「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖 第二十話
第十章 混沌
令和4年4月18日(月曜日)午前6時
自宅から早乙女教授室へ
午前六時、百合が朝ご飯の支度に取り掛かろうとしていた。
「百合おはよう。申し訳ない、私の朝ご飯は作らなくていいぞ。早く大学に行きたいので途中でパンでも買って食べるから。」
「コーヒーだけでも飲んでいかない。」
「いや、もう行くから。戸締りはしっかりとな。じゃ、行ってきます。」
門まで出てきていってらっしゃいと言われ、前を向いたまま右手をあげて手を振った。
これもあと何回あるかなと思い、うつむき加減に口元が緩んでいた。
大学に着くと正門はまだ開いていなかったので通用門から入ろうとした。
すると、昨日桜の花びらの掃除をしていた方が立っていた。彼の本職は守衛さんだったのかと思った。
この大学に勤めて何年にもなるし、学生で通っていた年月を考えれば、今頃気がつくとは本当に変わり者と思った。
おはようございますと挨拶したら、おはようございます、教授も早い登校ですねと言われた。私もと言うことはもう誰か登校しているのですかと聞くと、助手の方が既に来られていると言った。
ありがとうと言って教授室へ急いだ。ドアを開けると倉庫からホワイトボードも私の机の後ろに出されていた。
「伊藤さん、ありがとう。今日はすごく早く来てくれているんだね。いつもじゃないよね。」
「いつもは八時前ぐらいです。今日は昨日の教授の様子から早く来て何かの作業をされるのではないかと思いました。それで教授より先に来て掃除をしておこうと思ったものですから。」
「ありがとう。昨日ロダンになりかけたのは、まだ、はっきりとした疑問ではないけれど一応書き込んでくれるかな。」
分かりましたと言い、後ろに来てマーカーを持ちながら待っていた。
私は椅子を回転させ、
⑯津野神さんは直接的でなくとも少なからず関係があると思う。
と書いてもらった。
書き終えた伊藤さんは、
「やはり津野神さんですか。」
そう言うとロダンになりかけておられたのは、津野神さんとの会話の中でしたねと言われ、その通りだよと話した。
そして続けた。
「最近都庁に関する取材をされませんでしたかと聞いたのに(都庁に勤めていた人とお会いしたことはありません。)と退職した人を対象にしていたのと(この二週間ほどは秋山さんと一緒にグルメの取材で走り回っています)と先に限定した期間を話されていた。」
「教授のおっしゃる通りです。何か先読みしていたように感じました。」
「それだ。昨日ずうっと引っかかっていたものが先読みだ。彼女の言葉には先読みしてしまった意識が無意識に出てしまったみたいだ。」
「少しヒントになったのですか。」
「いや、ヒントどころか回答だよ。」
「これで彼女の立ち位置が分かったような気がする。」
そのあと津野神さんの取材は今年だから、名刺は私のところだったと言いながら回転式の名刺ホルダーのタ行を開き、津野神さんの名刺をファイルごと抜いた。そしてそのまま封筒に入れた。
伊藤さんが津野さんの名刺がどうかしたのですかと聞いてきたので、これが別の意味での証拠になるかもしれませんと話した。
ところで、佐々木刑事に電話して至急来てもらえないかを聞いて欲しいと頼んだ。伊藤さんはこんなに早くですかとビックリしているようだった。そしてすぐに連絡を取ってくれたが、返事をするまもなく切れて繋がらなくなったと言った。分かりましたとは言っておられたと言うことなので、早くには来るだろうと思い、待ちましょうと言うことになった。
三十分もしない間に、コンコンとドアを叩き佐々木ですと言って入ってきた。
「教授おはようございます。伊藤さんに言われて飛んで来ました。」
伊藤さんが、
「本当に飛んできた感じですね。」
「いやー、本当は本庁へ行く途中に電話を貰ったのでこちらに直行しました。こんなに早く電話があると言うことは何かあったはずだと思いましたので。」
「ええ、ありましたけれど、本庁にはいいのですか。」
「大丈夫です。水野係長には教授に急ぎで呼ばれましたと言ったら、そっちを優先するようにとのことでした。」
ありがとうございますと言ったあと、佐々木刑事に先程の封筒を渡した。そしてこの中にある名刺の指紋を調べて欲しいと頼んだ。
佐々木刑事は封筒を少し開けて中を覗き込んだあと、この名刺を調べる理由を聞かれたので、多分私の指紋しかないと思いますと話した。
すると、この人が犯人ですかと聞くので、それはこれからの捜査によると思いますが、取り敢えず鑑識に頼んでくださいと言った。
今度はこの津野神さんと言うフリーライターとはどんな関係ですかと聞かれた。
彼女は雑誌考都から取材に来られた記者さんで、昨日会って話を聞いたところ、ダムでの死体遺棄や崖の死体遺棄などの日にはアリバイがあると話した。
しかし、何かしらの関連はあると思うとは付け加えた。
「もしかすると、今回の黒幕という立ち位置でしょうか。」
「それも捜査会議で方針を決めていただければと思います。今日の捜査会議には参加させて頂いても宜しいでしょうか。」
「もちの、ロンです。」
伊藤さんが、
「佐々木さん、加藤刑事と付き合ってから可愛らしくなりましたね。」
「はあ、その表現おかしくないですか。何か彼女みたいじゃないですか。教授と伊藤さんじゃあるまいし。」
二人とも互いを牽制して、バチバチな様子に見えた。ここは立ち入らない方がいいと思い。
「それはさておき。」
「教授、それはさておきじゃなくて何とか言って下さい。誤解されます。」
違う意味の地雷を踏んでしまった。おどおどしながら否定のような誤魔化しのような会話で何とか話を元に戻した。
「取り敢えず、津野神さんは解決への手がかりだとは思います。しかし、関与しているかは判断材料が少ないので、今後の捜査しだいだと言うことでお願いします。ところで、今日も会議は5時ですか。」
「いいえ、いつもより一時間遅くて6時になっていますので、5時過ぎにお迎えにあがろうと思います。伊藤さん、帰りが遅くなりますが宜しくお願いします。まあ、教授に送っていただければと思います。今回の事件の経費は全て本庁持ちですから。」
「大丈夫です。詳しくは言っておりませんが、捜査協力が続いている間は帰宅時間が遅くなることがあると言っております。いざとなれば父が迎えに行くと言ってくれておりますので。」
佐々木刑事は、そうですかご苦労をおかけ致しますと言い、取り急ぎ指紋の鑑定をしてもらいますと言って部屋を出て行った。
少し気まずさが残っていたが素知らぬ顔で今日の授業の話をした。
1時間目の後は4時間目までないので、少し出かけますと言った。どちらへお出かけですか調査ですかと聞かれたが、ちょっと私用ですと言うと、百合さんの件ですねと言われたので、まあそんなところですと少し誤魔化した。嘘ではないが車を買うようにと言われた件とは言えなかった。
