【番外】息子の金融リテラシー① キッザニアで始まったキッゾ運用計画
息子が幼少期、外出自粛が徐々に解かれ始めた。
社会経験を制限されてきた息子に、何かを経験させたくて、私はうずうずしていた。
自粛が解かれたとはいえ、まだ不安な空気は漂っていた。
出かけるのなら、一か所でいろいろ経験できる方がいい。
しかも、なるべく近い方がいい。
そんな私が選んだのは、キッザニアだった。
子供が様々な仕事を体験できるテーマパークだ。
小さな息子が、大人顔負けの姿を見せてくれる。
その様子を想像すると、私の方が楽しみになった。
キッザニア経験者の知人から、事前に情報を仕入れた。大きくなった知人のお子さんから、使わなくなったキッゾも譲っていただいた。
当時の息子は、お金と聞くと目の色が変わる子供だった。
ある時、ニュースで聞いたビットコインを欲しがった。
「B」と刻まれたおもちゃのコインを夫が買ってあげると、毎日大事そうに眺めていた。
もちろん、頂いたキッゾにも大喜びした。
キッザニアでは、お仕事体験をすると、報酬にキッゾや現物がもらえる。
そのキッゾでまた新しい体験ができたり、デパートで買い物もできる。
手元のキッゾは銀行で預金することも可能な、本格的な仕組みだ。
もちろん、親が家族全員の入場料を支払っているので、儲かるのは子供だけなのだが…。
お仕事体験の世界はよく作り込まれていて、子供が主役。
大人は体験の予約に走り回り、ランチの段取りをする黒子役だ。一日中、奉仕の精神で動くことになる。
息子は頂いたキッゾを手に、いよいよキッザニアに乗り込んだ。
そして、次から次へと仕事をこなした。
電車の整備をしたかと思えば、次には現金輸送。
待ち時間には宅急便のバイトも挟む。
その後はまた電車に戻り、運転士として乗務した。
ランチタイムにピザを口に放り込み、午後には自動販売機の補充もこなした。
自動販売機の本体を布巾で拭き上げる息子を見て、私は思わず心が震えた。
普段、家という見慣れた環境ではダラダラして見える息子が、シチュエーションを変えただけで、こんなに働き者になるものなのか。
退場時間が迫ると、息子はキッゾを取り出して数え始めた。
最低限の買い物ができるとわかると、さっそくデパートに入っていく。
大人は入れない子供デパートで、息子は自分で選んだ品物を自分で買って出てきた。
満足そうな笑顔に、私も達成感を覚えた。
その時、ふと夫が言った。
「キッゾを銀行に預けるぞ」
年利は10%で、年二回利息がつくらしい。
なんとか私の現金もこっそり預けられないか、一瞬頭をよぎった。
しかし、ここで動いている通貨はキッゾだ。
息子は夫に促され、銀行に入っていった。
まだ園児なのに、行員に扮したスタッフとやり取りし、一人で通帳を作った息子。
その通帳を手に、緊張と達成感の入り混じった硬い笑顔で銀行から出てきた。
それを見た夫は、感動していた。
「一人で通帳を作れたな……」
キッゾだけどね。
心の中で、私は静かに突っ込んだ。
緊張がほどけた息子が、夫に抱き着きながら聞いた。
「これさ、次来る時どれくらい増えてるの?」
夫が答えた。
「次に来るまで、どのくらい空くのか次第だな」
「長く預けておけば、増えているかもしれない。大人になるまで貯めておけば、すごい増えるぞ」
それを聞いた瞬間、息子が飛び上がって興奮した。
「おれ、預けておく!大人になったら、自分の子供にあげる!」
息子の壮大なキッゾ運用計画が幕を開けた。
それを眺めながら、私はこの計画がこの先どうなるのか、少し楽しみになっていた。
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