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「ロダン早乙女の事件簿 FIRST・ CONTACT」 27

第7章 第2話 謎解き PARTⅡ

令和3年4月12日(月曜日)午後3時半

 私は数々の論文を評価していただき、今年度より教授に昇格した。

 本日、変則的な入学式になった帝央大学入学式で、正装した伊藤さんが話し掛けてくる。
「教授、寂しいですね。入学式が縮小だなんて」

「確かに。昨年は中止であったし、今年こそはとは思っていたんだが。まあ、開催しただけでも良しとしなければならないでしょう。来年こそとは思うけれど」

「そうですね、今年は新入生だけでも出席できたのが幸いです」

「こんなパンデミックなんて早く終息することを願うよ」

「ところで、急転直下でした」

「結衣さんの件だね」

「そうです。結衣さんの件です。ところで、どうしても分からないのですが、何故、あの工事現場に佐々木刑事がおられたのですか」

「昨日、結衣さんが自白したって言っていたから話してもいいでしょう。それでは、お預けはここまでにして、謎解きをしましょうか。それには最初に、いつ、そして、何故、結衣さんがこんなことを計画したかというところからの説明になります。そうだ、先に佐々木刑事があの工事現場にいたのは、電話を聞いていたからだよ」

「どういうことですか」

「保釈に付き合って、近くの公衆電話から結衣さんに電話をさせたんだ。そのあとは、すぐに別れたから、明雄君としては下で待ち構えていたので驚いたらしい。それは、明雄君を尾行していたら、5階のベランダで言い争う声が聞こえたので、とっさに1階の軒下に付いていた落下防止ネットを引き出して、置いてあったトラックに引っかけて助けたんだ」

「教授、謎解きに行く前に、もう一つだけ教えて下さい」

「何かな」

「以前、ビデオを見た時から、佐々木刑事は結衣さんが怪しいと思ったと、お話しされていましたが」

「それは、大阪のホテルでの出来事で、田所弁護士が結衣さんの祖父であることが分かった際、他人への気遣いから田所弁護士のことを祖父の田所と言わずに、顧問弁護士の田所先生と紹介し、田所弁護士も他人事のような雰囲気だったと話すと、佐々木刑事は、緊張をしていたのかもしれないと話していました。しかし、その言動に何かを感じたのかもしれない。後は、ビデオで確信したと思うよ。そして、最後には培ったスキルと彼が結衣さんの友人である前に、刑事であることを選んだ結果だろうね」

「ますます、分からなくなりました。やっぱり、お預けの謎解きをお願いします」

「了解。それでは、お預けの謎解きと行きますか」

「はい」

「始まりは、二朗さんが生きている間に、田所弁護士が、自筆証書遺言を開けた時からでしょう」

「ええ! 勝手に開けてはいけないのではないですか」

「自筆証書遺言は、裁判官が封を切ることになっているからね」

「何故、開けたのが分かったのですか」

「佐々木刑事の調べで、糊の成分が二種類出たらしい」

「教授がお話しされておられた遺言書の件ですね。でも、何がおかしかったのですか。その二種類の糊でしょうか」

「田所弁護士から自筆証書遺言を受け取って、封筒の中から遺言書を取り出す時です」

「何か、不自然なことがありましたか」

「伊藤さんは、触っていないので分からなかったと思うけれど、封をしている紙に微妙な凹凸があったんだ。よく、封書を盗み見するのに、湯気を当ててふやかす人がいるけれど、紙って水分を吸うと少し膨張するんだ。いくら上手く貼り直しても、微妙に違和感がでることがあって、今回はそれを感じたんだ」

「私なら、触っても分からないと思います。でも、それで教授の意図することが分かったなんて、佐々木刑事は一応優秀ですね」

「一応は可哀想だよ」

「えへへ、確かに。それで開けたのは分かりましたが、でも、どうしてですか。自筆証書遺言については、みんなが納得する内容であったし、孫の結衣さんが社長でしたよね」

「それは株数の問題なんだ」

「株数って、どういうことですか。平等でしたよね。株の相続がない四男の力さんが不満を持つのであれば分かりますが」

「一応、結衣さんに不満がないように見えるけれど、相続後の配分を考えてみて下さい」

「結衣さんと明雄さんが45%で、明子さんが10%ですよね」

 伊藤さんは、私が意図することが理解したのか、話を続ける。
「あっ、そうか、分かりました。明子さんの10%ですね」

「そのとおり。現行の会社法では解任は過半数でできるけれども、解任してしまうと結衣さんを社長に明雄君を副社長にという自筆証書遺言に反する行為とも取れるから、解任はできないと思われます。しかし、任期満了まで待てば遺言はクリアーできる。定款上、最長でも十年我慢すればいいだけ。それに、中小企業で累積投票があるとは思えないから、取締役に再任しなければ完全に排除できることになります」

