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【愛縁奇縁/幽世編】【外伝】蛇神夫婦:黒蛇の独白

 幽世に来る前は、別の土地で過ごしとった。

 そこで、黒曜と出会ってん。
 黒曜は白蛇で、僕は黒蛇やった。

 次第に惹かれ合ってな。
 互いに名を授け合うほどの仲になったんや。

 それから程なくして、夫婦となり幽世へ来たんよ。


 僕は生前、物心ついた頃から人ならざる者たちが視えとった。
 言葉も交わせたし、物怖じせん僕に彼らの方も友好的やったわ。

 生前は人間やったけど、その時の名前はもう忘れてしもたわ。
 まぁ、思い出そうとも思わんけど。
 自分の名前も生まれも育ちも忘れてしもたけど、
 覚えとることがない訳ちゃう。

 例えば、なんで蛇神になったのかはちゃんと覚えとる。
 僕の生まれた村にはな。生贄の風習があったんや。

 普通、生贄って聞いたらうら若き乙女を想像するやろけど……
 うちの村では違ったんや。
 二十歳になる前の男性を十年に一度捧げなあかんかった。
 何でも、
 村外れの滝壺におる蟒蛇《うわばみ》の女神への生贄らしくてな。

 女子供は駄目なんやって。

 でもな。ほんまは、僕やなかったんよ。
 僕が生まれる十年前に生贄なるはずやった人が、
 事故で亡くなってもうてな。
 村唯一の霊媒師が、蟒蛇の女神さまと話し合って、
 次に生まれて来た色白の男児は必ず十八で生贄にするっていう約束で、
 何とか許してもらったらしいんや。

 まぁ、その色白の男児が僕やったんやけどね。

 自分で言うのもなんやけど。
 僕、ほんまに白すぎて蝋燭ってからかわれとったくらいやもん。

 で、十八歳になる前日や。村中から御馳走持ち寄って、
 僕の家で宴会して、好きなだけ飲んで食べたわ。
 好きやった娘とも一晩一緒に過ごさせてもらった。

 あ、夜伽はせんかったけどね。
 ……きっと、思い残すことが無いようにってことやったんやろな。

 でもな、年の離れた妹の花嫁姿が見れんかったのは、心残りやったわ。

 そんで、翌朝。僕は、滝壺の側にある崖の上へ連れていかれた。
 死装束を着させられて、両手を縄で縛られて布で目隠しまでされたわ。

 崖の上には、鳥居があってんけどな。その先には、社も祠もない。

 その鳥居を潜ったら、崖の先端で滝壺に真っ逆さまに落ちるんや。
 自分の足で、一歩また一歩と死に向かって歩かされる。

 今思えば、怖かったんかな? 
 でも、一瞬でも歩みを止めたら進めんくなる思て……何も考えんで、
 ただ歩くことだけ考えてたわ。
 何歩目やったか忘れたけど、足踏み出したら足元に地面がなくてな。
 ……そっからはよう覚えとらんけど、水の中に落ちたのは覚えとる。

『ああ、僕このまま死ぬんやな』

 って思って目を閉じたんや。
 けどな。急に息苦しいのがのうなって、
 何が起こったんやろと思って目を開けたんよ。

 そしたら、鳥居の前やってん。奇妙しいやろ?

 装束も僕自身も濡れてもないし、両手を縛ってたはずの縄もない。
 一人で軽く混乱しとったら、急に頭上から声が降って来てん。
 驚いて見上げたら洋装を着た男の子がおったんや。
 もう訳わからんで、黙って見つめとったらその子がな。

『お前、面白いな。……良い事を思い付いた。
 蟒蛇の奴、人を食らい過ぎて穢れちまって駄目だからお前。
 奴の代わりに蛇神になれ。

 蟒蛇の力をお前にやる』

 拒絶も同意も、する暇なし。
 まぁ、言いぶり的に決定事項っぽかったけどな。

 そんで僕は、蛇神になってん。
 んで十年は、村のあった土地に居る様に言われてな。

 ん? 村は、どうなったって?

 ……その年の暮れに、土砂に飲まれて跡形もなく消えてもうたわ。
 呆気なかったで?

 ただ、ほとんどの村人はおらんかったから、
 被害を受けたんは一部の年寄と霊媒師だけやったけどな。

 あ、あと嬉しい事が一個あってん。
 十年目の春に、白無垢姿の妹が来てくれたんよ。
 鳥居の前で泣きながら結婚するってさ。

 あれでほんまに、僕の人間としての心残りは綺麗さっぱり消えたんよね。

 それからも色々とあったけどな。まぁ。
 黒曜に出会って、白ちゃんみたいなおもろい子とも仲ようなれて……
 僕は今が一番幸せやって思っとるわ。大変な事も仰山あるけどな。

 今では、あの人に感謝しとる。
 せやから、なんか恩返しがしたいと常々思っとった。

 その機会が、ようやっと巡って来たわ。
 白ちゃんと神さんが、なんの柵もなく自由に過ごせるように、
 僕も出来る限りで協力するさかい。


 どうか、あの子らを助けたってくれ。

▶次の話


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