祭りは「見る」より「魅せて」こそ——新たなビジネスモデルで民俗芸能の本質価値に光を当てたい
GOBが2024年春から夏にかけて、広島と秋田で開催した「LOCAL STARTUP-GATE」。同プログラムに参加して、事業検証を行った大学2年生の片桐萌絵(かたぎり・もえ)さんは、その後も複数のビジネスプランコンテストで助成金を獲得するなど、自身の事業を進めています。
彼女が立ち上げている民俗芸能に関する事業と、LOCAL START-UP GATE内での検証の様子を聞きました。
2025年4月25日加筆
2025年4月24日に、片桐さんは「株式会社とらでぃっしゅ」を設立しました。起業の背景は、彼女のnoteをご覧ください。
700年続く地元の祭りが「10年後にはなくなってしまう」
片桐さんは、愛知県新城(しんしろ)市の出身。静岡との県境にあり、広大な面積の9割ほどを森林が占める自然豊かな街です。
その新城市から、車で40分ほど北に向かったところに、東栄(とうえい)町があります。人口はわずか2,600人ほど。65歳以上の人口割合を示す高齢化率は県内でも最も高く、50%を超えています。
そんな東栄町には、片桐さんが愛してやまないお祭りがあります。700年前から続く伝統的な「花祭(はなまつり)」です。毎年冬に、町内の11の地区ごとに開催されています。およそ40種類の舞を2日間夜通しで踊り続け、深夜2時〜3時ごろに登場する「鬼の舞」が一番のクライマックスです。
花祭り目当てに、2,000人ほどの観光客も訪れるなど、東栄町にとって重要な観光資源になっています。片桐さんは、生まれたその年から花祭りに連れて行かれ、いつの間にかどっぷりはまってしまったそうです。
「花祭の一番いいところは、舞っている人だけではなくて、観光客や地元の人も一緒になって和歌を歌いながら、それに合わせて舞うところです。野次もすごい飛んでくるんですけど、その空間の一体感がめちゃくちゃ良くて。すべての人が平等にお祭りを楽しめて、見ず知らずの人でも、気づいたら一緒に肩を組んで仲間になっているような、そんな空間がめちゃくちゃ好きです。1年に1回、帰る場所が現れるような感覚があって、すごく居心地がいい場です」
しかし、700年続いたお祭りも、「このままでは10年後にはなくなってしまう」と、片桐さんは危機感を感じています。
花祭りに限らず、伝統的なお祭り産業は、もともと慢性的な資金難と後継者不足に苦しんできました。コロナ禍での祭りの開催中止は、それをさらに加速させ、地域固有のお祭りは年々姿を消しています。
そこで片桐さんは、2023年10月に「とらでぃっしゅ」という団体を立ち上げ、「民俗芸能専門コンサル」と、民俗芸能を通じた地域体験を提供する「担い手公募プログラム」の2つの事業を通じて、お祭りの保存とリデザインに取り組んでいます。
民俗芸能のコンサル事業——地元・花祭のパンフレットも2ヶ国語で制作
2024年、片桐さんは全国各地の19のお祭りを巡りました。しかしそのうち17のお祭りでは、明確な会場の場所やタイムテーブルなど、観光客にとって欲しい情報が公開されていなかったそうです。こうした「公開情報の不足」が、お祭りが集客に苦戦する要因だと、片桐さんは分析しています。
「とらでぃっしゅとして一番最初に取り組んだのは、地元の花祭の集客でした。私が提案した地区は、町内でも保守的な方で、集客に対してそこまで積極的ではありませんでした。
でも、先ほど紹介したとおり、花祭は40種類の舞が2日間続きます。タイムテーブルがなかったら、観光客の人にとっては、お目当ての舞がいつ始まるかもわかりません。その結果、途中で帰ってしまう人がいたら、お祭りの満足度も低くなってしまいますし、もったいないですよね。だから、時間の目安があって、次にどんな舞が来るかわかるだけでも全然違うのではないか、という提案をして、日本語と英語でそれぞれパンフレットを制作しました」


このように、民俗芸能専門コンサルの事業では、それぞれの民俗芸能の現状を分析した上で、運営実務に伴走しています。伝統を尊重しながらも、「現代社会に適応した民俗芸能の新しいスタイル」(片桐さん)の確立を目指しています。
祭りを「見る側から、魅せる側にまわる」担い手公募プログラム
プログラムは主に3つの内容で構成されます。1つが、「練習会」をはじめとしたお祭りの準備段階への参加、そしてお祭り本番、最後にお祭りが終わった後の地域での交流です。

特に、準備段階における練習会への参加が、特徴の1つです。参加者は、地域の保存会の人たちから直接お祭りの指導を受けることができます。
片桐さんはお祭りについて「見る側ではなく、魅せる側だからこそ体験できる感情がある」と話しますが、まさに、準備段階から携わることで、地域住民との接点も増え、祭りにおける最も特別な体験ができるのです。
実際、2024年7月には、東広島市の「三津祇園祭」でのテストマーケティングも行いました。三津祇園祭は、大名行列が市内を練り歩くお祭りです。なかでも花形は、「やっこ」と呼ばれる人たちで、2人1組になって、3メートルほどの長い棒を投げ合うパフォーマンスが特徴的です。


