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「ロダン早乙女の事件簿 FIRST・CONTACT」 16

第4章 第5話 調査 PARTⅡ

(まだ山に差し掛かっていないじゃないか)

このうっそうとした奥なのか。初めは道らしき幅があったが、だんだん細くなり枝が前をふさぎ始める。

 これって獣道じゃないのか、ゴールがあるのだろうか。

「結衣さん、まだまだ、でしょうか」と尋ねた私は、いい返事を期待していた。

「地図からいうと、あと7キロほど行くと一旦平地になって、その1キロ先まで登った頂上がゴールのようです。その場所から会社の土地が一望できるようです」

「わかりました。頑張ります」と、私の声は誰が聞いても落ち込んでいた。

 4人は縦に一列で歩いていた。すると、結衣さんが一旦ここで休みましょうかと言い休憩を取ってくれた。

 休んでいると、此処からは私が先導すると佐々木刑事が言ってきた。

 結衣さんに、地図を貰えるかと頼んで受け取る。
「じゃ任せるわ、お願いね」

 また4人は一列になって歩きだした。女性二人に励まされながら頑張っていたが、体力のない私は、佐々木刑事とかなり間隔が空いたので、二人に先に行ってほしいと頼んだ。

「ガンバ」と、伊藤さんに声を掛けられながら、その後二人が追い越して行った。

 しばらくして、二人が見えなくなったと思ったら、何かにつまずき足元を掬(すく)われた様な感じになり、右の斜面を転げ落ちた。雪で滑りやすくなっており、一挙に落ちていった。

 伊藤さんが遅い私を心配して戻って来てくれていたため、滑り落ちる私を見ていた。運良く小さな木にリュックの肩紐が引っ掛かり、ストッパーの役目を果たして止まった。

 伊藤さんの私を呼ぶ声に気付き、佐々木刑事と結衣さんが戻ってきた。

 佐々木刑事が転ばぬ先の杖と話していたリュックの中から登山用ロープを出して、それを大きな木に引っ掛けてゆっくり降りてきてくれた。そして、抱きかかえながら私を上まで引き上げた。幸い骨折等は無いようで擦り傷程度で済んだ。

 伊藤さんは、今にも泣きそうな顔をして声を声を掛けてくれる。
「先生、お怪我はありませんか」

「大丈夫。擦り傷ぐらいだよ」

「足を滑らせたのですか」

「いや、何かが引っ掛かったみたいだったが」

 胸騒ぎはしていたが、周りに誰かがいたわけでもないし、落ちていく時に上を見たが誰もいなかった。

「大丈夫なのでそろそろ行きましょうか」

 結衣さんが、先生、また今度にしませんかと言ったが、足が折れているわけでもないし、この山を見なければ次が始まらないと話し、出発しようと告げた。

 痛くなったらやめましょうと、伊藤さんから言われ『OK』というサインを手で示した。

「伊藤さんの言うことは聞くようにしましょうね」と、佐々木刑事から言われたのであるが、何か変な感じであった。

「それではみなさん。出発進行!」という、伊藤さんの元気のよい声が木霊する。

 それから30分ぐらい歩いた。

 そこで佐々木刑事が聞かされた言葉に安堵する。
「みなさん到着しました、頂上ですよ」

 3人が、頂上からの眺めに浸っていると、結衣さんが、あの左の尾根からあの右の山の麓までが会社の所有のようですと説明した。

「結衣さん、人が立ち入れるような場所ではないですね。二朗さんは関西に出張していたということですが、お爺さんも関西に出張していたということはありませんでしたか」

「そうですね。出張はしていましたが、私はその頃、会計ではなく発注などの事務でしたので、祖父の動向はあまり存じておりません」

「関西、とりわけ奈良に友人とかはおられませんか」

「そもそも祖父は宮城県の出身で、集団就職で東京の金物会社に就職した後、小さな不動産会社に転職し、そこで夜間の工業高校に通(かよ)ったあと、卒業と同時に今のASAKURA建設の前身である浅倉工務店を作ったそうです。その後、埼玉のベッドタウンで成功し、今のASAKURA建設の礎を築いたと聞いております。ですから、関西、とりわけ奈良に友人はいないと思います。祖父が奈良に土地を買っていたことを知ったのは経理を見てからです」

 私は、そうですかと返答する。ということは縁もゆかりもない土地を買った意味はどこにあるのだろうか。しかし、この景色、何か気になる。

 ここから見ると価値のない単なる山林という感じだが、私には分からないものが隠されているような気がする。

「伊藤さん。写真を沢山撮って下さいね」

「はい、ちゃんと取れるように一眼レフを父から借りてきました」

「さすが伊藤っちだ」

「先生。申し上げますが、苗字に『っち』はございません。セクハラと言われても仕方がございません」

 すると、結衣さんが、一言。
「喧嘩するほど仲がいい・・・ですか、先生と伊藤さん、ほんとお似合いです」

「わたしが、いつも叱られています」

「先生。それでは、私がいつもガミガミ言っているように聞こえます」と、『ぷんぷん』という表現が合うような可愛らしい怒(おこ)りであった。

「信頼し合っているのですね」

 すると佐々木刑事は、伊藤さんのカメラを覗き込みながら、話しに入って来た。

「ところでそのカメラ。デジタルカメラじゃなく、プロ仕様の本格的なカメラじゃないですか。それを扱えるなんて凄いですね」

「これは、小さいころ父とよく野鳥の写真を撮りに、山や川に行ってましたので、その時に扱い方を教えてもらいました」

「伊藤さんって、結構アウトドア派ですね。意外な一面を見ました」

「子供のころはおてんばでした」と、笑顔いっぱいで話していた。

(可愛い。いやいや取り消します)

 写真を撮り終えた私たちは、また険しい道を降りて行った。

 途中のスーパー銭湯で汗を流したあと、近鉄奈良駅へ向かう。車の中では山の話になった。土地としては広大な土地ではあるが、正直、価値はあまりないように思える山であったと話し合った。

 その後、近鉄奈良駅から近鉄難波駅へ。

 到着後、ロッカールームからカバンを取りだし、大阪メトロに乗り継いで新大阪駅へ向かった。道中疲れもあってか、あまり会話が進まなかった。

 午後6時30分新大阪駅に着くと、駅中でお弁当を買って新幹線で晩御飯を食べる。食べ終わった4人は終点東京までぐっすりと眠ってしまった。

 東京駅に着いてからは、結衣さんの車で一人ずつ家まで送ってもらった。

 私は最後だったので一つだけ彼女に尋ねた。

「結衣さん。一つお聞きしたいことがあります」

「なんでしょうか」

「今日の出張の件、どなたかに話されましたか」

「はい、明子叔母さんと明雄君には」

「そうですか。ありがとうございました」

「よくなかったですか」

「いいえ、たいしたことではありませんので」

 車は、玄関先に止まった。

「では、ここで。ありがとうございました」と、お礼をした。

 結衣さんは、車の窓を開けて、軽く会釈した後、窓を閉めながら走り去った。

 私は、滑り落ちたことや、誰かを感じたことが気になったが、明日の伊藤さんとの会議のために早く就寝することにした。
 

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門

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