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「ロダン早乙女の事件簿 FIRST・CONTACT」 11

第3章 第6話 点と線 PARTⅢ

「それは・・・」 

「早く話された方がいいですよ。ロダンの後の先生は怖いですから」と、伊藤さんが諭すように囁いた。

「ロダン?」

「後でゆっくりお教えしますので、早くお話し下さいませ」

 牧野弁護士は、同席している清水弁護士に耳打ちし、意を決したのか話し始めた。

「わかりました。ある人とは、ZODIAC SIGN(ゾディアック サイン)建設株式会社の専務さんで、名子博美(なご ひろよし)さんです」

 伊藤さんがビックリしたような顔をした。ZODIAC SIGN建設と言えば超一流企業だ。そして、それほどの会社がどのような関係があるのかと思った。

 中小企業である建設会社と合併して、なんのメリットがあるというのだ。譲渡を受けたところで、それほどの価値があるとは思えない。

 しかし、さらに問いただすと理由が分かった。それは、先代のお父さんの時代に買った奈良の山が関係しているらしい。その山に今後、三億円の資金を投じ開発する用意があるとのことだ。

 3億円と言えば大金だ。奈良の山にそれほどのお金をつぎ込むのも不思議な話だ。しかし、大金ではあるが、リゾート施設等を作るには一桁違う。だから、開発などではないだろう。

「わかりました。一応信じましょう。では、もう一つお聞きします。先ほど不正には関与していませんとのことでしたが」

「ええ、そうです」

「では、関与していない不正ってなんですか」

 青ざめた顔がさらに青ざめるとはこのことか。

「さあ何ですか。隠し立てはしないと言いましたよね!」と、追い詰めた。

 牧野弁護士は観念した様子になった。これが警察用語の完落ちというのだと思った。その後はすらすらと話し出す。

 まず、名子専務が事務所に来て、浅倉二朗という人の遺言執行人を引受けて欲しいと依頼があったらしい。一応、亡くなった時に連絡すると言われて了承したとのことであった。

 約1ヶ月後に浅倉二朗さんが亡くなったと、専務から電話があったらしい。そして、四十九日法要が決まったら連絡するので、その場所へ行き、公正証書遺言を家族に見せてほしいと言われたそうだ。

 その際、琢磨さんに、ZODIAC SIGN建設との合併を踏まえた、今後の会社運営についての相談があると伝えてほしいとのことであった。

 琢磨さんではなくこの専務だったのか、そして、そんなに都合よく直ぐに亡くなるものなのかと考えた。

「あなたは、公正証書遺言を作ることができるほど元気な人が、そんなに早く亡くなったことに違和感はなかったんですか」

「ありました。少しおかしいとは思いました。そして、殺人ということも頭に浮かびました。しかし、行政解剖でも異常は無かったと聞きましたし、それ以上のことは聞きませんでした。それにこの事務所を維持するには大口のクライアントは欠かせないんです」

「そんな理由か。おろかな」

 ここが内堀かと思ったが、まだ城壁の地下に更なる内堀が張り巡らされていた感じであった。

「わかりました。牧野先生はこのまま顧問を続けて下さい。先生、あなたは罪には問われないかも知れないが、一歩間違えばどうなっていたか。仮に私たちに話してしまったことを、名子さんやその他の人に話した場合、あなたを告訴する用意があります。いいですね。秘密保持義務違反でね」

「分かりました。ただ、仮処分があったからには琢磨さんには、早乙女先生たちの行動は伝えないといけませんよね」

「そうですね。ただ、それ以上はダメです。あなたは琢磨さんの代理人ではないので、いいですね。これが殺人事件に発展した場合にその関係性を疑われないように私たちに協力しなさい。分かりましたか」

