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「ロダン早乙女の事件簿 FIRST・CONTACT」 28 プロローグへ

第7章 第3話 謎解き PARTⅢ プロローグへ

「あと一つ。寝たきりの人が亡くなったのに、わざわざ行政解剖をしてもらう意味って無いと思うんだ。それは見守りのカメラをチェックすればいいだけだから。まあ、それを見たので、あわよくば、明子さんの株も手に入れようとしたのかもしれないけれど」

「その通りになりました。それでは、その時から怪しいと思われていたのであれば、なぜその後も相談に乗っていたのですか」

「言葉の端々が気になる程度なのと、それに、彼女一人であの計画を立てることは難しいので、黒幕を探したいと思ったからだよ」

「でも、田所弁護士とは思いませんでした」

「私は、佐々木刑事と奈良へ行った時に、佐々木刑事から田所弁護士が結衣さんの母方の祖父と聞いて、この人が絵を描いた人かというのが分かりました」

「そうでした。佐々木刑事もその言葉が引っかかったと言っておられたようですね」

「普通、孫のことを『さん』付けはしないでしょ」

「そうか。それでは、なぜ『さん』付けしたのでしょうか」

「それは、三林教授のおかげみたいなんだ」

 「三林教授が、ですか」

 「三林教授から稀に見る天才だと聞いたと話していたの覚えているかな」

「はい、覚えております。そうか、だから、自分たちの関係性を悟られないほうがよいのではと思って、取り繕うことにしたのですね。それを結衣さんと共有したのですか」

「だから、そのあと・・・」

「そのあと。どうしたのですか」

「いや、ここは推測になるからね。伊藤さんにも常々話しているのに、推測は・・・」

「解決したのですから、多少の推測は込みでお願いします」

「それもそうか。分かりました。4人で奈良の山を調査に行った時、崖から転げ落ちたでしょ」

「はい。あの時は、ヒヤッとしました」

「たまたま、リュックの紐が枝に引っかかったおかげで命拾いしたけれど、仮に、下まで落ちていたら、死ななくとも相当な怪我をしていたはずです」

「佐々木刑事が登山用のロープをもってきてくれていたのはラッキーでした」

「あの時、滑ったのではなく、紐のようなものが足にまとわりつくような感覚だったんだ」

「誰ですか。それも結衣さんですか。なんて人ですか、私の教授を」

 時折、ドキッとさせるよな。

「多分、三林教授の言葉で、そんなに優秀な人間ならば排除しようということになったのかも知れない。それほど優秀ではないのにね」

「教授は、優秀です、とびきり優秀です・・が、だからといって殺そうとするなんて。委任を解除すればいいだけではないですか。ほんとに、なんて人ですか」

「確かにそう通りと思う。ただ、佐々木刑事を介して頼んでいるのに、委任を解除すると何かあると勘繰られると思ったのかもしれない。しかし、これは推測だから証拠がない」

「教授、告訴しましょう。はい、そうしましょう」と、怒り心頭に発するほどの怒鳴り声であった。

「伊藤さん落ち着いて。さっきも話したけれど推測だから。それに、証拠が・・・」と、続きを話そうとすると、話を遮って話してきた。

「教授の推測なら、その辺の証拠より確かですよ」

「そう言ってもらえるのはありがたいけれども、この話はここまでにしておきましょう」

「悔しいです。もう一つ罪が重なると思ったのに」

「じゃ話を戻すね。結衣さんが真犯人だと確信に変わっていったのは、マイナンバーカードが出てきたときかな。マイナンバーカードは、私が先に気にかけたわけではないから」

「どういうことですか」

「マイナンバーカードの話は、結衣さんが伊藤さんに話したのがきっかけであって、私から言ったわけではないよ」

「そういえば、結衣さんから言われたので、それもありますねということになりました。それまでは免許証かパスポートでしたから。さすが天才早乙女教授です」

 少し恥ずかしかったが、続けて話す。
「それに、公正証書遺言の無効の訴えを起こしましょうと言った時、すぐに、はい、分かりましたと言ったこと」

「すぐに、はいと言っただけで、どうしておかしいと思われたのですか」

「素人が公正証書遺言の無効の訴えと聞いたら、どういうことかと聞くはずです。間接的に、他の言葉であっても、何故、マイナンバーカードが3か月前に発行されただけでそれを申立てるのですかと聞くでしょう」

「そうか、そうですよね。マイナンバーカードが替え玉で作られたかもしれないと言われれば分かりますが」

「最終目標は、公正証書遺言の無効の訴えを出すことだったんだと思います。そこへミスリードしようとしていたから、その訴えが出た瞬間に到達したという気持ちが先走ってしまい、口に出たのでしょう。祖父の田所弁護士と入念な打ち合わせをした結果が、仇となったんだと思います」

「教授を利用だけしようとした罰(ばち)が当たったということですね。早乙女教授を甘くみたからですよ。佐々木刑事のことは考えず、三林教授の言葉をもっと信じるべきでしたね」

 確かに、利用されるのは癪(しゃく)であったので、結果的にはよかった。しかし、一歩間違えば犯罪に加担したかもしれなかったので、本当によかったと思う。

「ところで、あの山からサファイアは出ないから」

「それでは、あのサファイアの原石は何だったのですか」

「あれは、強欲な琢磨さんを唆(そその)かす材料として、スリランカから持ち込んだものらしい」

「そうすると、あの山は、何の価値もない山だったのですか」

「いや、あの山は吉野檜が植えてありました。伊藤さんの立派なカメラのおかげです。拡大したら微(かす)かに檜が見えました。お父様に感謝ですね。あの後、一人でもう一度見に行ったんですが、ガイドさんを頼んだら、それほど険しくない別ルートがありました。調査の際、結衣さんに提案したルートです。その道中、両脇に檜が植えてあって、お爺さんと二朗さんが丹精込めて作ったとのことです」

