職人の「誤差」が製品を支えていた話|生産技術-小噺|No.64
ある外注先の職人にしか作れない重要部品があった。形状が複雑で公差も厳しい。30年間、その職人一人が作り続けてきた。
そんなある日、その外注先から受注辞退すると申し出があった。聞けば、そのベテラン職人が今度、定年退職し、他の職人では加工できないからということだった。
急いで、腕のいい別の業者で試作に取り掛かった。新しい業者は加工設備も整った精密加工会社で、社内に三次元測定機も持っている。問題はないと思っていた。
ところが納品された試作品を製品に組み込むと性能が出ない。三次元測定機で検査しても公差内。図面通りだ。
念のため、旧職人が作った在庫品を同じ測定機にかけたところ、なんと図面通りに作られていなかった。
複数箇所が、一定の方向性を持って公差からわずかに外れていた。一つだけではない。測定したすべての部品でまったく同じように公差から外れていた。
この部品は、組み付け後に荷重でわずかに変形しながら機能する。静的な寸法ではなく、動的な状態での形状が性能を決める。職人はその「ずれ」を体で知っていた。
結論はひとつ。旧品を精密測定し、実測値を「正」として図面を改定する。
改定された図面通りに作った部品を製品に組み込むと無事に性能が出た。
「図面通り」は品質の必要条件であって、十分条件とは限らない。
それ以来、転注前には必ず現行品を実測し、図面と現物が一致しているか確認する。それが自分の鉄則になった。
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