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【愛縁奇縁/黎明編】第一話:涙で紡がれる庇護

【元老院】


 白は椥の姿が消えても、
 白銀と黒曜の腕を振り解こうと暴れ続けた。

「離して! いやだ、……椥!
 行かないで! 一緒に戦うってば!」

 その抵抗は涙と嗚咽に滲み、幼子のように必死だった。

 黒曜も宥めようとしたが白の力は意外なほど強く。
 抱き止めることさえ、難しかった。

 すると、白銀がぐっと拳を握る。次の瞬間、乾いた音が響いた。

 パンッ!!

 白の頬に紅が浮かび、動きが止まる。
 彼女の大きな瞳が、驚愕と痛みで白銀を映す。

「……ええ加減にせぇ!」

 その声が、震えながらも鋭く空気を裂いた。

「僕かて、ほんまはこんなことしたない! けど……っ、わかるやろ!?

 遅かれ早かれ、いずれこうなっとったんや!」

 声を荒らげながらも、その瞳は涙に揺れている。
 白を見据える彼の目は、必死に抑えた哀しみで潤んでいた。

「……君の気持ちは、痛いほどわかる」

 白銀は震える息を吐き、絞り出すように続ける。

「愛しとる者《もん》が、
 命を失うかもしれんのに……共に残ることも許されんのは、辛いやろな。

 胸が張り裂けるほどに……」
「……っ」

 白の目から新たな涙が溢れた。

「けどな、あの人の気持ちも考えたり」

 白銀は唇を噛み、必死に言葉を紡ぐ。

「君に、生きて欲しいんよ。僕も、黒曜も、そう願っとる。

 ……僕のこと、親戚の叔父さんみたい言うてくれたやろ?」

 白は嗚咽混じりに小さく頷く。

「どこの世界に、
 可愛い姪っ子に死んでほしいと思う叔父さんがおるねん?」

 一筋の涙が、白銀の頬を伝う。
 白はその涙を見て、言葉を失った。――胸が苦しく、息が詰まる。

「頼む」

 白銀は両肩を掴み、頭を深く垂れた。

「恨んでくれてもかまへん……後生や。僕らと一緒に逃げよう」

 白は声を詰まらせ、嗚咽の波に飲まれる。
 本当は今すぐにでも、椥の元へ駆け戻りたい。


 けれど、涙を流し懇願する【叔父】と、
 それを支える黒曜の姿を前に抗うことは出来なかった。

▶次の話


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