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「ロダン早乙女の事件簿 FIRST・CONTACT」 12

第4章 第1話 本当の狙い? PARTⅠ

 今日は早く起きて大学へ向かった。キャンパスに入ると学生というよりは白衣を着ているので大学院生か研究者ばかりで、昨日を引きずるかのように淋しさが蘇った。しかし、伊藤さんと顔を合わせると一変するのが不思議であった。

「伊藤さん、おはよう」

「先生、おはようございます。今日のご予定は10時に橘さんがお越しになられるだけです」

「では、早速だけどホワイトボードを出してきてくれるかな。書き入れてほしいので」

 はいと言って、奥の物置のドアを開け、ホワイトボードを引っ張り出してくれた。「何を追加すればよろしいでしょうか。」と聞かれたので、牧野弁護士の事務所へ行った時の謎を伝え、⑧⑨⑩をボードに書いてもらった。

 ①遺言者(二朗さん)と受遺者(琢磨さん)は仲が悪い
 ②受遺者と一切関わりがない公正証書遺言
 ③受遺者の関係者とも関わりのない公正証書遺言
 ④自筆証書遺言の存在
 ⑤自筆証書遺言と公正証書遺言との相違
 ⑥完璧な公正証書遺言
 ⑦公正証書は一人で作ったのか
 ⑧不動産への投資にしては、中途半端な金額。
 ⑨その程度の投資しかしない物件にこれほど怪しげな行動をとるのか。
 ⑩牧野弁護士はZODIAC SIGN(ゾディアック サイン)建設の顧 
  問ではないだろう。

 どれも解決には至らない問題ばかりだな。ボードを見ながら立ちつくすだけの自分が歯がゆかった。

 そうこうするうち「先生、おはようございます」という結衣さんの声がドア越しから聞こえた。ドアが開くといつもの人が顔を出す。

「橘さんおはようございます。お忙しいところお呼びだてして申し訳ありません。しかし、何故あなたが」

 少し身体を折り曲げながら佐々木刑事が話す。
「いや、結衣から先生に呼ばれたって聞いたので、居ても立ってもいられず付いて来てしまいました」

「まだ、事件にもなっていないのですから、刑事さんが頻繁に出入りするのはよろしくないのではないですか」

「刑事の場合、結構外回りの仕事がありまして。平気、平気。ところで、結衣から聞いたんですが、先生は弁護士の資格も持っているとか。ビックリしました。伊藤さんは当然知っていたんですね」

「知りませんでした」と、少し怒り気味に返答していた。

 佐々木刑事は、何かを踏んでしまったと感じたらしく、私に助けを求めるようにアイコンタクトしてきたが、関わるべきではないと思い、知らないふりをした。しかし、気まずい雰囲気が解消しない様子なので、話を逸らす言葉を投げた。

「よっぽど暇ですね。まあ警察が暇なのは世間一般からはいいことかも知れませんから、良しとしましょうか」

 伊藤さんは態度には出さないが、起こっているのは肌で感じていた。しかし、そこは伊藤さん。何事もないかのようにお茶を入れるために、キャビネットへ歩いて行った。

 二人はソフアに腰掛け、結衣さんから、先生こちらが裁判所の受付書類ですと、昨日提出した仮処分の受領証が入った封筒をカバンから取り出して渡してくれた。

 封筒から書類を出して、中身を確認しながら労(ねぎら)いの言葉を掛ける。
「戸惑ったことでしょう。ありがとうございました」

「チョット緊張しましたけど、初めての体験なので楽しかったです」

「腹が座っておられますね。ははははー!」

 結衣さんが前のめりになり、質問してくる。
「先生、何か進展はございましたでしょうか」

「まだ、少ししか真相に近づいてはいませんが、かなりの収穫を得ました」

 その会話に佐々木刑事が口を挟む。
「どんな収穫ですか」

「二点あります。一つ目は、二朗さんの死亡には不可解な点があるということです」

「殺しですか。誰が犯人ですか」

「まだ、殺しかどうかは分かりません、不可解とだけ。もう一つは、会社の経営権だけが目的ではないのではないかということです」

「どういうことですか」

「会社が保有する財産が目的だということが分かりました。それが山らしいということまでは突き止めました」

「山ですか。まさか、徳川埋蔵金とか旧陸軍の財宝とかいうやつですか」

「いや、そんな都市伝説のようなものではないと思います」

「では、誰かの脱税したお金が埋めてあるとか」

「いや、それほどの大金ならばどこかの倉庫を借りればいいし、埋めるとなると劣化しますから」

「それもそうですね」

「そこで、何かヒントがないかと橘さんに探していただいたのですが」

 それに呼応するかのように結衣さんが話し出す。
「伊藤さんからお聞きし、お爺さんの私物を探しに箱根の別荘へ行ってきました」

「何か見つかりましたか」

「はい。そこはお爺さん専用の別荘で、亡くなってからは父や叔父さんたちが命日に集合するだけでした。だから叔父さんたちのものは一切ないはずなのに、地下の倉庫に『二朗』と書いた段ボール箱が一つだけありました」

