カザフスタンにおける包括的AI法の誕生雑感
0 はじめに
今回は、カザフスタンで包括AI法が制定されたため、取り上げたい。あらゆる国をただ取り上げているのではない。日本のAI戦略検討は始まったばかりであるため、参考になりそうな示唆があるものについて選別した上で取り上げている。
なお、国民の生成AI利用を将来8割にすることなどを掲げた日本政府の初基本計画案の全容が先ほど発表されたところである(2025.12.2)。
(参考)
1 カザフスタンにおける包括的AI法の制定
2025年11月27日、カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領が、人工知能(AI)に関する包括的な法律に署名したことが報じられた(1)。この新法は、AIシステムの運用に関する指導原則を定め、透明性、説明責任、安全性、そして人間による監視の枠組みを確立することを目的としている。本稿では、報道された情報に基づき、同法の概要を整理する。
2 AIの定義と基本原則
同法は、AIシステムを「情報化の一要素」であり、かつ「人間が特定のタスクを達成するために使用するツール」と定義している。この定義は、AIを自律的な存在として捉えるよりも、人間の道具としての側面を強調するものである。
その上で、AIシステムの機能に関する基本原則が多岐にわたり掲げられている。具体的には、合法性、公平性、平等性といった普遍的な価値に加え、透明性と説明可能性、人間の幸福の優先、意思決定における自由意志、データ保護とプライバシー、そして安全性とセキュリティといった、現代のAIガバナンスにおいて不可欠とされる原則が網羅されている。
3 責任と説明責任の枠組み
同法は、「責任と説明責任」の原則を明確に確立している。AIシステムの所有者(owners)、保有者(holders)、およびユーザーは、その利用における各自の役割に基づいて責任を負うこととなる。特に所有者と保有者に対しては、リスク管理、安全性と信頼性の確保、そしてAIシステムの機能に関するユーザーサポートの提供といった具体的な義務が課されている。これは、AIのライフサイクルに関与する事業者に適切なガバナンスを求めるアプローチである。
4 禁止されるAIと透明性の確保
個人の権利保護と公序維持の観点から、新法は特定の能力を持つAIシステムの国内での作成および運用を禁止している。禁止対象には以下のものが含まれる。
1. サブリミナル効果、操作的(マニピュレーティブ)、またはそれに類する手法を使用する能力
2. 個人データおよびその保護に関する法令に違反して個人データを収集・処理する能力
これらの規定は、AIによる人間の意思決定への不当な介入やプライバシー侵害に対する強い警戒感を示すものである。
さらに、AIを利用して生成された成果物(商品、仕事、サービス)については、その旨を示すラベリング(表示)が義務付けられた。これにより、公衆がAIによる生成物であることを認識できるようにし、透明性を確保することが目指されている。
5 国家AIプラットフォームの創設
規制だけでなく、AI開発の促進にも目を向けている。AIシステムの開発と導入を加速させるための世界的な動向を踏まえ、「国家人工知能プラットフォーム」の運営に関する法的基盤が確立された。このプラットフォームは、プラットフォームベースのソフトウェア製品やAIモデルの開発、トレーニング、試験運用に使用される予定である。
6 関連法制の同時整備
AI法の制定と並行して、AIとデジタル化に関する関連法規の改正・追加に関する法律も成立した。これは、第一にAI法との整合性を図るため、第二に他の関連事項に関する法制度を改善するためのものである。
主な改正点としては、個人データ保護の強化が挙げられる。個人データの収集・処理に関する同意について、その有効期間は目的達成に必要な期間を超えてはならないとする要件が導入された。また、データ主体またはその法定代理人が同意を撤回する権利も明確化されている。
その他、情報セキュリティ確保のための要件強化や、従来アスタナ国際金融センター(AIFC)内でのみ許可されていた無担保デジタル資産の流通に関する規制の見直し(カザフスタン国内での流通規制)なども含まれている。
7 むすびにかえて
今回カザフスタンで制定されたAI法は、基本原則の確立、責任の明確化、禁止行為の設定、そして開発推進基盤の整備という、包括的なアプローチをとっている。中央アジアにおけるAIガバナンスの新たな事例として、その今後の具体的な運用と施行が注視される。
◾️参考
(1)EU Reporter, “Kazakh president signs law on AI” (2025年11月27日) (Qazinform News Agencyによる報道に基づく)
(マガジン)「AIと法-雑感」
※目次は以下を参照
note総則規約3条2項前段
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