「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖 第十一話
第五章 重なる謎
令和4年4月15日(金曜日)午前8時半
帝央大学早乙女教授室
「伊藤さん、おはよう。」
「教授、おはようございます。昨日は突然お伺いしてすみませんでした。」
「こちらこそ、百合は自由奔放でガサツなものだから、びっくりされたでしょう。」
「いいえ。仲の良いご兄妹と思いました。車の中で、百合さんと葵さんのお話を聞かせて頂きました。教授がおられなかったら、とっくに駆け落ちしていたか、別れていたって話されていました。」
「それは、大袈裟だよ。ああ見えて、あの二人の思いはかなり強いようだ。それに、光一君も粘り強い性格だから、必ず父を説得すると思うよ。」
「昨日の妹さん達とのおしゃべりで、教授の人柄をまた一つ知った気がいたします。お越しいただいた時の母が抱いた印象そのままでした。」
「どんな印象だったの。」
「内緒です。」とすごく楽しそうに笑っていた。
1時限目の10分前になり、講義室へ向かった。今日は、中講義室なので、別棟の3階だった。階段を上がって行くと2階と3階の踊り場で昨日の学生にあった。
教授と答え合わせがしたいのですが、今日の夕方お時間ありませんか。と言ってきた。
しかし、今日は警視庁へ行く約束があるので所用があると言って断った。また、他の学生との兼ね合いから個人的に答え合わせをすることは控えたいとも話した。
すると、そうですかと言ったが、そのあと、小声で後悔するぞと言っていたような気がした。
授業が終わり教授室に帰ってきた私は、先ほどの学生との問答を伊藤さんに伝えた。
すると、伊藤さんが、私の授業を受けている学生から聞いたそうだが、最近、学内でおかしな噂を流している人がいるとのことだった。
それは、早乙女教授の講義には偏見があって根拠に乏しい。つまり自分の正当性のみを主張した講義だというのだ。
これは、一人の学生が、キャンパスのあちらこちらで話しているらしい。それを言われた学生が、そんなことはないと言ってくれたそうだが、聞く耳を持たないという感じで一方的に話すだけとのことだった。
不思議に思い、他の学生達にも聞くと、年齢では言えないかもしれないけれど到底新入生には見えないと。
それに、その人を知る人が誰もいないらしいことを考えると、当校の学生ではないのではないかと言うことだった。
「もしかすると、先ほど、質問してきた篠山唯彦という学生がその人なのかもしれないなあ。」
「教授、用心して下さい。変に偏った考えの人は常軌を逸する場合があり
ますから。」
「うん分かった。気をつけます。また質問等をしてきたら何学部の何年生かを聞くようにする。」と話した。
この時、恐怖というよりも、これから起こるかもしれない事件、つまり、今日の捜査会議にのぼる今回の第二の殺人、そして、第三・第四と続くかもしれない殺人への可能性に対する不安の方が先に立っていた。
午後4時
佐々木刑事が迎えに来た。司法解剖の結果はギリギリ会議に間に合うぐらいなので、その時にとのことであった。
ところで、加藤刑事はどうされたのですかと聞くと、先に今日の聞き込みを係長へ報告に行ったとのことであった。
車に乗ってすぐにその報告を聞きたかったが、第二の事件の詳細を先に尋ねた。
報告されている範囲にはなりますが、と言われ、死体は冷凍保存されていたようだ。内臓が冷凍状態であったので今日までかかったとのことであった。
死因は凍死とのこと。そして手足が縛られ、身動きができない状態であったらしい。また、手足や鼻などの出っ張っている場所が凍傷にかかっており、生きたまま長時間の冷凍状態が続いていたとのことであった。
なんという殺し方だと思った。少し、復讐めいた要素があるように感じた。
凍傷にかかっていると言うことは、家庭用の大きな冷凍庫だろうと話した。分かっているのはここまでで、詳細は会議でとのことであった。
そのあと、今日の聞き込みの収穫をきいた。
佐々木刑事は、車を脇に止めて、カバンから一枚の地図と一緒に、詳細として説明文が書かれた紙を渡してくれた。A3サイズの大きな地図だ。
車が動き出し、話し始めた、
「教授、今日の聞き込みについて、防犯カメラの件と不審車両の情報をその地図に書き込んでいます。青丸がネットワーク式で赤丸がアナログ式です。バツはカメラがありませんでした。
そして不審車両に関しては、地図に詳細まで書き込めないので概略だけを書き込んだものを二枚目にまとめて書いています。」
ありがとうございますと言い、読みながら、ロダンになった。
二人とも静かに待っていた。
ロダンが溶けたあと聞き込みの成果を聞いた。今日一日で西部分と北部分のほぼ全域の聞き込みをされたということであった。そして疑問になったのは真向かいの家だ。
それは、被害者の家の接面道路では、真向かいだけがアナログ式であったからだ。反対側は背中合わせの家があり、裏手からは連れて行くことはできないので、この時点で私の推理が破綻していると話した。
真向いの住人の話では、不審車両も見かけていないと話したとのことだ。
また、録画を見せてもらったらしいが、事件の前の日から長い間止まっている車はなかったとのことだ。
伊藤さんが、
「教授、いったいこれはどういうことでしょうか。」
伊藤さんと同じように、いったいどういうことだろうと声が出てしまい、顔を見合わせた。
一応USBに保存してきたとのことだったので、あとでコピーをいただく約束をした。
やがて車は警視庁に着いた。いつものように身体検査をしたあと10階の会議室の前に着いた。さっそく、戒名がもう一枚追加されていた。
奥多摩連続殺人死体遺棄事件と。伊藤さんも気が付き、教授、事件名が一つ追加されていますと言った。
続々と集合してきた。みんなの顔が緊張に包まれており、私語をする人もいなかった。思いもよらない第二の事件が発生したのだから当然と言えば当然である。
時間になり上席が入ってきた。水野係長の号令で礼をして始まった。
