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「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖    第十二話

 水野係長が、
「みんなも知ってのとおり、昨日早朝に島尾班がご遺体を発見した。身元は未だ判明していない。この件につき、四班は身元の洗い出しにまわってもらいたい。」了解しましたと三枝刑事が言った。

 続いて、水野係長は、島尾班長に報告を求めた。

 島尾刑事が立ち上がり、
「一班島尾です。一昨日午後9時頃の聞き込みで、奥青梅ダム手前2キロぐらいにマネキンが捨ててあるとのことでした。気になり、一応、昨日8時50分西青梅署を出たあと、ゆっくり走っていると、ダムの2キロ手前に人形のようなものを発見しました。

 近づいて見てみると、上半身は裸、下半身は白タイツを履いた男性の遺体でした。しかし、近くまで来れば人であることが分かり、到底マネキンには見えませんでした。
 再度聞き込み対象者に聞くと、蝋人形のように見えていたらしいと話しました。以上です。」

 そのあと、水野係長が、死体検案書に関し、長内検視官からの報告を求めた。
「長内です。本日発見されたご遺体に関する解剖報告書の件を説明します。手元にはその写しがあります。

 では、前のテレビ画面を見てください。これは手元の1ページ目中央右寄りの説明文からの拡大版です。死因は、凍死です。」

 一斉にどよめきが起こった。みなさん同じ光景がよぎったのでしょう。生きたまま冷凍されたと。

「そして、鼻・耳・手指・足指などの先端部分及び顔の一部は凍傷にかかっておりました。つまり、時間をかけて凍死させたものと判断されます。
 死亡推定時刻は、凍傷になっていることから、凍死するまでの時間は、胃の内容物の消化具合から二、三日は経っているとのことです。

 また、冷凍されていたことから、いつ頃に死亡したかは現状では解明できないとのことです。
 よって、いつ誘拐されたかは現状ではわかりません。今後、被害者の身元が判明すれば誘拐された日も死亡日時も分かってくると思います。」

 右に座っていた刑事さん達が、
「鬼畜としか言いようがない。こんな殺し方は尋常な人間にはできない。」と話していた。

 心の中で、その通りと思った。

「次に、今回のご遺体と奥青梅ダムでのご遺体に関し似ている所見が二つあります。

 一つ目は、早乙女教授の名刺がラミネートされ、右足土踏まずの中に埋め込まれていました。その名刺には、神崎さんの時と同じく早乙女教授の指紋しかありませんでした。
 二つ目は、スタンガンで身体を麻痺させたあと誘拐したものと思われます。ただ、今回は、そのスタンガンですが、二つの擦過傷に太い穴がありました。

 神崎さんの時のような注射針の跡ではなく、また心臓に注射針の跡もありませんでした。当然、血液の注入もありません。これは私の推測ですが、穴の大きさからテーザーガンではないかと考えております。」

 周りでザワザワと話し声がした。

 伊藤さんが、
「なぜ騒がしくなったのですか。」と聞いたので、

「テーザーガンは普通のピストルと同じで銃刀法等取締法に違反し、輸入もできないはず。」と話した。

「アメリカの警察官が使っているのをニュースで見たことがありますが。」と言ったので、

「アメリカは銃社会なので、犯人が撃たれることが多いのは知っていると思います。だから、戦闘能力を削げば、撃つ必要性が少なくなり、死亡も減少することから、電気ショックで逮捕することが推奨されています。

 しかし、死亡した人がいるということと、火薬を使って発射すると聞いているので、日本ではまだ認められないのかもしれない。」と話した。

 水野係長が、
「本日より、六班として叶班、七班として多々良班を召集した。まず、叶班はテーザーガンの出どころを当たってもらう。多々良班は、島尾班の応援として合同でダム周辺の捜査に合流してもらう。」

