【愛縁奇縁/黎明編】第零話:沈黙の扉に託す愛
【元老院】
重厚な扉が閉ざされ、白は耐えきれずに駆け寄った。
「物ちゃん! 物部!
開けて! 開けてよ!!」
小さな拳で扉を必死に叩き声を限界まで張り上げる。
声は震え途切れてはまた叫んだ。
扉の内側からは何ひとつ音が漏れず、不気味な沈黙だけが続く。
白とは対照的に、椥は一歩も動かず、扉を睨みつけていた。
その冷えた瞳の奥に、決意と憂慮が宿る。
「……」
白銀が慌てて白の肩を掴む。
「白ちゃん、落ち着き! 扉越しに、いくら叫んでも届かへんよ!」
黒曜も腕を伸ばし、白を抱くようにして引き止める。
「そうよ、白ちゃん……お願い、やめて」
「でも……でも、……っ!」
白は涙を滲ませ、なおも抗おうとする。
そのやり取りを見届けてから、椥はようやく口を開いた。
低く、鋭く。
「……白銀。お前は、白と黒曜を連れて逃げろ」
言われた白銀の顔が一瞬で強張った。
「……は?」
「私はここに残り、彼らに加勢する」
「――っ! 何言うてはるんですか!」
白銀の声が裏返る。
「いくら、あんたが強くても相手は元老院や!
僕もあんたも、あいつらに管理されとる側や!
そんな立場で挑んだら、ただの反逆者として潰されてしまう……!」
叫ぶような声を遮るように、椥の瞳がぎらりと光った。
「……良いから黙って従え」
瞬間、空気が凍りついた。白銀は言葉を失い、喉の奥で息を詰まらせる。
やがて俯き、唇を噛んだまま黙り込む。
そして、無言で白と黒曜の腕を引き、
渋々ながらもその場を離れるように歩み出す。
「やだ! やだよ!
離して、白銀さま! ねえ、待って……!」
白が振り返り、必死に椥へと手を伸ばす。
「椥! いやだ!
私も、あなたと残って一緒に戦う!」
椥は静かに首を振った。
「駄目だ」
「な……っ」
椥はその顔を真っ直ぐに見つめ、穏やかな微笑を浮かべた。
「……今日まで、俺の傍に居てくれて……支えてくれてありがとう」
白の胸が、きつく締め付けられる。
「……あの兄たちと共に、できるだけ遠くに逃げろ。
そして、幸せになってくれ」
静かに響く声。
その言葉が、白の涙腺を一気に崩壊させた。
「いやだ……幸せなんて、椥がいなきゃ要らない……っ!」
必死の叫びが、空気を震わせる。
だが白銀と黒曜はそのまま彼女を抱きとめ、
椥から引き離すように歩みを止めない。
扉の前に残った椥は、背を向ける彼らを見送った。
……――――ゆっくりと深い息を吐いて。
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