「累積投票って何ですか」

「例えば、三人の取締役を選任する場合、Aさんが70株、Bさんが30株の場合、通常、小規模な会社は三人ともAさんが決めることになるんだけれど、累積投票を取っている会社は、Bさんの30株の三人分、つまり90株を一人の人に使うことができる制度のことです」

「確か、少数株主の為とかでしたね」

「そうです」

「田所弁護士って、実力ないですよって装いながら、タヌキ、いや大ダヌキでしたね」

「伊藤さんらしい表現だね。本当に狡猾な人だ」

「それでどのように計画を立てたのですか」

「できるだけ多く株を手に入れる方法を取ったんだ。まず、法定相続人のうち、四男の力さんは、三千万円という預金を受け取るので了解するでしょう。排除しなくとも株にこだわることはないと考えたと思います。それに、イタリアに住んでいるので、それほど会社経営に興味があるとも思えない」

「そうですね。受け取る金額もかなりの金額ですから」

「すると、あとは、琢磨さんと明雄君だけだ」

「結衣さんには弟がいるらしいけれど、二人が相続人から廃除されれば、自分が最高80%までの株主になると考えたと思う」

「今回は、結果的に明雄君の保釈金と引き換えに、二人から買取ることになり100%になったんだが」

「そこまでの人とは思いませんでした。最初から最後まで良い人だと思っていました。怖いですね・・・。教授、続きをお願いします」

「結衣さんがまず考えたのは、法定相続人をいかに排除すればいいかということです。排除には必要条件として不正をさせなければなりません。そして、結衣さんにとってネックであるのは自筆証書遺言なので、それを覆すための新しい遺言書が必要になってきます。しかし、自筆証書遺言を作り直すには筆跡を真似ないといけないから作成は難しい。だから、公正証書遺言に目をつけたんだと思います」

「でも、遺言の内容を知ったからといって、なりすましまで、どうやって誘導したのですか」

「自筆証書遺言の内容に、一生、平社員として私の下で働くことを意識させたらしい。そして、建設業は、昔から長男系が受け継いでいるのにと殊勝なことを告げたそうだ。最後に、登録をしていないマイナンバーカードの存在をチラつかせたみたいだよ」

「田所弁護士はまだ、白状していないようですが、こんなことを結衣さんだけができるはずがないですよね」

「そうだね。インターネットで調べてできる範囲ではないでしょう。それに、嘘の内容になるけれど、結衣さんが自筆証書遺言の内容を明雄君に伝えて不正へ誘導している。これは、遺言書を田所弁護士が保管していたのだから、彼が開けなければ結衣さんが不利になると分かるはずがない。だから、田所弁護士が関与していることは明白でしょう。そのうちに白状すると思うよ」

「ところで教授は、いつから怪しいと思われたのですか」

「最初に、佐々木刑事と一緒に来た時から疑念は抱いていました」

「最初って。どのあたりからですか」

「話し初めてすぐかな」

「ええ。全然気づきませんでした」

「法事の話をした時に、突然やって来た牧野弁護士に対して【なぜ】今日の法事を知っているのですか、と聞いたでしょう」

「はい」

「その後、私は遺言執行人なので、被相続人の方の諸事情は全て把握しておりますと、ずうっと見張っていたかのような発言のあとに、薄気味悪い感じがしましたと話していたよね」

「私も薄気味悪い気がしたので覚えています。それと【なぜ】とはどのように繋がるのですか」

「普通は、盗聴器でも仕掛けていないと分かるはずがないし、一般の人が盗聴器にさらされる生活を体験することはありません」

「確かに、先生のおっしゃる通りです」

「すると、見張っていたかのような発言ではなく、当然、誰かから聞いたと考えるのが普通です」

「はい」

「すると、一番の除け者である琢磨さんを疑うのが当然のはず」

「私には、他愛のない話と思っていたのですが、帝央大の早乙女此処にありですね。改めて、教授をもっと知りたくなりました」

「あゝ」といって、私は目をばたつかせていた。

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門


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