【愛縁奇縁/幽世編】第三話〈後編〉:幽世に散る白藤の花
【巫女/舞姫】
白銀は、柔らかな笑みを浮かべながら口を開いた。
「そんなにかしこまらんでもええって、久々のお客さんやから嬉しいわ」
唐突な砕けた口調に、如月は瞬きを重ね、志輝は背筋を伸ばす。
黒曜がその隣で眉を寄せ諫《いさ》めるように口を開く。
「白銀。もう少し、威厳を……」
白銀は片手をひらひらと振る。
「あー、はいはい。黒曜も肩の力を抜きや。
この娘らが恐縮して喋れんくなってまうやろう?」
黒曜は短く息を吐き、視線を社の奥へ逸らす。
威厳ある神を想像していた如月と志輝は、意表を突かれ拍子抜けする。
二人は思わず目を合わせて苦笑いを浮かべた。
すると、白銀が問いかける。
「で? 君ら、白ちゃん助けに来た子らで合《お》ぅてるか?」
その問いに、二人は息を呑んだ。指先が震える。
唇を引き結び返答を探す。
だが、この夫婦が敵か味方か測りかねて言葉が出ない。
黒曜はそんな二人の迷いを察し、優しく声をかける。
「警戒しないで……私たちも、あの子を不憫に思っているの」
柔らかなその言葉に、二人の肩から少しだけ力が抜ける。
けれど志輝は視線を蛇神夫婦から逸らさず、警戒の色を残していた。
だがそんなこと気にも留めず、白銀は黒曜の言葉に頷いた。
「そうやで?
特別な力があるからって、あないな場所に幽閉なんてあんまりや……
白ちゃんはもう100年近く奥宮から出て来とらん。
年は取らんから、死ぬこともないしな……ずっと自由がないんよ」
如月はその言葉に眉を寄せる。胸の奥がざわめく。
白の姿を思い浮かべた途端、握り締めた手が膝の脇で動く。
やがて夫婦は語る。
白が百年前、とある神の贄としてここへ送られてきたこと。
そして今は神の妻として奥宮で暮らしていることを。
白銀の声は、どこか懐かしんでいるような響きを含んでいた。
「僕を蛇神にしてくれたんも、その神様やねんけどね。
強い力持っとるけど、
制御ができへんからって元老院に管理されとるんよ。
二人には自由に過ごしてほしいねんけど……
僕らではどうすることもできん」
志輝は息を吸い込み、一拍だけ止める。だがすぐに、吐き出す。
白い吐息が灯篭の淡い光に揺れる。
黒曜が静かに目を伏せ、言葉を継ぐ。
「私たちも、元老院に監視されていて妙なことをすれば罰を受けるのよ」
その声音は穏やかだが、奥底の緊張が二人の胸へ落ちていく。
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