「ロダン早乙女の事件簿 FIRST・CONTACT」 23
第6章 第4話 解・・?
部屋のドアを閉めるなり伊藤さんが、怒りをあらわにする。
「先生、何ですか、あの方は! あれだから会社を潰しかけるんです」
えらい怒りようだなあ。手の震えが収まらないようだ。
私はそっと手を握り締めて「ごめんなさい」と優しく囁いた。
「何故、先生が謝られるのですか」
「私がこの仕事を受けなければ、伊藤さんにこのような不愉快な思いをさせていないと思うから」
伊藤さんは、それよりもと言いながら顔をこちらに向けて質問を投げてきた。
「先程、ロダンになられた際にも聞きましたが、何か判明いたしましたか」
「うん。しかし、必要な証拠が一つ残っているんだ」
ここで、伊藤さんのお腹がグーと鳴った。すごく恥ずかしそうであったので聞こえないふりをして、朝から何も食べていないのでおなかが空かないかと尋ねた。
ほっとしたような顔であった。
「お腹が空いていたら頭も回らないから、取り敢えず出前を取りましょう」
「はい、分かりました」と返事を受けると、私は、ピザ屋に電話して出前を頼んだ。
守衛室には、ピザの出前を届いたら連絡をくれるようにと頼み、到着後取りに行くことを伝えた。
しばらくして、守衛室に出前が届いたので受けとりに二人で行った。途中、ピザを食べるのは久しぶりだと話し、恋人とどのような所に行くのかと聞くと、それってセクハラですよと言った後「今は恋愛は考えられないです」と、笑顔が返って来た。
二人ともお腹が空いていたのか無言でたいらげた。その後、伊藤さんに頼みごとをする。
「食事が終わって直ぐに申し訳がないんだけれど、結衣さんに電話してほしいんです」
「どのような内容でしょうか」
「琢磨さんに聞かれたくないので、仕事が終わったら私の携帯に電話が欲しいと伝えて下さい」
「分かりました」
午後五時十分
結衣さんから、着信がある。
(先生、結衣でございます。伊藤さんからお電話をいただきたいと)
「ええ、そうです。琢磨さんには変な勘繰りをされても困るので伊藤さんに頼みました。でも、こんな時間で大丈夫ですか。仕事が終わってからでいいですよ」
(大丈夫です。先生がおっしゃっていたように、仮処分が認められるまでは、まだ私は平社員ですので、定時の5時上がりです。今は自分の車から掛けております)
「そうですか。それでは早速ですが、まず、公正証書遺言の無効は勝ち取れると思うのですが、それにはかなりの月日を要すると思います。ですから、早期に解決するためには、他にもう一つ証拠が必要です」
(証拠といいますと)
「そうですね。二朗さんに係るものなんですが、何かありませんか」
(分かりました。私なりに、考えてみて、思いついたらお電話させて頂きます)
「宜しくお願いします」と言い、静かに受話器を置いた。
「先生、結衣さんに探せるのですか」
「大丈夫。明日には結衣さんからの朗報、いや・・・」
「『朗報、いや・・・』とは?」と、伊藤さんが尋ねる。
私は、明日、期待する電話がきっと掛かって来るからと返答した。そして、琢磨さんのことはホワイトボードに書く必要はないと告げた。
翌日 午前7時
次の日の朝、寝室で着替えていると携帯がなった。結衣さんからだ。まだ、午前七時である。すると、いきなり大きな声で話し掛けてくる。
(先生。見つかりました!)