「それをお持ちいただけましたか」

「はい。車のトランクにあります」

「すぐに見せてください」

 結衣さんは、急いで車に向かい、佐々木刑事も一緒に取りに行った。しばらくしてノックしてから入ってくる。
 それほどたいした大きさではなく、抱えていたのは小さな段ボール箱一つだけであった。

「先生、こちらです」

 結衣さんが、中から出した物はハンカチに包まれた何かの原石であった。

 覗き込んだ佐々木刑事が、ダイヤモンドかと聞いてきた。

「ダイヤモンドの原石は、イタリアで見たことがありますが全く違います。この色あいから考えるとサファイアのような」

 佐々木刑事と伊藤さんが「ええっ!」と、同時に声を出した。

「まさかとは思いますが、これが原因なのかもしれませんね」

 頭が疑問だらけの佐々木刑事が、日本でサファイアが取れるのかと、再度聞いてきた。

「日本ではマグマの堆積の深さからダイヤモンドはできませんが、その次に固い宝石のサファイアは産出されることがあると聞きます。しかし、かなり小さなもので資産を投じて回収できる程の旨味はないはずです」

「でも、これはかなり大きいですよね」

「確かに。この原石が産出されるのであれば、すごい価値があると思います」

「やっぱり、これが目当てじゃないんですか」

 私は、佐々木刑事の疑問に答えることができなかった。

「他に地図のような物は入っていなかったんでしょうか」

「これだけです」と、結衣さんが答える。

「そうですか」

「ところで、奈良の土地は十ヘクタールはあると聞いておりますので、地図が無ければ見つけることは困難かと」

「十ヘクタールもあれば無理でしょうね。闇雲に掘って出る保証はありませんから」

「十ヘクタールってどれぐらいの広さですか」と、佐々木刑事が尋ねる。

「そうですね、東京ドームが約4.7ヘクタールだから、約2個分ぐらいでしょうか」

「そりゃ大変な大きさだ。もしかすると、地図はあったけれど誰かが持ち去ったのかもしれませんね。やっぱり、琢磨さんでしょうか」

「それは分かりません。それにもう少し調べないと本丸にはまだ行けませんから」

「本丸って、時代劇に出てくるお城のことですか」

 伊藤さんは、この中では自分だけが知っていると言うように、少し目線を上に向けて説明を始める。
「先生はこのような難題に当たるとよく戦国時代の城攻めに例えられます。ご先祖は武家の出だってよく話されています」

 よく話されますは余計だよと、心の中で呟いた。

「そうですか。攻めるには理解しやすそうですね」

「橘さんに伺いたいのですが、ZODIAC SIGN(ゾディアック サイン)建設の名子専務をご存じですか」

「組合のパーティーや代議士のパーティーなどで、何度かお会いしたことはございます」

「どんな方ですか」

「気さくな方ですよ。ただ、ご挨拶程度なので詳しくは存じ上げません。ただ、名子さんであれば、私よりも叔母の明子さんの方がよく知っていると思います」

「それはどうしてですか」

「もうかなり前ですけれど、琢磨叔父さんは専務の時代から女癖が悪く、あるパーティーでコンパニオンと一緒に消えたことがありました。その時、泣いている叔母を慰めていた人が名子さんでした」

「なるほど」

「それ以来、琢磨叔父さんの件でご相談していたと聞いております」

「そうですか。すると、かなり長いお付き合いですね」

「何故、名子さんのことをお聞きになるのですか」

「牧野弁護士と話した際に名子さんの名前が出てきたので、どのような方かを知りたかったものですから」

 それを聞いた佐々木刑事が、小躍りするかのように、体を早乙女に向けながら、話しに入ってくる。
「あの超一流のZODIAC SIGN建設が黒幕ですか」

「まだ、そこまではわかりません。一つ言えることは、専務の名子さんが何かしらに関与されていることは間違いないと思われます」

「何か面白くなってきましたね」

 すると、伊藤さんが注意するかのような目線を送っていた。


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