 彼は、殺人事件ってどういうことかと尋ねてきたが、例え話と言ってごまかした。しかし、推測ではあるが、何かが城の底で住みついているような気がした。

「では、これで失礼します」

 私と伊藤さんは、席を立ちドアに向かった。牧野弁護士は茫然自失というように、立ち上がりもせず顔も向けなかった。清水弁護士一人がドアまでやってきて頭を下げた。
 私たちは、ドアのノブを回しながら振り向いてニコッと笑顔で頭を下げた。清水弁護士には、裏切ったらただでは済まないとの意思表示は伝わったと思った。

 二人は、事務所を出てエレベーターホールまで歩いて行き、エレベーターに乗ったとたんに伊藤さんが聞いてきた。

「どうしてあのような方を顧問として続けさせるのですか」

「今は名子さんにこちらの詳細な行動を知られたくないので、続けてもらうことを優先しました。そして、辞任等により手を引かれると、情報が筒抜けになる可能性が高くなるから、顧問のまま残っていれば、むやみに情報を流すことはないと判断したんです。

 伊藤さんは「うんうん」と言って納得した様子であった。
 
「まだ相手に感づかれたくないのと、これからも牧野弁護士から情報を得たいと思っているんだ。それに、かなりの小心者だということが分かったからね」

「それでは今日はかなりの収穫でしたね」

「その通り。でも、ZODIAC SIGN建設が直接関わっているとは思えない。だから、何か深い闇を感じる。私の考えは、名子専務の個人的な目的が大きいと踏んでいます。取り敢えず、方向性は見えてきたような気がするので、大きな収穫だと思う」

「今日は、スカッとしました。凄く傲慢な人でしたから、先生がギャフンといわした時はストレスが発散されました」

「かなり疲れたね。今日は直帰しましょう」

「はい、そうします。前回と違い晴れ晴れとしていますので」

 こんな笑顔を見せることもあるのか。いや、ダメダメ。

「あっ、そうだ。明日でいいので今週末の金曜日に結衣さんに来てもらって下さい。それから今日の書類を忘れずに持ってきてくださいと。最後に、山のことで何か気づいたことがあれば、どんなことでもいいので調べてほしいと伝えて下さい。お願いします」

「今日の書類って、なんですか」

「さっき、牧野弁護士に話した仮処分の書類だよ」

「結衣さんが出したのですか。なるへそ」

「ええ。今、なるへそって言ったよね」

「そんなこと言っておりません。先生に染まったみたいではないですか」

 いつもより怒り具合が柔らかであった。伊藤さんは、少し名残惜しそうではあったが、すっきりしているのか、私が止めたタクシーに乗って帰った。

 私はというと、まだ考えたいことがあったので電車で帰ることにした。
(一つ目は、不動産への投資にしては、中途半端な金額。
 二つ目は、それぐらいの価値しかない物件にこれほどの怪しげな行動。
 三つ目は、通常、ZODIAC SIGN建設ほどの会社ならば、もっと大
      きな弁護士事務所が顧問のはず。
確かにビックリするような事務所を構えているが、所詮は個人事務所の大きい版である。部屋の数からいって弁護士は十人前後だろう。だから、牧野弁護士に頼んだのは個人的な要件からと思われる。この三点が謎として増えたということだ。考えていると新宿駅に着いた。
 
 電車は空いていた。座って先ほどの考えをメモに取った。そして、今週末の結衣さんの訪問で、今日の謎として浮かび上がった山の正体を、見極めることができるかどうかを考えていると、国立駅に着いた。
 家まで十分ほどだが、途中コンビニで晩御飯を買って帰った。

 明かりのない家のドアを開け、玄関左のスウィッチを入れた後、心の中で(ただいま)の後(おかえり)と、呟いていた。

 家は一軒家を買って一人で住んでいる。というのも父の弁護士事務所を辞めて以来、実家とは疎遠になっていた。
 ソフアに座り、先ほど買ったお弁当をレンジせずに食べるのが今の日課である。テレビを点けても音を出さずに、映像だけを見ている。
 私にとって家は体を休めるだけの単なる箱に過ぎないのが悲しかった。ただ少し違っているのは、疑問を解こうとする自分の姿を思い浮かべる事であった。

 私は、その準備の為に、今、眠りにつく。
 

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門

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