動物の個性を測る難しさ — ニホンザルが教えてくれること
はじめに
動物に性格がある、という話はもう珍しくない。個体ごとに時間や場面を越えて安定した行動傾向【パーソナリティ】が存在することは、霊長類研究では広く認められた事実である。
だが、ひとつ手前の問いが残っている。その性格を、私たちはどうやって「測って」いるのか。研究の現場には大きく2つの流派がある。
長年サルを見てきた人が質問紙で採点する「性格評定」と、日々の行動を記録して安定したパターンを読み取る「行動観察」だ。
片山幸鵄氏らは、京都・嵐山のニホンザル(Macaca fuscata)32頭を対象に、この2つの物差しを同じ個体に当ててみた。測り方が違えば、見える性格も違うのか?
素朴だが本質的な検証である(Scientific Reports, 2026)。
背景:なぜ「測り方」を問うのか
霊長類の性格研究で広く使われてきたのが、ヒトのビッグファイブ(五因子モデル)に基づくHPQ(ホミノイド性格質問紙)だ。飼育員や研究者が長期の印象から各個体を採点する。手軽で網羅的だが、弱点もある。例えば、「社交的だ」という評価が、その個体の本当の性質を映しているのか、それとも血縁が多くて毛づくろい相手に困らないだけなのかは分からない。
評定は個体の属性(順位・血縁数・年齢)を紛れ込ませてしまう恐れがある。
一方の行動観察は、実際の行動を数え上げる。ただしニホンザルでは、評定法の研究はあっても、行動観察から性格構造を組み立てた研究はこれまでなかった。もし質問紙が本当に一貫した性質を捉えているなら、行動観察でも似た性格の軸が現れるはずだ。両者が一致するかどうかは、評定という手法そのものの妥当性を問う試金石になる。
手法:嵐山の餌付け群を、2つの物差しで
対象は嵐山モンキーパークの餌付け群32頭(成獣メス27・オス5、平均年齢は約21歳)。評定は55項目のHPQを複数の評価者が実施し、評価者間で一致度の高い25項目にしぼって主成分分析にかけた。行動観察は第一著者が焦点個体サンプリング法で2013〜2015年に実施し、1頭あたり計6.6時間、20種類の社会・非社会行動を記録。2期間で再現性の高かった(時間的に安定した)7指標を分析に用いた。
この研究の工夫は、毛づくろいや近接を「血縁」と「非血縁」に分けて測った点にある。同じ"社交的"でも、身内とべったりなのか、外の個体と幅広く付き合うのかを切り分けたのだ。
主な発見
質問紙は3つ、行動は2つの性格を映した
質問紙からは3成分が得られた。「優位性」(粘り強い・貪欲・優位にプラス、従順・臆病にマイナス)、「不安性」(興奮しやすい・攻撃的にプラス、穏やか・冷静にマイナス)、「友好性」(世話好き・友好的・愛情深いにプラス)。3成分で分散の72%を説明した。過去のニホンザル研究で報告された性格構造ともよく重なる。
行動観察からは2成分。「社会性」(血縁への毛づくろい・接近にプラス、座位・引っ掻きにマイナス)と、「毛づくろい」(非血縁への毛づくろいと相手数にプラス)。血縁との関わりと非血縁との関わりが、独立した別々の軸として分かれた点が新しい。身内とどれだけ過ごすかとは無関係に、外の個体と幅広く付き合う個体がいるということだ。
2つの物差しは、重ならなかった
そして核心。行動由来の2軸は、質問紙の「友好性」を予測しなかった。統計モデルで性・順位・血縁数・年齢を調整しても、両手法は一致した性格構造を出さなかったのだ。手法を変えると、見える性格が変わったのだ。
予測とは逆の結果だった。
質問紙の評価には、順位と年齢がにじむ
質問紙評価は個体属性と関連していた。高順位の個体ほど優位性が高く(順位: b=−0.78, P<0.001。数値が小さいほど高順位)、友好性も高かった(b=−0.60, P=0.003)。また高齢個体ほど優位性が高かった(年齢: b=0.26, P=0.036)。評定は、純粋な性格だけでなく、その個体が群れの中で置かれた立場も拾ってしまうらしい。
なぜ重要か
なぜ2つの物差しで測った性格が一致しなかったのか。著者らは、観察データに「文脈情報」が欠けていた可能性を挙げる。同じ毛づくろいでも、争いの後の仲直りとして起きることもあり、行動の意味は状況で変わる。性格特性には「見えやすさ」の差もあり、評定しやすい性質とそうでない性質がある。鍵になるのが「性格の一貫性(personality coherence)」という、状況の要請に応じて行動そのものは変わる、という考え方だ。日常を広く薄くサンプリングするだけでは、評定と行動のズレは埋まらないのかもしれない。
野生動物管理の視点からも、これは他人事ではない。私たちは個体の気質を、しばしば現場の印象で評価する。だが本研究は、印象評価が順位や年齢といった立場を映し込むこと、そして行動の裏づけと必ずしも一致しないことを突きつける。捕獲や移送、群れの管理で「この個体は大胆/臆病」といった評価を使う場面では、その評価がどんな文脈で得られたものかを意識する必要がある。個性を管理の判断材料にするなら、印象と行動データの両輪で、文脈ごと捉える設計が欠かせない。
ひとつ注意点がある。本研究は対象が平均21歳と高齢に偏り、若い個体に多い「開放性(好奇心・探索性)」の軸が抽出されなかった。この空白は、同じ2026年のvan der Mescht氏らの研究(別記事で紹介)と符合する。彼らはニホンザル202頭で、開放性が加齢とともに低下することを示した。歳をとった群れで好奇心の軸が見えにくくなるのは、いわば当然なのだ。片山氏らが順位・年齢と優位性の関連を見出した点も、van der Mescht氏らが「オスでは加齢とともに優位性が上がる」と示した知見と地続きにある。片山論文が"測り方"を疑い、van der Mescht論文が"測った性格の中身"を性・年齢・環境で読み解いている。
おわりに
嵐山の群れは、1954年から餌付け研究が続く、日本のサル研究の礎のひとつだ。半世紀以上にわたって血縁も年齢も記録されてきたこの群れだからこそ、性格という捉えどころのないものを、属性と切り分けて検証できた。
動物の個性を正確に測るのは、思うより難しい。質問紙は便利だが立場を映し込み、行動観察は文脈を欠く。それでも「血縁/非血縁」で社会性を割るといった工夫が、個性の別々の顔をあぶり出す。「個体数」だけでなく「個体の個性」に目が向けられ始めた昨今、どう測るかという足元の問いは、これからますます効いてくるだろう。
参考文献
Katayama, K., Nakamichi, M., & Yamada, K. (2026). Comparison of personality domains derived from personality ratings and behavioral observations in Japanese macaques (Macaca fuscata). Scientific Reports, 16, 16809. https://doi.org/10.1038/s41598-026-52385-y
