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【番外】朝学習を制したのは、まさかの…

朝学習を制する者は、その日の学習を制する。
そんなスローガンを掲げる我が家だが、現実はそう上手くいかない。
まず、息子はぱっと起きられるタイプではない。目が覚めても、しばらく布団の中でグダグダしないと起きられない。
しかし、これは私自身も同じタイプなので、あまり強くは言えない。
「起きたらミロをあげるよ」
そう声をかけつつ、起きてくるのを待つ。
やっと起きても、着替えが終わるまでさらに時間がかかる。
机の前に座る頃には、もう何十分も過ぎている。
そうして、やっと息子がノートを広げたその時。
部屋の隅を、素早く動く黒い物体が横切った。

ムカデだ。

近所でもめったに見かけないのに、まさかの室内デビューである。
もちろん、初めての出来事だ。
私は我を忘れ、その場で悲鳴を上げながら、別室にいる夫を呼んだ。
「ちょっと来て!」
迷惑そうな生返事だけが返ってきて、なかなか現れない夫。
ムカデと対峙し続ける私の隣に、「なになに?」と野次馬根性丸出しで、息子が真っ先に駆けつけてきた。
せっかく座ったばかりの椅子は、あっさり空席になった。
「もう、なんだよ」
やっと現れた夫に、逃げようとするムカデを必死に指差す。
夫は、どこか呑気にその先を見てから、勢いよく飛び退いた。
「うわっ、ムカデだ」
そうだ。
なぜ手ぶらで来たんだ。
「ティッシュでいくか?」
夫を最前線に押しやりながら聞くと、夫がイライラして叫んだ。
「そんなもんでいけるか!」
無益な殺生は避けたいが、自分では対処できない。
私は慌てて言った。
「割り箸でいくか?」
私たちを嘲笑うかのように、素早く動き回るムカデ。
それを見て、夫がさらに焦った。
「そんなもん無理だ! スプレーを持ってこい!」
「はいっ!」
一撃必殺の道を選んだ夫に、今世紀最速で殺虫剤を差し出した。
その時、息子が叫んだ。
「お、俺のぬいぐるみがぁ〜!」
ムカデの進行方向には、息子の大事なぬいぐるみがあった。
「早く!早く助けて!」
悲鳴を上げるだけで、自分で助ける気は一切ない息子。
刻一刻と迫るムカデ。
頼りない息子に代わり、私が決死の思いでぬいぐるみを救助。
すかさず夫が、ムカデめがけてスプレーを噴射した。
朝とは思えない、阿鼻叫喚の光景だった。

騒動が収まっても、息子の興奮はなかなか冷めなかった。
「多足類が出ちゃったねぇ〜」
「10センチくらいあったかなあ。これは友達に教えないと」
理科で習った言葉を嬉しそうに口にする息子。
その隣で「テストの単元が多足類なら良かったのに…」と思う私は、すでにぐったりだった。
朝学習は、まだ始まってすらいない。
ムカデ騒ぎに制された朝、息子のノートは、真っ白なままだった。

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