漫画家アシスタント物語 諦めま章〈2〉 あいつのクソに違いない!
《 写真上: 目白の秋山プロ仕事場風景。すっかりゴミ屋敷‥‥2007年 》
< この諦めま章〈2〉は、文庫本約9ページ分 >
「諦めま章」は、独立した「章」ですので、「第9章」の続きではありません。 ほとんどは、雑多な回想ですが、一部連続していますので、やはり、この「諦めま章〈1〉」からお読みになる事をお勧めいたします。
それから‥‥
はじめての方は、「マガジン:第1章、第2章」(無料)がお薦めです!
その3
《 漫画家アシスタントが・・・編集員を怒鳴りつける!? 》
先輩の吉さん( 2007年当時、54歳位、スポーツマンタイプ )は、私が秋山プロへ来てから自分の漫画より背景画一直線の真面目な人で、その仕事にも完璧なほど繊細で優れたデッサン力を発揮していました。
私よりも2歳年上だった吉さん、私には親切で優しかったのですが‥‥ 仕事場を辞めた長さん( 07年当時、55歳位 )には、とても冷淡でした‥‥
人間というものは、ウマが合わないというか、相性が悪いというか‥‥‥‥ 理由が分からないが仲が悪いという事があるものです。
ある日、私の正面のデスクの吉さんが煙草をもみ消しながら‥‥
「小池君‥‥」
「はい」
「 最近、うちに無言電話がかかってくるんだ‥‥ 」
‥‥と言って、その無言電話を何故か長さんからだと決めつけている吉さんでしたが‥‥‥‥
実は、長さんが吉さんに無言電話するほど、憎しみを抱く様な事は何も無かったのです。 怪我を負わされたとか、物を盗まれたとか、名誉を棄損されたとか‥‥ そういった具体的なトラブルがまるでないのですから。
つまり‥‥‥‥ 30年一緒に仕事してきた仲なのです。( 時には同居して同じ釜の飯を食べた仲 ) 迷惑電話や嫌がらせなどする理由がまるでないのです。
本当に、お互いに恨みを抱くほどの事など何も無かったのですが‥‥‥‥ ( 嫌っていたのは確かですが )
しかし、悲しいかな‥‥‥‥ 一度、疑惑の虜になると‥‥‥‥ そこから抜け出すことは容易なことではありません‥‥‥‥
当時、私は数回「 長さんから無言電話 」を受けたという話しを吉さんから聞かされていたのですが、たいして気にもしていませんでした。( バカバカしい! )
しかし、その日は「 バカバカしい 」では済まない事が起きました‥‥‥‥ でも‥‥‥‥‥‥ やっぱりバカバカしいかなぁ‥‥‥‥
お昼過ぎにアシスタントの仕事場へ電話がかかってきたのです‥‥‥‥
多くの場合、スタッフの身内からか、編集員からの電話ですが‥‥‥‥ デスクの脇に置いてある受話器を取った吉さんが黙っています‥‥‥‥( 例の無言電話か?! )
‥‥そして‥‥‥‥ 他のスタッフがビックリする様な大きな声で‥‥‥‥
「 いい加減にしろ、このハゲッ!! 」
普段の秋山プロでは、ほとんど会話もない静かな雰囲気( ラジカセの音だけが流れる )なのですが‥‥‥‥
この時の声は、かなり大きく室内に響きました。
ガチャンッ!
受話器を叩きつける様に置くと、吉さんは腹立たしそうに自分の担当する原稿に向います‥‥‥‥
この「 ハゲ 」というのは、長さんの事です。 少し、頭の毛が薄くなっていたので‥‥ そう罵倒したのだと思われます。
しかし、「 無言電話 」といっても‥‥‥‥ 回線の状態で、通話出来ない事はよくある事ですし‥‥‥‥
‥‥‥‥少しすると、また電話が鳴り出します‥‥‥‥‥‥
「 チッ! 」
激怒した様に舌打ちしながら、吉さんがまた受話器を取り上げます!
「 ‥‥‥‥‥‥は?! 」
相手は編集員でした‥‥‥‥ 電話をかけ直して来たのです!
