「ロダン早乙女の事件簿 FIRST・CONTACT」 20
第6章 第1話 城攻めか? PARTⅠ
「先生、おはようございます」
「おはよう」
伊藤さんは、昨日の明雄さんの件をボードに追加していた。
⑮明雄さんは、二つの遺言書に関して何かを隠している。
「点と点が線で繋がったかと思ったが、明子さん親子で謎が増えたよ」
「そうですね」
「まだハッキリはしていないけれど、公正証書遺言の謎は解けたような気がする」
「そうなんですか」
伊藤さんは聞きたそうであったが、この段階ではまだ話せなかった。
「今日は、名子さんに会いに行くよ。伊藤さん、アポをお願いします」
「はい、わかりました。やっとですね。今日は9時に学生が一人質問に来る予定になっておりますので、それが終わるとあとはありません。11時にお約束できれば致します」
私は、それでお願いしますと伝えた。
10時過ぎ、相談者の学生を見送ると、さあ出かける準備をするかと話し声を掛けて、事務局への外出届を頼むと、既に済ませておりますと言われた。さすが伊藤さんと思った。やはり私にとっては必要な人だ。
電車を乗り継ぎ新宿駅へ。駅の改札を出て、歩いて数分の所にそのビルはあった。
午前11時 少し前
ZODIAC SIGN(ゾディアック サイン)建設株式会社のビルの前に着いた。
「さすが超一流企業ですね。まぶしくて最上階が見えません」と、伊藤さんが呟く。それが大袈裟に聞こえないほどのビルだ。
玄関を入ると正面右横に受付があり、名前を伝えるとフロアー内の椅子に座って待つように言われた。しばらくすると一人の女性が近づいて来て、名子さんの秘書で、松宮と名乗られた。
「早乙女と申します。彼女は私の助手の伊藤でございます」
「名子に仰せつかり、お迎えにあがりました。名子の部屋までご案内させていただきます」
牧野弁護士のビルよりも、もっと厳重そうなビルなのに、あの時のような殺気だった雰囲気が無いのが不思議だ。あたりを見渡していると、松宮さん、どうかなされたのかと言われたので、立派なビルで感心していたと話を逸らした。
二人は入館証を受け取ってゲートをくぐり、左手のエレベーターで55階に降りた。通路は両方にあるが左手を歩き右へ曲がったあと、一番奥の正面が名子の部屋になると言われ、奥まで案内された。
松宮さんはドアの前で止まり、ノックを二回し、私を連れてきたことを話した。中から入るようにという声があり、松宮さんが先にドアを開けて待っていてくれた。その後、私たちは中へ入った。
松宮さんからソフアに座るようにと言われたが、名子さんが来られるまでソフアの横で待っていて、互いに挨拶を交わす。
「初めまして、早乙女と申します。帝央大学で教鞭をとっております。彼女は助手の伊藤でございます。本日は、急なご面会の申し出でにも関わらずありがとうございます」
「名子でございます。明子さんからお世話になっておられるとお聞きしました。それに、先生のお噂はかねがね伺っております」と言いながら、互いに名刺交換をした。
「いい噂ではないですよね。ははははー」
「いいえ、帝央大学に天才あり、それは早乙女先生だと、もっぱらの噂です」
えらい持ち上げ用に、何かあるのかと勘繰るぐらいだ。
「実を言いますと、娘が帝央大学の文学部に在籍しております。早乙女准教授といえば、天才で色々なことに精通されておられる方だと。また、イケメンで女子生徒の注目の的と話しておりました」
横の伊藤さんから不穏な空気が漂っている。右を見ると、背筋をピンとさせて、前を向いているのが不自然であった。
私が言ったわけではないんだが、少し怒っているのだろうか。
「それは誤解どころではないですね。6階7階ですね」
「先生、ユニークな方ですね」
タイミングよくお茶が運ばれて来る。お茶がテーブルに置かれるこの間(ま)がホッとできた。お礼を言った後、そのお茶をゆっくり飲んだ。
「早速ですが、名子さんにお聞きしたいことがあってお伺いしました」
「ASAKURA(アサクラ)建設の件ですね」
「よくお分かりで」
「昨日、明子さんから連絡をいただき、先生にお世話になっていて、今回の相続の相談をしていると。そうしたら本日来られると聞きましたので、丁度良かったのかと。ただ、あまり詳しくは知らないので、お力になれるかどうかは分かりませんが、どうぞなんなりと」
すぐに連絡がいくのだと思った。
「早速ですが、浅倉琢磨さんと面識はございますか」
「ありますよ。以前、社長をされておられたので。確か、私が建設部門の部長の頃でしょうか」
「最近、お会いになられましたか」
「最近では、遺言書の件でお会いしましたね。その琢磨さんがどうかしましたか」
私は、その言葉に反応して、ロダンになってしまった。