「しかし、高齢化によって、棒を投げる役を担う人が不足していて『今年はもうやめようか』という話が出ていたんです。それはもったいないと思い、『私が大学生を20人集めるので、やらせてください』と提案しました」
結果的に、定員を超える32人が集まりました。大学生よりも、特に40代〜50代の女性に好評だったそうで、「おそらく、お子さんが自立して時間ができた人たちが、ママ友同士で遊びに来るような感覚で参加してくださったのだと思います」と振り返ります。この取り組み自体も、日経新聞や広島のテレビ局など大手メディアに取り上げられるなど、祭りの担い手不足解消に一役買いました。
さらに、担い手公募プログラムの価値は後継者不足の解消だけにとどまりません。お祭り自体の収益構造の改善にも寄与する可能性があります。
「お祭りを運営している人たちにとって、1番の課題は慢性的な資金難です。祭りの本番だけではなく、練習や準備を含めてより本質的な新しい価値を作り出すことで、担い手不足を解消しながら、保存会へ収益源も増やせる仕組みにしています」
検察官志望も、いつの間にか民俗芸能の世界へ
片桐さんが、最初に祭りの行く末に危機感を感じたのは、コロナ禍で祭りが中止になった中学3年生のときでした。その後、高校3年間は「ずっと祭りのことだけやっていた。フルコミットみたいな。青春を全部舞に捧げていた」そうです。
それでも、祭りを自分の仕事にすることはまったく考えていなかったと言います。
「将来の夢は検察官でした。だからずっと京都大学の法学部を志望していて、そこに落ちたら浪人するつもりだったんです。私立大学も滑り止めで受験していましたが、親に内緒で受験に行かなかったり……(笑)。でも、親が勝手に広島大学の総合科学部に出願をしていて、とりあえず広島旅行ついでのような感覚で受験したら、合格しました。いざ合格すると、大学に行くよね? みたいな流れになって、気づいたらそのまま進学していました」
「しかし、大学に入ったはいいものの、検察官とも関係ない学部だし、授業もオンラインが多く、外にも出ずに漫然と過ごす時間が半年ほど続きました。『今の自分って全然面白くないな』と思って、10月に、ノリでとらでぃっしゅを立ち上げたんです。いろいろ自分を見つめ直すなかで、『自分には祭りしかない』『祭りがめっちゃ好きやん』って気づくことができました」
広島で参加した「LOCAL STARTUP-GATE」で事業検証、複数のビジコンで助成金を獲得
2023年10月にとらでぃっしゅを立ち上げたタイミングから、片桐さんとしては事業化を念頭に置いていました。ただし、「お祭りを盛り上げたい」という気持ちはあったものの、事業として運営するために具体的に何をするのか、誰を対象にするのかなど、具体的なところが詰められておらず、そのヒントを得ようと参加したのが、GOBが開催していた「LOCAL STARTUP-GATE」(以下、LSG)でした。大学の掲示板で案内があったそうです。
LSGは、フィールドワークと講義をセットに、3ヶ月間で事業化の準備を進めるプログラムです。秋田、沖縄など全国各地で開催しており、片桐さんは広島で開催した第2回のプログラムに参加しました。
「LSGを通じて、事業を組み立てる手順や、考えるべきポイントなどを知ることができたのは大きかったです。ワークシートに沿って考えていくうちに、自然と事業らしきものが固まってきて、それに対してメンターや参加者の皆さんからさまざまな意見をもらえきました。私のやろうとしていることが社会からのどのように見られるかを知れて、事業をさらに前へ動かすモチベーションになりました」
また、「お金が汚いものではないと思えるようになった」ことがLSGで得た一番大きな学びだったと振り返ります。
「以前は『お金を稼ぐ=祭りを利用して自分の利益を得る』という意識があり、お金への抵抗感がありました。そのため以前は、祭りの参加者からお金をもらうという考えは一切捨てていたんです。でも、人とお金を循環させることが事業にとって不可欠だと理解できてからは、お金を買いすることによって、さらにお祭りの本質的な価値を高めて、関わる人も増えていくような道筋が見えてきました。先に紹介した担い手公募プログラムのビジネスモデルも、こうした考えから発想したものです」
こうしたモデルは周囲からも好評で、その後参加した「ひろしまベンチャー助成金」(主催:公益財団法人ひろしまビジネス育成基金)ではグランプリ、「第8回中国地域女性ビジネスプランコンテストSOERU」(主催:中小機構中国本部、中国地域ニュービジネス協議会、中国経済連合会、日本政策投資銀行、中国経済産業局)では大賞、キャンパスベンチャーグランプリ中国大会(主催:日刊工業新聞社)でも最優秀賞を受賞しました。
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片桐さんは当初、大学を卒業する2027年の法人化に向けて準備を進めていく予定でしたが、今はノっていて周囲の人からも「いますぐやっちゃえば」と言われることもあるようで、創業時期は迷っているとのこと。それでもまずは、足元の検証を進めて、事業の形を固めていきたいと話します。
そんな片桐さんですが、LSGでの縁もあり、この2025年1月からGOBにインターンとして参画してくれることになりました。GOBとしても、片桐さんが自身の事業と、GOBでの活動をうまくつなげられるようにサポートしていくつもりです。
岡山や広島を中心に活動の輪を広げていくことになると思うので、今後出会う際にはぜひよろしくお願いします。
片桐さんが運営する「とらでぃっしゅ」の日々の活動はInstagramをご覧ください。
2025年4月25日加筆
2025年4月24日に、片桐さんは「株式会社とらでぃっしゅ」を設立しました。起業の背景は、彼女のnoteをご覧ください。
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