見出し画像

「ロダン早乙女の事件簿 FIRST・CONTACT」 22

第6章 第3話 ピースとピースが

 二人は大学まで戻ってきた。正門をくぐると誰もいないキャンパスが待っていた。やはり、この時間に学生が歩いていないのは淋しい。並木が寒風に震えているかのように揺れている。

 研究棟の玄関に落ち葉が舞い、入るのを拒んでいるようだ。コロナがあってからというもの、落ち葉まで後ろ向きに見える。

 伊藤さんは准教授室を使用する為に、事務局に連絡に行くと言って左の中央棟へ向かった。私は、先に准教授室へ行き鍵を開け中へ入る。

 その後、伊藤さんが入って来ての第一声が、名子さんとの話について、なんと書くかであった。

「そうだなあ。

 ⑯深海魚は誰?

 とでも書いて下さい」

「どういう意味ですか」

「みんなに変な先入観を与えない為の深海魚だよ」

「そうすると先生には真相が見えてきているのですね」

「そうだね。ところで、そろそろ結衣さんから連絡があると思います」

 すると、電話のベルが鳴り、伊藤さんが取るとビックリしているようであった。たぶん結衣さんからの電話であろう。

 結衣さんが何を言ったのか、伊藤さんが、電話口で反応する。
「今しがた先生が、結衣さんからそろそろ電話がある頃と話しておられたので、ちょっとびっくりしました」

 受話器の話口を伏せながら、何故、分かったのかと言い、結衣さんですと言いながら私に受話器を渡した。

「もしもし、早乙女です」

(先生、二朗叔父さんの免許証は再発行されていないと佐々木君から聞いたのですが、びっくりしたことがありました)

「なんですか、それは」

(先生が気にしておられたマイナンバーカードのことです)

「マイナンバーカードについて何か分かったんですね」

(そうです。市役所に聞くと、亡くなる三ヶ月前に発行されておりました)

「それは、興味深いですね」

(叔父は生前、免許証があるから身分証明には不自由しないので作らないと言っておりました。だから、作っているとは思いませんでした)

「それでは、ここで一つ提案です」

(はい)

「公正証書遺言の無効の訴えを起こしましょう」

(はい、分かりました。ご準備お願い致します。私は何をすればよろしいのでしょうか)

「何もなさらなくとも結構です。委任だけ頂ければ」

(それでは)

「ところで、理由は知りたくないんですか」

(あっ、はい。そうでした。教えて下さいませ)

「多分、公正証書遺言は二朗さんが作ったのではありません」

(それはどういうことですか)

「マイナンバーカードは別人のものでしょう」

(では、琢磨叔父さんが成り済ましたのですか)

「いいえ。琢磨さんは踊らされているだけでしょう。真犯人は別にいます」

(それは、誰ですか)

「以外な人物です」

(先生。教えて下さい)

「その前に、訴えを起こしましょう」

(あーっ。聞きたいです。教えて下さい)

 結衣さんの、聞きたいという言葉が聞こえないかのように次のように話した。

「それではすぐに取り掛かるので、準備が出来次第連絡を入れます」

 あのうという結衣さんの声に対して、そのまま受話器を下ろした後、ロダンになった。

 ロダンが解けた後、伊藤さんが尋ねてくる。
「このロダンは、真実に辿り着かれたのですね」

「私の推理が当たっていると思う。後は証拠だ」

「なんでも言ってください。捜査開始ですね。それでは、次は本丸の琢磨さんですね」

「一応、会っておくよ。アポを取ってくれるかなあ」

「ええ。一応ですか?」

 伊藤さんが、少し訝(いぶか)しげな顔をしていたが、見て見ぬふりでお手洗いに行くと言って部屋を出た。実際は琢磨さんに期待することはないと思っている。部屋に戻った私に、伊藤さんが話し掛ける。

「先生、明日の10時にお伺いすることになりました」

「それじゃ、明日は直行しましょう」

次の日 午前10時 ASAKURA(アサクラ)建設前

 いつものとおり伊藤さんが先に到着しており、笑顔で迎えてくれた。

「やっと本丸ですね」と、伊藤さんの顔が少しこわばっていた。

「あっ・・、うん」

「先生。入りましょう!」

 二人は、玄関の自動ドアを通ると、玄関の内側で結衣さんが出迎えてくれた。三人はそれぞれ挨拶をしたあと、社長室で叔父が待っていると言われ、エレベーターで5階まであがって、正面の社長室まで進んだ。

 結衣さんが、ドアをノックし私が来たことをドア越しに伝える。返事はなくもう一度ノックした。
 二度目も声が無かった為、結衣さんが声を掛けながらドアを開けた。虚勢もここまでくると滑稽だと思った。

