【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第十四話 幻獣降臨
―—————ドォォォォォン!!
一打。重厚な、しかしどこか透き通った太鼓の音が森を支配すると同時に瑠璃色の鱗を持つ戦士が現れる。
「……何者だッ!」
熊族のガロンが問う。
その男は静かに言い放つ。
「弱者を踏みにじることで己を誇示する者に教える名などない。」
(彼は、誰?……瑠璃色の鱗に尻尾、背中に浮いてるのは、雷鼓?六つの雷鼓が浮遊しているの?)
「その姿!まさか……龍族ッ!」
「絶滅したはずの化石の一族がなぜここにいる!?」
ガロンが警戒して、距離を取る。
その男は、傷だらけのミラを一瞥した。
「小娘、まだ息はあるようだな。……動けるか?」
ミラの視界は未だにぼやけ、血の匂いが鼻をつく。だが、その中に混じって、どこか懐かしい、雷雨の前触れのような匂いがした。
「あなた、誰……?」
「名乗るほどの者ではない。ただの通りすがりの老いぼれだ。」
その声は低く、しかし不思議と心に響いた。彼の燃えるように揺らめく金色の瞳には深い哀しみと静かな怒りが宿っているように感じた。
「龍族……貴様ら、生きていたか!」
ガロンが吠える。彼の巨体が地を揺らし、鋼のような腕が空を裂く。
「ふん……だが、これは好機だな。」
「……何が言いたい?」
「貴様を倒せば、俺は “幻獣殺し” として名を残せる。50の獣族の中でも稀有な存在である幻獣の一族。その一角を落とせば、俺は名実ともに伝説となれる!」
ガロンは金色の戦斧を構え、その男に襲い掛かる。
「くらえ……轟斧・ベアーズクラッシュ!」
—————ドォォォォォン!!
ガロンの奥義が繰り出された瞬間、龍の背中にある一つ目の雷鼓が鳴り響いた。雷鼓から出た稲妻が龍族の男の拳に集まり、彼の腕が雷光に包まれる。
「第一鼓———『雷拳』!」
——シュゥン!
目にも留まらぬ速さで拳が空を切ると、雷がうねりをあげながらガロンへと襲いかかった。雷拳の一撃が黄金の戦斧を貫き、ガロンの巨体を貫通した。
「ガフッ……バカな、この俺を貫くだと!?」
ガロンが最後の力を絞り出し、反撃に出ようとするが、時すでに遅し。
体を貫いている腕から雷の衝撃が走る。
「グァァァァァァァァ!?」
土煙が舞い、焦げたにおいが森中に漂う。森の木々がざわめきが止み、ガロンが膝をつき倒れた後、しばらくして、グリムの声が響く。
——ザァァァ……ザァァァ……
「十二支有力候補の一人、熊族のガロン・べアルガンがなんと死亡。敗退だぁ~!これで……残り47人!」
実況の声が止むと、龍の男がゆっくりとミラのもとへ歩み寄る。彼女の傷を見て、眉をひそめた。
「あの程度のものに苦戦するのならば、この先、生き残ることは厳しいだろう。棄権することを勧める。死ぬことに比べれば容易いことだろう?」
「うるさい!……さっさとかかって来なさい!死ぬなら……戦って死ぬ!」
「フッ……」
「なぜ……助けたの!」
男は一瞬、何かを思い出すように目を細めた。
「お前は……俺の娘に、少し似ていた。それに……。」
男が言い淀むが、ミラは何も言えず、ただその言葉の重みに目を見開いた。
「立てるか?」
「私はミラ……ミラ・グレイ。あなた、名前は?」
「俺の名は飛龍。」
飛龍は彼女を支えながら立たせた。ミラの目に、初めて見る種族への恐れはなかった。ただ、深い感謝と、どこか懐かしさがあった。
「これから、どうするの?」
ミラの問いに飛龍はゆっくりと答えた。
「俺が十二支になった暁には、成し遂げたいことがある。娘……戦う気がないのなら、俺に協力しないか?」
ミラは驚きを隠せないまま問う。
「……目的って?」
「それはお前の返事を聞いてからだ……。協力するか、それとも俺と戦うか?」
(こいつを完全には、信用できない。でも……)
「勘違いしないでよ。これは『協力』じゃないわよ。あんたが油断した時に、いつでも首を掻っ切れるように、一番近くであなたを狙うためよ。」
「フン、威勢だけはいいな。………行くぞ、ミラ。まずはその傷を治せ。」
「言われなくてもこんな傷すぐに治っ………痛い、痛い!優しく持ち上げてよ!」
飛龍は穏やかな表情のまま、歩みを進めた。
瑠璃色の龍と、白銀の狼。本来、交わるはずのなかった二つの孤高の魂が、アポカリプス第三領域の幽玄の深森で重なる。
ミラは、飛龍の温かさと強さに“ルガ”と“トルン”の魂を感じていた。
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