【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第十話 銀牙の試練ー銀牙の間③
三人は奥義がぶつかり合った衝撃で吹き飛ばされいた。そんな中、立ち上がったルガが、よろめきながらミラへ近づく。
その体からは蒼銀の光が消え、力が抜けていく。
「ルガ……やめて……もう戦えない……」
しかし、ルガは返事をしない。ただ、ゆっくりとミラの方へ歩み寄る。
その姿は、まるで最後の力を振り絞っているようだった。
その時、トルンが血を吐きながら、 這うようにして立ち上がった。
「そういう事か、ルガ……」
「……」
「てめぇ、最初から手を抜いてたな……」
ミラの目が見開かれる。
「え……?」
ルガの足が止まった。
トルンは拳を握りしめ、怒りとも悲しみともつかない声で叫んだ。
「お前の技を真正面からくらって、この程度の傷で済むわけねぇんだよ!」
「えっ?それじゃあ……」
「あぁ、そうだミラ。俺たちの技をわざと避けずに受けていた。俺たちを殺す気なら、ダメージを受けずに、もっと深く速く斬り込めたはずだ!」
ミラの手が震えた。
「ルガ……そうなの?」
ルガはゆっくりと振り返った。
その顔には、 もう戦いの気迫はなかった。
ただ、静かな、優しい微笑みだけがあった。
「ふぅ~……気づかれちゃったか」
トルンは歯を食いしばった。
「気づくに決まってんだろ!てめぇの拳も爪も……本気の時とは全然違う!」
ミラは涙をこぼした。
「ルガ…… どうして……どうしてそんなこと!」
ルガはゆっくりと膝をつき、 ミラの手をそっと握った。
「ミラ……トルン……」
声は弱く、 今にも消えそうだった。
「君たちは優しい。だから、僕のことを殺せないと思った……」
ミラの涙が床に落ちる。
「ルガ!」
ルガは微笑んだ。
「だから……敵になったふりをしたんだ。ごめん、たくさん傷を負わせたね……」
「てめぇ……そんなことして!自分だけ死ぬつもりだったのかよ!」
「2人の優しさは、僕が一番知っているから……子供のころから、ずっと……ね」
「ルガ!気をしっかり持って!」
「ミラ、トルン……君たち二人は、俺なんかよりずっと、一族を導ける器だと思う。生きてみんなを頼むよ……」
ミラは泣き崩れた。
「ルガ……そんなの……そんなの!」
ルガはミラの頬に手を添えた。
「ミラ…… お前は……強い。だから……生きろ」
トルンも涙をこぼしながら言った。
「ルガ……てめぇ、最後まで勝手すぎんだよ!」
「悪いね、トルン……でも、これが僕の選んだ道だから」
ミラは叫んだ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ルガァァァァァ!!」
ルガは二人の手を握りしめたまま、 静かに目を閉じた。
ミラは泣き叫び、 トルンは拳を床に叩きつけた。
「ルガァァァァァァァァ!!」
ルガはもう動かなかった。その体がミラの腕の中で静かに冷えていく。瞳はもう二度と開かない。
その時長老ゲイルの声が、銀牙の間の天井に虚しく響いた。
「勝者は……まだ決まっていない」
ミラは顔を上げ、ゲイルを睨み付ける。
ゲイルは冷たく告げる。
「ルガは倒れた。残るはミラとトルンだ。最後の一人になるまで、試練は終わらぬ」
ミラの顔から血の気が引いた。
「そんな……そんなの……!」
トルンはゆっくりと立ち上がった。 その目には涙が溜まり、 拳は震えていた。
「ゲイル……てめぇ……」
「……」
ミラはトルンに駆け寄る。
「トルン、お願い!もう戦わないで!もう誰も死んでほしくない!」
トルンはミラの肩に手を置いた。その手は大きくて、温かくて、震えていた。
「ミラ…… お前は……ルガの想いを背負って生きるんだ」
ミラは首を振る。
「嫌……嫌よ!トルンまでいなくなったら……私!」
トルンは微笑んだ。それは、いつもの豪快な笑いではなく、どこか寂しげで、優しい笑みだった。
「ミラ。俺はな、ルガが考えが分かった時点で、もう決めてたんだよ……」
ミラの目が揺れる。
「決めてたって、何を?」
トルンはルガの亡骸に視線を落とした。
「ルガは…… 自分を犠牲にしてまで…… お前を生かそうとした」
拳を握りしめる。
「だったら……俺がやることは一つだろ」
ミラは震えた。
「トルン……やめて……!」
トルンはミラの頬に手を添えた。
「ミラ。お前は……俺たちの誇りだ。だから……生きろ」
ミラは涙を流しながら叫んだ。
「いやぁぁぁ!待って、トルン! お願いだから……2人で生き残れる方法を考えるから!」
トルンはミラの手をそっと離し、 ゆっくりと後ろへ下がった。
「長老ども!俺は、お前らの思うようには生きねぇ!」
拳を胸に当てる。
「ルガの想いを……ミラに託す!」
「やめて……やめてよ、トルン!」
——スゥ……
トルンの深い呼吸音が聞こえる。
(俺の拳は、仲間を殺した拳、そして、守るために振るう拳だ……)
「ミラ、ルガ……2人とも……ありがとうな」
ミラが叫ぶ。
「トルン!! やめてぇぇぇぇぇ!!」
だが、トルンは迷わなかった。
——バァァァァァン!
自らの胸に拳を叩き込んだ。
「——ッ!!」
肉が裂け、骨が砕ける音が響く。
ミラは絶叫した。
「トルンッッッッッ!!」
トルン立ったまま、 血を流しながら微笑んだ。
「ミラ…… 生きろ…… 俺たちの……未来を……」
そのまま、トルンの体は前のめりに倒れた。
ミラは駆け寄り、トルンの体を抱きしめた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! トルン!! トルン!! 返事してよ!!」
だが、トルンから返事か返ってくることはなかった。
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