 中で座ったまま言葉を発する。
「聞こえておるわ!」と、程度が知れる答え方だ。

 結衣さんがソフアまで案内した後、私を紹介して一旦出ていった。

 早乙女と助手の伊藤と名乗ると同時に琢磨さんの返事は、貴方のことは聞いておると傲慢の塊のような返答であった。

「今日はかなり忙しいんですがね」

 机から立ち上がりもせず、右手でソフアに腰掛けるような仕草をしただけだ。

 ドア越しから失礼しますと声を掛けて結衣さんがお茶を持って来た。

 結衣さんも同席して欲しいと願う。すると以外にも了承した。

「この際、わしも聞きたいことが山ほどあるから早く座れ」と続けて、威圧感漂う言葉を投げてくる。

 そして、いきなり戦闘態勢になる。
「外野が色々と嗅ぎ回っとるそうやの。名子専務から連絡があったわ。おまえはどんな魂胆で嗅ぎ回っとるんじゃ。事と次第によっちゃ、俺も俺の回りも黙っとらんぞ」

「私は結衣さんからのご相談を受けて調査をしているだけです。それに付随した作業で名子専務とお会いしただけです」

「聞くところによると合併の件を止めたそうだな。何の権利だ」

「合併ではなく、ZODIAC SIGN(ゾディアック サイン)建設のグループに入るということですが、まあそれはいいとして、一応貴方が主張される株数は70%。残り30%は明子さんと明雄君とこちらの結衣さんが、それぞれ10%ずつを持っています。その大株主である彼女達に相談もなく、つまり株主総会を開かず無視して行うことはできないんです」

「わしは70%持ってる。それに、そんなもの身内ばかりだから関係ないだろうが」

「顧問弁護士の牧野先生にお尋ねになられたらどうですか。株主総会の決議取消の事由には十分なので、その手続きは済ませております」

「何を偉そうに。大学の先生かなんか知らんが、ええ度胸しておるわ」

「今の言葉は、脅迫ですか。それとも・・・」

「忠告だよ。脅迫でもしようものなら警察でも呼びそうだ。最近の夜道は物騒になったってテレビで言っておったから、気をつけるように親切で話しただけよ」

「そうですね、気をつけます。警察から事件等の相談を受けていることから、刑事さんの知り合いも沢山いますから」

 このやろうという言葉を発し、横を向いたまま煙草を吸い始めた。伊藤さんが煙にむせて咳をしたので、結衣さんがやめるように言ったが、お構いなしに我々目掛けて煙を吹いた。

 たまらず結衣さんが、無理やり煙草を取り上げて灰皿に押し付け、叱るように話す。
「二、三、質問されたらお帰りになられるので、もう少し辛抱してください」

 早くしろと言って腕を組んだ。

「それではお聞きさせていただきます」

「公正証書遺言の存在は知っておられたのですか」

「知らん。法事の時に初めて知ったわ」

「でも、牧野先生のことはご存知と聞いておりますが」

 結衣さんがこちらを見たが、気付かないふりをした。

「知っていたらダメなのか!」

「それであれば、公正証書遺言のことは知っていたのではないんですか。先ほどは知らないと言われたのに、少しおかしいような気がするんですが」

「言葉尻ばかり拾いおって」

「言葉尻ではないですよ。知らないという意思を分析しただけです」

「うるさい、うるさい、うるさい! 結衣! よくもこんなやつを連れて来たな。許さんぞ、お前はクビだ!」

 さすがに、黙っていられなくなり忠告として告げる。
「従業員としての結衣さんを、何の落ち度も無くクビになんてできません。普通に話ができない人とこれ以上お話ししても仕方がないので、この辺で失礼させて頂きます」

 私たちはソフアから立ち上がり、一応会釈だけして出て行こうとした。すると、とんでもない言葉を耳にする。

「結衣、塩、塩、塩を持ってこい! 塩を撒け!」

 私達は、その言葉を無視して、結衣さんを残したまま部屋を出た。
 結衣さんが心配であったが、暴力までは振るわないだろうと思い、会社を後にした。すると、結衣さんが追いかけて来て、何度も何度も頭を下げていた。

「なかなか今日は良かったですよ。気になさらないで下さい。それよりも・・・」と、その続きを話そうとすると、琢磨さんが追いかけてきた。そして、私達に塩を撒いた。慌ててその場から飛び跳ねた。
 その後、罵詈雑言という言葉がピッタシの言葉を投げつけられる。私たちは、結衣さんに頭を下げて足早に会社を離れた。

 遠くで琢磨さんが結衣さんを咎めているのを背中で聞きながら、伊藤さんが的を射た言葉を発する。
「お葬式のお清め以外に塩を撒かれるなんて、田所弁護士以来二度目です」

 すると、私はロダンになった。

 その後、先生、何か分かったのですかと伊藤さんの声がした。

「うん、真相が推測から確信へ変わったよ」

 伊藤さんは、すごく嬉しそうであった。

 いてもたってもいられず、今日もタクシーで戻ることを提案して、タクシーに乗車した。

 タクシーの中では、伊藤さんの怒り爆発という感じで琢磨さんの話になった。無理もない。学生相手ではあのような罵詈雑言を聞いたことはないだろうから。申し訳ない気持ちで一杯になった。

 しばらくして大学の正門前に着いた。

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門

いいなと思ったら応援しよう!