「作ったとのことです、とは」

「たまたま、そこで、山師の鈴木さんという方にお会いして話を聞きました。山師の方は十人ほどいて、二朗さんの子会社が管理運営していました」

「結衣さんは、そのことを」

「知っていました。一年に一度くらいは二朗さんと一緒に顔を見せていたとのことです。家を建てることに信念があったらしく、自前で檜を使いたかったようです」

「そうですか。立派な方だったのですね」

「私を傷つけることに失敗した後は、牧野弁護士等との間で、仮処分などを行った私を見て、一応、琢磨さん達を追い出すまで自由にさせようとしたみたいです」

「やっぱり大ダヌキだ」と、憤懣やるかたないといった様子だ。

「そのあとは、伊藤さんも知っての通り、相続人達の不正を暴いて排除しました」

「でも、最後に教授と佐々木刑事の鉄槌が下ったのですね。ところでASAKURA建設はその後どうなったのですか」

「従業員達のたっての願いで、四男の力さんがイタリアから帰ってきて社長を引き継いだとのことです」

「何か複雑ですけど、会社にとっては良かったのかも知れませんね」

 心の中で、民事と刑事の違いはあるけれど、利益相反と言われても告発したかもしれないと考えていることから、つくづく、弁護士には相応しくないと思った。ただ、今回正義が果たされたのは、伊藤さんの屈託のない笑顔とロダンを支えてくれたことと、優秀な佐々木刑事のおかげであったことは間違いがないと思った。

 私は、津野神記者に、以上が論文にまとめた内容だと話した。そして、推測しているところは論文にはないが、その時に感じた感想などを追加したと説明した。

「ありがとうございました。人の心の中を見るのは、容易ではないことが分かりました。しかし、それこそが真実ではないかとも思いました。記事の下書きができましたら、また、お伺いしたいと思います。今日のお話は、私への最大の贈り物でございます。お忙しい中、本当にありがとうございました」

 彼女は、レコーダーやメモ帳をカバンにしまい、立ち上がって深々と頭を下げて部屋を出て行った。

「教授、お疲れ様でした」

「伊藤さんもお疲れ様でした」

 長い一日が終わった。

「改めて思い起こすと、狡猾な人とその人に振り回された哀れな人達の末路ですね」と、伊藤さんが呟いた。

 確かにその通りの事件であった。

 
新たな事件 4月12日(火曜日)午後4時 
インタビューから3ヶ月後

「教授、入学式、よかったですね。去年や一昨年のような入学式はこりごりですから、それに、教授になって一年が経ちました」

「ありがとう。教授としては、まだまだですが、これからもよろしくお願いします」

「あっそうだ。教授が入学式に出ておられる間に佐々木刑事から電話がありました。4時頃にお伺いしたいとの事です」

「分かりました」

「また、暇潰しですかね。あっそうだ。結衣さんの件で、警視庁刑事部捜査一課一係に配属されたとのことで、やたらと肩書きを、語っておられました」

 ニコニコだなあ。

 しばらくすると、ドアをノックして佐々木刑事がやってきた。

  伊藤さんは、佐々木刑事を見るなりニコニコしながら話し掛ける。
「佐々木刑事、本庁の捜査一課への栄転おめでとうございます。ところで今日は、どうかされたのですか。アポ無し訪問ばかりの佐々木刑事なのに」

「あゝ伊藤さん、お久しぶりです。すみません教授、その節は大変お世話になりました。私のスキルを高めていただきありがとうございました」

「いいえ、あれは、元々あった佐々木刑事のスキルですよ」

「ところでまた、教授に力をお借りしなければならなくなりました。今回は大学に許可を頂いております」と、すごく神妙な面持ちで話し掛けてくる。

「また、相続ですか。いつも、いつも、殺人事件に発展するとは限りませんよ」

「いいえ、今度は、初めから殺人事件です」

 伊藤さんから「ええっ!」という大きな声が漏れた。

「すみません、茶化すつもりでは・・・。失礼しました」と、謝ってその捜査の内容を尋ねた。

「本日の朝に起こったばかりです」

「では、まだ、私の出番ではないと思いますが」

「そうではなく。教授に関係があると捜査本部が見ております」

 それを聞いた伊藤さんが、少し怒ったように話す。
「いくら佐々木刑事といえども失礼ですよ。教授が人殺しなんかするわけがないじゃないですか」

「教授が犯人なんて誰も思っておりません」

「それでは、どういうことですか」

「警視庁へお越しいただいた後に、ご説明させていただけると思います。お時間が許せるようでしたら、このまま警視庁へお越し頂きたいのですがいかがでしょうか。遅くまでかかりますが、できれば、伊藤さんもお願いいたします」

「帳場が立ったんですね。分かりました。すぐに参りましょう。伊藤さん、事務局に退室の手続きをお願いします」

 伊藤さんが「はい」と言い、佐々木刑事が車を回してくると言って、教授室を出て行った。

「警視庁直々の依頼だから交通費や日当は出るはずだから、遠慮せずに伊藤さんも一緒に行きましょう」

「はい、参ります。ところで、不謹慎な質問ですが、佐々木刑事で思い出したことがあります」と尋ねてきた。

「結衣さんとサークル仲間だったとの事でしたが、サークルって、テニスサークルですか」

「いや、違うよ。手芸サークルだって聞いてるよ」

「ええっ!」と言いながら、頭の中で、針と糸をもつ佐々木刑事がみえているようであった。

FIRST CONTACT  完

続編はSECOND CONTACTへ

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門

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