「ロダン早乙女の事件簿 FIRST・CONTACT」 14
第4章 第3話 財宝?
(ピンポーン)
十時の約束なのに、かなり早いな。まだ9時半だ。
インターフォンを見ると、伊藤さんが立っていた。
「伊藤さん。まさか、伊藤さんも行くつもり」
(おはようございます。当然でございます)
「結衣さんに了解を取っていないし」
(先生はロダンになったら無防備ですから)
「殺し屋と対峙するわけではないので」
(そんなことより、早く開けていただけませんでしょうか。凄く寒いです)
「ああ、ごめん」と言った後、玄関を開けて、彼女を迎え入れた。
「今日は休みだし、大学から出勤手当は出ないよ」
「分かっております。奈良へも自腹で参ります。このまま延々と先生の帰りをお待ちすることなんてできませんから」
「しかし・・・」
「先生がなんと言われようと同行いたします」
「分かったよ。ただし、旅費は全額私が出します。ホテル代も食事代もその他の出費全てしかりだ」
「いいえ、それはいけません。私が勝手に付いて行くのですから」
「いや、私も伊藤さんにいてもらった方が心強いから。もしも、費用を拒むのならば同行はなしだよ」
「分かりました。ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」
しばらくすると、玄関先に車が止まった。インターフォンが鳴ったのでスイッチを押すと、画面に男性が写っていた。どちら様かと尋ねると、結衣さんの運転手さんとのこと。
ドアを開けると高級車から結衣さんが降りて来た。そして、私たちを見るなり、呟いた。
「ああ、やっぱりお二人はそういうご関係でしたか」
多分、朝から二人で出てきたものだから、完全に勘違いされたのだろう、私は慌てて否定した。
「いや、これは違います。たまたま、彼女が早く来ておりまして」
「否定されなくても、お互い独身でらっしゃるのですから」
誤解されたままなので、伊藤さんに否定してほしいと頼んだ。
「あっあ、そうですね。そうです全然違います」と、焦ったような言葉に、なんなのその否定はと思った。車に乗っている間、言葉が弾まず緊張しっぱなしであった。
結衣さんは何か楽しそうに伊藤さんと話していた。登山用の服のサイズなどを聞いていたようだ。しかし、私にはこの空気は息苦しかった。
40分ぐらいして、車は東京駅八重洲中央口に着いた。正面付近まで車を回して、そこで降ろしていただいた。
そして、3人で東京駅の玄関に入ると、結衣さんが話し掛けてきた。
「運転手が車を止め次第、切符を買ってきますので、しばらくお待ちください」と言った。すると、回りをキョロキョロしだした。
運転手さんの手配を気にしているのかと思い、まだ、時間は十分なので気にされないようにと伝えると、そうではなく例の人が例のごとくやって来た。
「佐々木刑事、何故ここにいるのですか」
「いや、偶然ですね。私も奈良に出張でして」
「奈良に行くとは言ってませんが」
「いえ。言われましたよ」
それを聞いた伊藤さんが、話していない旨を告げる。すると、言い訳をすることに気を取られていた佐々木刑事が、伊藤さんを見て一言話してきた。
「あれ、伊藤さんじゃないですか。伊藤さんもご一緒ですね。せ・ん・せ・い」と言いながら、私の腕にツンツンと指先で押してきた。
「佐々木刑事、お話をそらさないで下さい。私は助手ですので先生のお供をするのは当たり前です」
伊藤さんに諭されると子犬のような声を出して懇願してきた。
「お願いしますよ。いても立ってもいられないので。昨日、帰りに結衣に頼んで一緒に行くのを頼んだんです。一応、私は私用ですから費用は実費で参りますから」
あきれてしまったが、結衣さんが呼んだのであればと了解した。佐々木刑事は飛び跳ねて喜んでいた。
それを見て一言付け加えた。
「でも、刑事をクビになっても知りませんよ」
「大丈夫です。大阪の母を危篤にしましたから」
「最低なバチ当たり息子ですね」と、伊藤さんが呆れた口調で呟いた。
そんな話をしていると運転手さんが近づいて来た。そして、切符を受け取ったあとゲートをくぐって中に入った。
久しぶりの東京駅だ。コロナ前は学会が年に数回あるので新幹線に乗っていたが、それもなくなり本当に久しぶりだ。確か、広島帝央大学でのシンポジューム以来になるだろうか。
4人は大阪へ向かうために新幹線のホームに着いた。ホームでは、朝から何も食べていないのでサンドウィッチでも買ってきますと結衣さんが言うので、それは困ると言い、旅費も請求の程お願いしますと伝えた。
結衣さんは一連の費用は全て持ちますと言ったが、今回の件は大学と一切関係が無いため、規則上副業は大学の許可がなければ、諸経費といえども、金銭を授受することはできないと話した。
何度も説得を受けたが、横から佐々木刑事が、諭すように話す。
「結衣、我々には善意で動いていることを前提に考えてほしい。お前も心苦しいから言ってくれているとは思うけど、これが先生や俺の立場だから」
結衣さんはそれでもと言い、どのように恩返しをすればよいのでしょうと言うので、この一件が良い方向へ進んだ場合のあなたの喜んだ顔を見ることで十分と笑顔で話した。すると、切符はグリーンなので、差額は支払うとのことであったが、それも含めてということで、納得してもらった。
「学会でもグリーン席は予約できないので楽しみです。それに、伊藤さんをグリーン席に乗せたかったので」と、自分の要望でもあると話した。
新幹線がホームに入って来た。私たちはグリーン車へ。
