漫画家アシスタント物語 古い話で章〈10〉 土下座するためにやって来た!
《 写真上: 東京目白の住宅街を撮影したものです。俗に高級住宅街というやつですが、人の気配というものがあまりありません。ちなみに、師匠のジョージ先生の家は、この場所から近い所にありました。2014年2月、撮影 》
< この「古い話で章〈10〉」は、文庫本約8ページ分 >
「古い話で章」は、独立した「章」ですので、「諦めま章」の続きではありません。 無料で、各話、お楽しみいただけます!
ただし‥‥ 各話が連続していますので、「古い話で章〈1〉」から読みいただく方がよろしいかと思います。
はじめての方は、「マガジン:第1章、第2章」(無料)がお薦めです!
その19
《 漫画家アシスタントが・・・母親について想う・・・!? 》
「 覚えてるよ、加川君だろう! 」
「 先生、お久しぶりです! 」
1968年から69年にかけて、当時の〇ン月影先生がアクション劇画を描いていた事は前回もお話しましたが、その仕事場へ行った時に、〇ン先生は加川さんを覚えてくれていました。
実は、加川さんは3年ほど前の中学生の時にファンとして〇ン先生を訪ねていたのです。
中学生だった当時の加川さんが少し大人になった姿を嬉しそうに眺めながら、静かに話を聞いてくれました‥‥‥‥( 〇ン先生は、加川さんが青年になって、訪ねてくれたことが嬉しかったんだと思います )
「 近いうちに俺のアシスタントになるか‥‥ 」
仕事のない加川さんに、そう言ってくれたのです。
そして、別れ際に‥‥
「 その時には、こちらから連絡するからな 」
確かに、そう言ってくれたのです‥‥‥‥
その言葉に期待して、加川さんは毎日、〇ン先生からの連絡( 手紙 )を待つことになります‥‥‥‥
しかし、いつまで待っても‥‥‥‥ その手紙が来る気配もありません‥‥‥‥
何で連絡がないのか‥‥‥‥‥‥‥‥ 毎日、悶々として過ごすのですが‥‥‥‥ 連絡してくれない理由が思い当たりません‥‥‥‥
しばらく経ったある日、加川さんは母親に‥‥‥‥
「 〇ン月影って人から手紙か何か届かなかったかなぁ? 」
‥‥と、問いただすと‥‥‥‥
「 ああ、来てたけどね 」
「 えっ!? 」
「 破いちまったよ! 」
母親のキッパリとした返事に茫然とする加川さんですが、同時にムラムラと怒りが込み上げて来ます‥‥‥‥
『 俺の人生をメチャメチャにするつもりなのかよ! 』
怒りと憎しみを爆発させ、怒鳴りあいの親子喧嘩が始まります‥‥‥‥
当時を振り返る加川さんは、真剣な表情で話してくれますが‥‥‥‥ ふと、表情を和らげると‥‥‥‥
「 あん時は、腹が立ったけど‥‥‥‥ その結果としてジョージ先生との出会いがあったんだから、恵まれてたと思うよ‥‥‥‥ 本当に 」
確かに、この事があって後に加川さんは、ジョージ先生の仕事場を訪ねる事になるわけです‥‥‥‥
当時、水商売をしていた加川さんの母親は、自分の息子だけには堅気の仕事をしてもらいたいと、漫画を描くこと自体に反対していたのです。
あの時代、漫画なんてバカの読むもの、読めばバカになるのが漫画、漫画家なんて職業を誰も「 仕事 」とは認めていませんでした。
ただの「 道楽者 」とか「 遊び人 」としか見てはいませんでした‥‥‥‥ そんな時代でしたから、母親がわが子の将来を思って〇ン先生の手紙を破いた事も無理のない‥‥‥‥ 時代だったのかも知れません。
私も子供の頃に、母親に怒られる時に、「 マンガなんか読んでるからバカになるんだ! 」と怒られ、「 マンガ本なんか全部捨てちゃいなさい! 」と脅された事が何度もありました‥‥‥‥
ところで、加川さんの母親ですが、私は2,3度会った事があります。
確かに漫画や、漫画を描いている人間を嫌っている雰囲気があって、ちょっと怖いような雰囲気が少々‥‥‥‥
加川さんの母親について、後日談があるのですが‥‥‥‥ それは、次回に!