「 ‥‥‥‥あ‥‥ さっきの‥‥‥‥ す、すいませんでした‥‥‥‥ はい‥‥‥‥ はい‥‥‥‥ 分かりました‥‥‥‥ 」(汗)
ジョージ先生への伝言を頼まれて先生の部屋へ向かったのですが‥‥‥‥ かなりバツが悪かったと見えて背中を丸くしていた後ろ姿を今でも時々思い出します。
こんな事があった後でも、吉さんの長さんへの猜疑心は解消しませんでした。
それどころか、長さんが秋山プロを辞めた2005年1月から、1年、2年と時間が経つうちにどんどんそれは酷くなっていったような気がします。
吉さんと話していると必ずこの「 無言電話 」の話を聞かされるので、私も他のスタッフも実際対応に困っていました。
「 長さんが、そんな事するとは思えませんが‥‥‥‥ 」
‥‥と、言う意外に言葉がありません‥‥‥‥
だいたい、長さんが吉さんに恨みをもつ理由がまったくない。
仕事場を辞めたのも、長さんの個人的な事情があったからで、別に吉さんから意地悪されたわけでもなんでもない。
仕事を辞めれば、まったく関係のない二人なのに‥‥‥‥( 正直、私にはど~でもよい事だったのですが )
ところが‥‥‥‥
さらに想像もしなかった様な出来事が起きます‥‥‥‥
バカバカしいと言うか‥‥‥‥ 何というか‥‥‥‥‥‥
何であんな事が起きるのやら‥‥‥‥‥‥‥‥

その4
《 漫画家アシスタントが・・・先生の駐車場で・・・!? 》
「 駐車場でクソしやがった! 」
いったい何の話か分からない私( '08年当時、53歳 )は‥‥
「 く‥‥ くそぉ‥‥? 」
吉さん( 2007年当時、54歳、アシスタント歴38年 )は不愉快そうに‥‥
「 地下の駐車場でクソした奴がいるんだよ‥‥ 先生の( ジョージ先生が所有するスペース )‥‥ 俺がいつも使っている場所に‥‥! 」
「 奴‥‥‥‥って、犬か猫じゃないんですか? 」
「 違う、あれは人間のクソだよ! 管理人も人間だろうって言ってた! 」
「 ‥‥‥‥‥‥ 」
「 きっと、長さん( 2007年当時、55歳、05年に退社 )だ‥‥! 」
秋山プロが入っている東京目白のマンション地下には大きな駐車場があり、そこには一箇所ジョージ先生が専有するスペースがあるのですが、そこにはいつも吉さんが自分の車を駐車させていました。
2年前に秋山プロを辞めた長さんは、西武池袋線沿線のかなり遠くに住んでいたので、どんな理由があるにしろ目白くんだりまで来て、ジョージ先生の駐車場で排便するとは思えません。
だいたい、長さんが吉さんや先生に恨みをもつ理由など、何も存在しません。
仮に犬や猫のクソではなく、人糞だったとしても通行人( 又は酔っ払い )が我慢できずに無断で地下駐車場へ入って来たのかも知れません。
いや、それ以外にもマンションの関係者や、通りがかりや‥‥‥‥ いくらでも想像する事は出来るわけで‥‥‥‥
吉さんの「 長さんがクソしたんだ 」の一点張り‥‥‥‥ これには私は、あまりのバカバカしさに返事をする気にもなりませんでした‥‥‥‥
しかし‥‥‥‥
そうした私の( 冷たい )態度は、吉さんにとっては不愉快だったかも知れませんが‥‥‥‥‥‥
よく考えてみれば、長さんは車には興味のない人だし、地下の駐車場の事など何も知るはずはなく、悪意を持ってイタズラするにしろ、排便する事を考えるほどの「 狂気 」を持ち合わせているはずもなく‥‥‥‥
2年前に務めていた会社の駐車場まで、電車に乗ってやって来て、危険を冒してまで排便していく‥‥そんな話を誰が真に受けるでしょうか。
長さんが30年間一緒に仕事をして、他人の悪口を言っているのを聞いた事がありませんし、また、人を傷付ける様な事をしたのを見た事もありません。
そんな長さんの事を、吉さんだって知っているはずなのですが‥‥‥‥ 猜疑心とは恐ろしいもので‥‥‥‥‥‥
「 きっと、あいつのクソに違いない! 」
そう思い込んでいる吉さんには、私の言う言葉など耳に入らぬようでした。
吉さんはさらに他のスタッフにも同じ事を話しているのですが、そのスタッフからはキッパリと‥‥
「 長さんは、絶対にそんな事をする人じゃない! 」
‥‥と注意され、怒った吉さんとそのスタッフが言い争いになってしまった事もあったのです。
いつも、私にニコニコと‥‥
「 小池君、ブログを楽しみにしてるんだよぉ 」
「 もっと早く書けないのかよ~ 」
「来週のやつ、楽しみにしてるよ~」」
以前は‥‥ そう言って、私のブログを面白そうに読んでくれていた吉さん‥‥‥‥
そして、このブログのための取材にも快く協力してくれていたのに‥‥‥‥ すっかり気まずくなってしまいました。
私が吉さんの話に耳を貸そうとしなかったからなのか、吉さんの「 無言電話 」や「 駐車場のクソ 」の話をブログに書かなかったからなのかは分かりませんが‥‥‥‥
( 2023年現在、今から考えると‥‥ 2007年当時、ブログの記事がこの長さんを主人公にして数ヵ月展開していた事が不愉快だったのかも知れません )
この頃から、私のブログへの興味も冷め‥‥ 毎週の様に言ってくれていた‥‥
「 早くつづきを書いてくれよ‥‥ いつも楽しみにしているよ! 」
吉さんの‥‥ 笑顔のやさしい言葉でしたが‥‥‥‥
もう二度とそんな風に言ってくれる事はありませんでした‥‥‥‥
「 漫画家アシスタント物語 諦めま章〈3〉」へつづく・・・・
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