格に創作性を求めて否定する判断も出ている。
さらに特筆すべきはウクライナであり、AI生成画像に対して従来の著作権とは異なる「スイ・ジェネリス権(特別権)」を付与する法改正を行った。 これは、AI生成物を著作権法体系から切り離しつつ、投資保護的な観点から一定の法的保護を与えようとする野心的な試みといえる。
このように、世界的には「人間中心」が原則であるものの、その外縁ではアプローチの断片化が進んでいる。同一のAI生成作品(例えば「Suryast」)が、ある国では保護され、別の国では拒絶されるという事態も生じており、国際的な法的予見性の欠如が懸念される状況にある。
3 EUの規制動向――AI Actによる外堀の埋め立て
EUにおけるアプローチの特徴は、著作権法そのものの改正(権利付与の可否)に深入りするよりも、包括的なAI規制(AI Act)によって「透明性」を強制し、事実上のガバナンスを図ろうとしている点にある。
AI Actにおいて、汎用AIモデルの提供者は、学習に使用したコンテンツの詳細な要約(summary)を公開する義務を負う。また、AI生成物にはそれと分かるような表示(透かし等)が求められる。
これは、権利者側が「自分の作品が学習されたか」を確認し、あるいは「目の前のコンテンツがAI製か否か」を識別するための基盤を整えるものである。すなわち、著作権法上の「適法・違法」の判断の前段階として、情報の非対称性を解消することに主眼が置かれているといえる。
(参考)
4 日本のプリンシプル・コード案との比較
これに対し、日本のアプローチはどうであろうか。
知財本部が提示した「プリンシプル・コード案」は、法的な強制力を持たないソフトローであり、「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)」の手法を採用した点に最大の特徴があると考える。
(1)ソフトローによる柔軟な規律
EUがハードロー(AI Act)で義務を課したのに対し、日本は事業者の自主性を尊重する道を選んだ。事業者はコード(原則)を遵守するか、遵守できない(しない)場合はその理由を説明することが求められる。これは技術の進展が速いAI分野において、硬直的な法規制よりも適応性が高いとされるが、同時に実効性の担保という課題も孕んでいる。
(2)透明性確保の具体化
コード案の中核をなすのは、透明性と権利保護に関するチェックリストである。
ここでは、EUと同様に「学習データの収集方針」や「オプトアウト(機械可読な手段を含む)の尊重」が求められているほか、「侵害防止技術の導入」や「権利者窓口の設置」まで踏み込んで記述されている。
特に、日本では著作権法第30条の4により学習利用が広範に認められているが、コード案は、法的には適法であっても、robots.txt等による権利者の拒絶意思を無視して強行することは「推奨されない」という規範を形成しようとする意図が読み取れる。
(3)日本独自のアプローチ
日本のコード案は、EUのAI Actを意識しつつも、より実務的な運用指針としての性格が強い。例えば、ログの保存や、生成物が権利侵害を引き起こさないための技術的措置(フィルタリング等)への言及は、著作権侵害のリスクを技術と運用の両面で低減させようとする日本らしい現場志向のアプローチとも評価できる。
(参考)
5 おわりに
各国の動向を俯瞰すると、AI生成物の権利性(Protection)に関する議論は依然として決着を見ていないが、AI開発・利用の透明性(Transparency)に関しては、国際的なコンセンサスが形成されつつあることがわかる。
EUは法規制により、日本はソフトローにより、その手段こそ異なれど、「何をしたか(学習データ)」「何であるか(生成物)」を明らかにせよという方向性は一致している。
実務上、もはや「著作権法上適法か」という適法性の確認だけでは不十分である。今後は、各国の規制や日本のプリンシプル・コードが求める「説明責任」を果たせているか、透明性チェックリストへの回答を通じてステークホルダー(権利者、利用者、投資家)からの信頼を獲得できるか、というレピュテーション・マネジメントの視点が不可欠となるだろう。
国際的なルールの不整合は当面続くと予想されるが、少なくとも透明性の確保こそが、AIと法が共存するための共通言語となることは間違いないようであると考える。
(参考)思考の材料
出典
European Parliamentary Research Service (EPRS), "Copyright of AI-generated works: Approaches in the EU and beyond" (Briefing, 19 December 2025)
https://www.europarl.europa.eu/thinktank/en/document/EPRS_BRI(2025)782585
(マガジン)「AIと法-雑感」
※目次は以下を参照
note総則規約3条2項前段
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