伊藤さんは走りだし、こちらですと私と結衣さんに手招きをした。伊藤さんにグリーンだから走らなくとも大丈夫だと言った。
今はまだコロナ過の中だから新幹線も空いているし、普通席でもゆったり乗ることができるほどであった。また、ホームでも人がまばらで、コロナ前の東京駅とは全く違った様子であった。
新幹線が動き出し、しばらくして静岡に差し掛かったころ、グリーン席に乗ったことのない伊藤さんが話し掛けてきた。
「不思議ですけど、一般席から見る景色とグリーン席から見る景色って、何か違うような気がするのは私だけでしょうか」
「確かにグリーン席はゆったりしていて、身体的にも楽なので、そのように感じられることはあるかも知れないよ」
横に座っていた佐々木刑事が、話の相槌にも似た言葉を掛けきた。
「実家へ帰る新幹線は自由席だから、伊藤さんがいうのはもっともですよ」
完全に旅行気分の二人が、グリーン席を堪能してはしゃいでいた。
「先生、大阪は初めてですか」
「大阪は初めてです。不思議なことに京都・奈良・神戸は行ったことがあるのですが、大阪は一度も行ったことがありません。何も避けているわけではなく、大阪で開催される行事の時は必ずと言っていいほど他の仕事があったものですから」
「そうですか。大阪は食い倒れって言うぐらいですから、美味しいものがたくさんありますよ。新大阪に着いたら、まずお昼を取りましょうね」
前の席に座っている二人に上から顔だけ出して了解を得ていた。本当に刑事かと少し笑ってしまった。
その時、前の方から視線を感じた。お手洗いに行くと言って席を立ち、帰り際に通路を歩きながら様子を伺ったが、顔見知りはいなかったので、気のせいかと思った。
バイブにしていたスマホが震えた。広告のメールであった。眠りから覚めて外を見ると、新幹線は京都駅に着いていた。あと20分ぐらいで新大阪なので、このまま起きていることにした。
しばらくすると新大阪の表示が出た。先に隣の佐々木刑事を起こし、次に伊藤さんを起こすため席を立ち、前へ行くとドキッとした。伊藤さんの寝顔を初めて見た。硬直したかのように佇んでいたので、佐々木刑事が横から伊藤さんと声をかけた。それにびっくりして目を開けたが、私が目の前にいたのでさらにびっくりしていた。
声を掛けそびれたことを謝ったが、佐々木刑事にアイコンタクトでお礼をした。もしかして・・・。
その後、新大阪駅に着いた。
佐々木刑事は新大阪駅で降りると、先頭を歩いて中央出口へ行き、3人にこっちですと大きく手を振って誘導してくれた。駅ビルにあるイタリアンレストランの前まで行き、此処が安くておいしい店と言って入って行った。
4人は、それぞれ好きなパスタを頼んだ。私は明太子パスタで女性二人はトマト系のクリームパスタを頼んだ。佐々木刑事は、焼きスパ系を注文していた。
その後、それぞれの前に運ばれてきた。私の前には明太子がふんだんに使われたソースに少し炙った明太子の切り身が上に乗った皿が置かれた。一口目でクリームのまろやかな舌触りとその甘さが口いっぱいに広がる。そして、トッピングされた明太子を少し取って口に頬張ると、海の香がクリームのまろやかさになんとも言えないアクセントをつけていた。
女性二人も食べたが互いの顔を見合わせ「美味しい」と言った後、伊藤さんが、パスタを説明し始める。
「新鮮なトマトとぷりぷりのエビが繋ぎのチーズで絶妙にマッチしています」
そして、佐々木刑事だけは、見たことのない量のパスタが来た。私は思わず、これがメガ盛りですかと尋ねると、単に大盛りと答えられたので、大阪侮るなかれと思った。
それからはお腹が空いていたのか、みんな一言もしゃべらず食べ終えた。
「ご馳走様でした」と、全員が一斉に空の皿に頭を下げた。
確かに美味しかった。佐々木刑事の一押しというのも分かる。女性二人も満足している様子であった。そして、お会計を済ませてお店の外に出ると、佐々木刑事がここで待っていて下さいと言い残して、左に曲がって走っていった。
しばらくして、紙袋二つを提げて帰って来た。
「なんですか、それは」
「いや、今日は、梅田という新宿みたいなところのホテルですから、晩御飯の後はウロウロしない方がいいと思います。だから、お酒は部屋で飲んだ方がいいので夜食がわりに豚まんを買いました」
「豚まん、ですか」
「東京の肉まんと同じです。豚肉なので、大阪では豚まんなんですよ。大阪の方が正直でしょ」
「佐々木刑事。少し勘違いしていますね。それは言い方の違いだけです。大阪は牛肉文化なので肉と言えば牛肉のことを指し、東京は豚肉文化なので肉と言えば豚肉を指すからです。だから、呼び名が違うだけです」
「へえー。ちょっと違う意味で覚えていたのか。勉強になります」
「付け加えると、東京でも肉うどんの肉は牛肉ですけどね。まぁ、あまりこだわらない方が良いということです」
「まあ、比べたくなるのは、関西人の悪い癖かもしれませんね。ははははー」と、佐々木刑事が笑い飛ばす。すると、伊藤さんからの突っ込みが入った。
「そこで関西人と言ってしまったら関西の人が怒りますよ。佐々木刑事と違い奥ゆかしい方がほとんどですから」
「伊藤さんは、いつもきっついなあ」と笑いながら、大きな声で返していた。
「ところで、凄く、いい匂いですね」と、私は、佐々木刑事に尋ねた。
「そうでしょう、そうでしょう。大阪では此処の豚まんを知らないと大阪人じゃないっていうぐらい有名なんですよ」と、ニコニコとしていた。
その笑顔を見て「さあ、出発しますか」と、みんなに声を掛けた。
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