 左真ん中に座っていた十人ほどが立ち上がり、挨拶をしたあと座った。

 水野係長が、何か質問はあるかと言われたので手を上げた。

 早乙女教授、どうぞと言われ、
「新しいご遺体は、幾つぐらいの方かはお分かりでしょうか。」

 長内検視官が、
「これは推定なので、記憶にとどめるだけにしていただきたいのですが、筋肉と骨密度から70歳は超えているのではないかと判断しております。これは個人差がありますので参考程度でお願い致します。
 ただ、歯形などから調べていますので、判明次第四班から報告してもらいます。」

 確かに個人差はあるが、かなり高めの年齢ということだろう。
 次に、島尾刑事にご遺体はどのような引っかかり方をしていましたかと尋ねた。
 
「ご遺体は写真のとおり崖から伸びた木の下部分に折り曲げた状態でした。」と言い、前へ出てホワイトボードに簡単な絵を描いた。

「進行方向をダムとして、右側が山の絶壁で、左側が崖になっており、左への急カーブに差し掛かる手前で正面の崖に見えました。」

「生えている木はどれぐらいの大きさで、回りはうっそうと茂っていましたか。」と聞いた。

 すると、引っかかっていた木は、わりと太い木で、直径50センチは超えていたのではないか思います。そして、この木の回りは草が生えているだけで、一本だけ生えていましたとのこと。

 ロダンになった。

 水野係長が、他にはないかと聞いたが手が上がらなかったため、今日の会議は終わった。

 佐々木刑事に、今日はこのまま帰りますと伝え、疲れているとは思いますが、できれば明日には南側と東側のエリアの聞き込みをお願いしたいと話し、伊藤さんと警視庁を出た。
 
 警視庁を出た途端、伊藤さんが、
「教授、先程ロダンになられていましたが、何か分かりましたか。」

「うん。二人目の犠牲者の方は、引っかかったのではなく引っ掛けたのでしょう。そして神崎さんと同じ日に遺棄したと思います。たぶん冷凍されていたので一日遅れで発見されたのかもしれません。」

「では、その木に遺棄したということですか。」

「そうだろうね。というのも、左カーブの崖側に引っ掛ければ、早々に遺体が発見されるはずだから。第一の遺体が死後すぐに発見されたことを考えれば、そのように判断ができる。」

「教授の名刺を埋め込んでいたことから、今回も早く発見して欲しくて遺棄したようですね。」

「解決に向けて早く動き出す必要があるのに、まだ城攻めの準備が整わないのが現状だ。」

「教授、自分を責めないで下さい。明日は、その疑問をボードに書き入れておきます。」

 ありがとうと言って、タクシーを拾い伊藤さんの家へ送って行った。今日は、玄関先でご挨拶をしてそのまま帰った。

 家の明かりが付いていたので、玄関でただいまと声をかけた。

「お兄ちゃん、お帰り。」

「今日は、晩ご飯食べるよね。」

「ああ、いただくよ。」

 私は、二階で着替えたあと食卓についた。並べられた料理の中で味噌汁を飲んだ。母親の味がした。知らないうちに母親に似て来たような気がした。

 そんな気分に浸っていると、百合が、お願いがあると言い出した。
「お兄ちゃん。新学期も始まったし、忙しいのは重々承知しているけれど、お願いがあります。」

「改まってどうした。」

「明日の土曜日、光一がご両親と一緒にうち家に来るの。お父さんは出かけるって言ったけれど、お母さんがあちらのご両親がお越しになるのに非常識でしょって言ってくれたの。会うことにはなったけれど、その場にお兄ちゃんもいて欲しい。いいかなあ。」

「それは、構わないが急にどうした。」

「私も来年30歳になるでしょ。色々な意味で結婚を早く決めたいと思って。あちらのご両親もこれ以上長引かせたくないと仰ってくれていて。お母さんは知っているからお兄ちゃんにも話すけど、もしも、今回許してもらえなくても結婚するつもりなの。」

「そうか。そうだな。光一君とは芸大を卒業してすぐだから七年ぐらいか。分かった。それで、土曜日の何時だ。」

「お昼の12時。お父さんが午前中は仕事らしいの。」

 了解だといい、私も午前中仕事だから少し遅れ気味に行くと言った。
 心の中で、百合ももう30歳になるのかと思った。

 じゃあなと言って、二階へ上がった。


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