その20
《 漫画家アシスタントが・・・母親に驚く!? 》
結局、〇ン月影先生からの手紙が母親によって破られてしまった事で、アシスタントになる予定は完全に狂ってしまったわけです。
加川さんの母親は、〇森プロでアシスタントをやっていた頃から、息子が漫画の世界で生きてい行く事には反対していました‥‥‥‥ 出来るものなら漫画と手を切らせたいと。
漫画家に成りたいとか、アシスタントに成りたいとか言っている息子が、まるで、覚醒剤を欲しがる薬物中毒患者のように見えていたのです。
息子に来た手紙をビリビリと引き裂く時の気持ちがどんなものだったかは、わかりませんが‥‥‥‥
破られた側の気持ちでしたら、少しは分かります‥‥‥‥
もし、私の敬愛する漫画家からの、アシスタントの誘いがあったであろう手紙を破かれたら‥‥‥‥ きっと、親子関係が崩壊していたかもしれません。
加川さんが絶望感に打ちのめされ、母親を憎んだとしても、無理からぬ事だったと思います。
弟子入りするつもりでいた〇ン先生からの連絡を無視してしまった事で、他の先生への弟子入りを考える加川さんでしたが‥‥‥‥ その先生こそ、ジョージ秋山先生だったのです。
ジョージ先生との出会いや、その経緯については、次回以降に書くつもりなのですが‥‥‥‥
今は、加川さんの母親のエピソードについて続けたいと思います。
1969年2月、加川さんは19歳で秋山プロに入ります。
ゴム製玩具の会社に就職後、レストラン、漫画家アシスタントと仕事を変えていた加川さんが、右耳に赤鉛筆をはさみ、小脇に競馬新聞を持ってジョージ先生に面会しました。
競馬場で遊んだ帰りに立ち寄ったような‥‥ 軽薄な態度‥‥ ところが、ジョージ先生もコーラを何本も飲ませようとするとぼけた態度‥‥ 秋山プロでも伝説のように語り継がれています。( このお話は、次回以降に )
度胸だけは一人前、実力よりも自信とポジティブ重視の加川さんが、( なぜか気が合う )ジョージ先生から弟子入りを許されてから、しばらくした頃の事です‥‥‥‥
「 マンガなんて、子供じゃあるまいし! 」と軽蔑していた母親が、突然、加川さんに‥‥‥‥
「 先生の仕事場って何処だい? 」
どうも、ジョージ先生に会いに行くつもりの様子‥‥‥‥ 急に不安になる( 寒気がしてくる )加川さんですが、先生の仕事場の住所を正直に教えます‥‥‥‥
その日、いつものように仕事をしていると、仕事場にこの母親がやって来たのです‥‥‥‥
加川さんは、不信と同時に、いったい先生の仕事場で何をやらかすつもりなのかとハラハラしたそうです‥‥‥‥
母親は、普段とはまるで違う余所行きの着物を着こみ、先生のデスクの近くへ向かいます‥‥‥‥
加川さんが「 あっ 」と驚いたのは、その瞬間でした‥‥
母親は、突然、デスクに向かう先生の足元に、膝をついて土下座したのです!
加川さんだけではなく、他のスタッフも驚くのですが、なにより驚いたのはジョージ先生‥‥‥‥
母親は、深々と頭を下げ、床に額をこすりつけながら‥‥
「 先生っ! 」
「 ‥‥‥‥‥‥!? 」
「 先生、息子を‥‥ どうか息子をよろしくお願いいたしますっ! 」
ジョージ先生は、すぐに椅子から立ち上がると、拝むように土下座する母親の両肩を抱えて立ち上がらせます。
そして、優しく、静かに、母親の話す言葉にジッと耳をかたむけていたそうです。
それにしても、何故、あれほどアシスタントになる事を嫌っていた母親が、ジョージ先生の所へあいさつに来たのか‥‥‥‥?
「 俺がいろいろ言っちゃったんだよ 」
今では、結婚して、娘さんが社会人になる加川さんが複雑な表情を浮かべながら‥‥‥‥
「 オフクロから手紙を破いたって聞いた時に『 俺の人生だろ! 』って‥‥‥‥ 」
『 なんで俺の人生をぶち壊すんだよ! あんたの人生じゃね~だろっ! 』
厳しく母親に詰め寄った事で、母親がしばらくの間、悩み続けたのではないか‥‥‥‥ そう加川さんは話してくれました。
仕事場で、母親が帰った後でジョージ先生は小さな声でポツリと‥‥
「 おめぃ~の母ちゃん‥‥ イ~母ちゃんじゃねぃ~か 」
「 漫画家アシスタント物語 古い話で章〈11〉」へつづく・・・・
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