携帯の向こうでは、はしゃいでいるようだ。
「どうしたんですか、こんなに早く」
(すみません。早いと思ったのすが、いてもたってもいられなかったのです)
「いえ、構いませんよ。もう起きていました」
(昨日からずうっとビデオを見ていて、朝方、やっと見つけました。もう、いてもたってもいられませんでした)と、はしゃぎすぎている感がある。
「どういうことですか」
(昨日、先生から、二朗叔父さんに関して何かないですかと質問があった後に思い出しました。二朗叔父さんが寝たきりになってから、みんなには内緒で見守りのカメラをつけていました)
「もしかすると、そこに何か映っていたんですか」
(はい。そうでございます)
「何が映っていたんですか」
(明子叔母さんが・・・)
「明子さんがどうかしたんですか」
(ずうっと上半身を激しく揺り動かしていました)
「起こしていたのではないんですか」
(すごい勢いで揺すっていました。それに、この時は完全に寝たきりでした。食事もチューブから胃に直接送っていましたので、起こすということはありません。食事も朝夕は私が、お昼はお手伝いさんがしておりました。明子さんに頼むことはありません)
「では、何をしていたのかなあ」
(そのあとを見ると、叔父さんの様子がおかしくなって、急変したようでした。そして、叔母が激しく心臓マッサージらしきことをしているのですが、右手が不自然で)
「どのあたりが不自然でしたか」
(普通、心臓マッサージは両手を合わせて押さえるものなのに、右手が肩のあたりを触っていました)
「それは、不自然ですね。もしも、今日お手すきであれば、大学までそのビデオを持って来ていただくことは可能ですか」
(何とか理由をつけて早退して、午後一時半頃にはお持ち致します)
午前九時 准教授室
「おはよう、伊藤さん」
「先生、おはようございます!」
「今日、午後一時半に結衣さんが来ますので、午後三時ぐらいまでは、予定を入れないで下さい。お願いします」
「はい、承知致しました。今日は、どのようなご用件でお越しになられるのですか」
「昨日、話していた件だけど、新しい事実が判明したらしいよ」
「どういうものですか」
「私もまだ、電話で聞いただけだから、はっきりとは分からないが、証拠ビデオがあったらしい」
「先生がおっしゃっていた通りになりました」
それを聞いた私は、黙って頷いた。
早めのお昼を済ませた後、時計は午後1時半になった。ドアをノックし結衣さんがやって来る。
「結衣でございます」と、扉の向こうから聞こえたので、伊藤さんがドアを開けに行く。
「こんにちは、さあ、お入り下さ・・・」と、言葉が止まった。
「伊藤さん、どうしたの」と尋ねると、ドア越しに顔だけ出して、佐々木刑事が覗いていた。
「私もついて来ちゃいました。朝早く、結衣から電話をもらって、すごい発見があったので午後に先生の大学まで来て欲しいと言われたので待ち合わせて来ました」
伊藤さんが、強烈なツッコミを入れる。
「どういう展開になっても、始末書は確定ですね」
「いつもながらに伊藤さんはきっついなあ」
「私は事実を言っただけでございます」
私は間(あいだ)に入り、伊藤さんを宥めながら、結衣さん達に座ってもらった。
「それでは、早速ですがビデオを見てみましょう」
結衣さんがハンドバッグからUSBを取り出して私に渡した。私は、自分の机からパソコンを持って来てUSBを差し込む。
みんなが私の後ろにやって来て画面に目を凝らした。結衣さんが、そこから1時間ぐらい先と言ったのでマウスで進めた。
そこに映っていたのは、まさしく奇妙な動作をする明子さんがいた。そして、伊藤さんに、結衣さんから預かった行政解剖所見のコピーを持って来てくれるように頼んだ
伊藤さんから受け取った私は、みんなの前でロダンとなった。誰もが、次の私の発言に耳を傾けた。
私は、佐々木刑事い出番が来たことを告げた。
「えっ、どういうことですか」と、佐々木刑事が目を白黒させていた。
「この行政解剖の所見によると、二朗さんは大量の汗をかいています。明子さんは、二朗さんの身体を長い間ゆすることにより、心臓に極度の負荷を加えた為に心不全を起こしたと思われます。そして、この右手の位置です。これは肩を触っているのではなく、頸動脈を触っているのではないでしょうか。多分、心不全が起こったあと、決定的な一撃として頸動脈を塞いだのかもしれません」
「そんなことが可能なんですか」
「お年寄りでも自分で生活できる方であれば、どうということはないでしょう。しかし、寝たきりの方にとってはかなりの負荷になります。この手際のよさから、何度も試されていたのではないでしょうか。もしも、殺人罪に問えなくとも過失致死には問えるでしょう」
佐々木刑事が、疑問を呈する。
「先生、隠しカメラだから、証拠能力がないのではないでしょうか」
「結衣さんは二朗さんと一緒に暮らしています。そして、生活全般の面倒も見ているのですから、見守りのカメラはOKです。明子さんは同居人ではないのだから知らせる必要もありません。多分この証拠を見せれば白状されると思います」
「先生がそのように言われるのであれば大丈夫ですね。それではOKということで署に戻ります」
「ちょっとだけ待ってください」
「なぜですか」
「できれば、自首を勧めたいので、今日一日だけ待って欲しいんですが」
「一度は、普通の心臓発作だったわけですからね。書類を作成する時間は要りますので、明日の夕方まで待ちます」
「ありがとうございます」
「先生、明子さんにはどのように言えば」と、結衣さんが尋ねる。
「できれば、結衣さんはあまり出ない方がいいかもしれません。二朗さん死亡の件で、私が訪問するとだけ伝えてください。詳細は私からという風に話してください」
「伊藤さん、二人が返った後に、本日夕方6時に自宅にお伺いすると伝えてください」
「わかりました」
部屋を出ようとする二人の後ろ姿が悲しげに見えた。
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